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2024.04.12 18:56:25

iPS細胞を全自動作製できる技術を開発…京大財団とキヤノン、費用大幅減・品質安定

 医療用のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を患者本人の血液から自動的に作製する技術を、京都大iPS細胞研究財団(京都市)とキヤノン(東京)が共同開発した。iPS細胞の作製費用を大幅に減らせるといい、来年の実用化を目指している。

 iPS細胞は血液などの細胞に複数の遺伝子を導入して作製する。患者本人のiPS細胞を作り、筋肉や神経などの細胞に変化させれば、移植しても拒絶反応が起きにくく、免疫抑制剤を使う必要がない。病気やけがで失われた体の組織や機能の再生が期待できる。

 ただ、従来の手作業での作製では専用施設の整備や維持、技術者の人件費などのコストがかさみ、1人分の作製に約4000万円かかるとされる。

 キヤノンなどが開発した方法では、血液から赤血球など不要なものを取り除き、残った細胞に遺伝子を導入。できたiPS細胞を増やして回収するまでの約20日間の工程を自動化する。

 全自動の装置が完成すれば、人の手が必要なのは血液や試薬のセットと、iPS細胞を回収した容器を取り出す作業だけとなり、品質の安定につながるという。臨床試験などを行う大学や企業に対し、作製したiPS細胞を提供し、患者に移植することを想定している。

 財団は、患者本人の細胞から医療用iPS細胞を短時間に安価で作製する「my iPSプロジェクト」の一環として、この技術開発を進めており、1人あたりのコストを「100万円程度」に下げる目標を掲げる。キヤノンメディカルシステムズ研究開発センターの山口陽介さん(45)は「できるだけ早く患者由来のiPS細胞を作り、治療に生かしたい」と話している。

2024.04.12 13:54:46

子どもへの「付き添い入院」医療機関の4割要請…こども家庭庁調査、保育士らの手厚い配置促す

 こども家庭庁は12日、入院する子どもの世話を家族が泊まり込みで行う「付き添い入院」に関する実態調査の結果を公表した。入院する際に約4割の医療機関が付き添いを家族に要請している実態が明らかになった。

 調査は、全国の医療機関約350施設に対し、アンケートなどで実施した。43・6%が「子どもの病状を勘案し、基本的に付き添いをお願いしている」と回答し、家族の付き添いが難しいため、入院できなかったり、転院を調整したりしたケースも確認された。

 付き添いを要請する理由として、子どもの年齢が小さいことを挙げた施設が多かった。8割超の医療機関が寝具を貸与しており、宿泊施設と連携し、院外で就寝できる仕組みを整えている事例もあった。

 公的医療保険制度では、患者の年齢を問わず、入院中の看護は看護師らが担うものとされている。制度上、家族の付き添いは任意だが、付き添い入院によってケアが長期にわたり、体調を崩す事例が多いことなどが問題になっている。

 政府は6月から新たな診療報酬を適用し、保育士らの手厚い配置を医療機関に促すなどして、家族をサポートする体制を整える。

2024.04.10 10:58:58

糖尿病患者にブタの膵臓組織を移植、国際医療研など臨床研究…特殊カプセルに包み拒絶反応を防止

  膵臓(すいぞう) の細胞が正常に働かない1型糖尿病患者に、ブタの膵臓組織「 膵島(すいとう) 」を移植する臨床研究を、国立国際医療研究センターなどのチームが来年にも実施する計画であることがわかった。移植した組織から血糖値を下げるホルモンがつくられ、注射治療が継続的に必要な患者の負担軽減につながる可能性がある。実用化すれば、移植用の臓器不足の改善が期待できる。

 人とサイズが近いブタの臓器や組織を人に移植する治療法は「異種移植」と呼ばれ、次世代の医療として注目されている。国内で腎臓や心臓などの病気に対して複数の移植計画があるが、実施例はない。

 同チームの計画では、生後2~3週間のブタの膵臓から、血糖値を下げるインスリンホルモンを分泌する細胞の塊「膵島」を取り出す。人に移植したときに起こる拒絶反応を防ぐため、直径0・5~1ミリ・メートルの特殊なカプセルで1~3個程度の膵島を包む。

 そのうえで、数十万個の膵島を1型糖尿病患者の体内に移植して壊れた細胞の機能を代替させる。カプセルには微小な穴があり、血糖値の上昇に合わせてインスリンが放出されると期待できるという。移植手術は、国の認定を受けた委員会などの審査を経て来年にも実施する。

 死亡した人から提供された膵島を患者に移植する治療は2004年以降、国内でも行われているが、提供者(ドナー)不足が課題だ。ブタの膵島を使った異種移植も1990年代からニュージーランドなどで行われ、一定の有効性が確認されているが、細胞の加工設備などに課題があった。

 同センターは2019年、移植する膵島を免疫細胞の攻撃から守るカプセルで包む製造施設を整備した。霜田雅之・膵島移植企業連携プロジェクト長は「免疫抑制剤を使わないで済む可能性が高く、体への負担も軽い。インスリン注射なしで生活できる治療を目指したい」と語る。

 他にも、神戸大や福岡大などもブタの膵島移植の実用化に向け研究を進めている。04年に人の膵島移植を国内で初めて行った松本慎一・神戸大客員教授は、「ブタのインスリンは、薬として広く使われてきた歴史があり、十分な効果が見込まれる」とみている。

 日本膵・膵島移植学会理事長の剣持敬・藤田医科大教授(臓器移植科)の話「ドナーが少ない中、うまくいけば患者へのメリットが大きい。長期的に拒絶反応が起こらないかや、効果が十分得られるかなど、慎重に検証する必要がある」

 ◆ 1型糖尿病 =インスリンを分泌する膵臓の細胞が壊れ、自分でインスリンを十分作れなくなる病気。若い人が発症することが多く、国内患者は10万~14万人いる。インスリン注射などの治療法があるが、重症例では血糖値をうまく調整できず、失神や腎臓の合併症などを引き起こすことがある。生活習慣が発症に影響し、中高年に多い2型糖尿病とは異なる。

点滴や注射で患者負担小さく、「異種移植」への抵抗感にも配慮を

 ブタの膵島を移植に使えるようになれば、1型糖尿病治療の大きな転換点となる。

 膵島移植は点滴や注射で実施でき、大がかりな手術が必要な膵臓移植よりも患者への負担が小さい。だが、提供者不足や移植体制が十分でないことから、国内の移植は数十人にとどまる。

 このため、患者にとって膵島の異種移植への期待は高い。今回の研究資金は、患者団体「日本IDDMネットワーク」(佐賀市)も協力している。ふるさと納税などの寄付で国立国際医療研究センターを含む約10か所の研究機関に、計約4億円の研究費助成を行ってきた。岩永幸三理事長(61)は「患者は子供の頃からインスリン注射を毎日打たなくてはならず、本人も家族も負担が大きい。いつか治る病気にしてもらいたい」と語る。

 ブタを使った異種移植は米国が先行し、すでに心臓や腎臓の移植が行われた。日本も、動物の臓器や組織を医療に使うことに対する国民の心理的な抵抗感に配慮しながら、実用化に向けた体制整備を進める必要がある。(科学部 鬼頭朋子)

2024.04.09 15:28:05

災害時に「スマホ位置情報」を自治体が取得…救助や安否確認の迅速化へ、総務省調整

 総務省は地震や台風などの大規模災害時、被災自治体が安否不明者のスマートフォンの位置情報を取得できるようにする方向で調整に入った。現在、位置情報を取得可能なのは警察などの一部機関に限られており、救助や安否確認の迅速化に向け、今夏までに制度を見直す。

 通信事業者は個人情報を保護する義務を負っているが、国のガイドラインでは、救助が必要な人の「生命または身体に対する重大な危険が切迫している」場合に限り、「警察、海上保安庁、消防、その他これに準ずる機関」から要請があれば、位置情報を提供できると定められている。

 今年1月の能登半島地震では、石川県が作成した安否不明者リストを基に、総務省消防庁がNTTドコモにそれぞれの位置情報の提供を求めた。その結果、68件の位置情報が寄せられ、金沢市内の病院にいることなどが分かり、不明者の絞り込みに役立った。

 位置情報の取得が一部機関に限定されているのは、位置情報のプライバシー性が極めて高く、電気通信事業法が「通信の秘密の保護」を定めているためだ。ただ、通信の秘密も「公共の福祉」の観点から、一定の制約を受けるとされる。

 総務省は国などを経由せず、自治体が安否不明者の位置情報を直接取得できるようになれば、不明者がいる場所を速やかに特定し、より効率的な災害対応を実現できると期待している。

 制度の見直しでは、ガイドラインが規定した「その他これに準ずる機関」について、自治体が災害時に首長をトップとして設置する災害対策本部が該当するとみて、通信事業者への位置情報の提供要請を容認する案が浮上している。

 自治体の危機管理担当部署を「準ずる機関」と解釈したり、ガイドライン自体を見直したりする可能性もある。

 総務省は通信事業者各社と制度設計に関する協議をすでに始めている。スマホが水没などで圏外の場合、過去の位置情報を提供することの是非を含め、早ければ6月頃までに結論を出す方向だ。

2024.04.09 12:45:31

新型コロナ特例貸付、昨年の返済は37%…今後も同率推移なら6000億円以上が回収不能の可能性

 新型コロナウイルスの感染拡大期に生活困窮者らの暮らしを支えるため、計1兆4431億円の貸し付けが行われた国の特例貸付制度で、2023年の返済額は、予定された1047億円の37%にとどまったことが、厚生労働省のまとめでわかった。現状のまま推移すると、回収できない貸付金は将来的に数千億円に上る可能性がある。

 20年3月~22年9月に実施された特例貸付は国費で賄われた。対象はコロナ禍による休業などで収入が減少した人で、都道府県社会福祉協議会から、1世帯あたり計200万円まで、無利子で借りられた。

 返済は23年1月から全国で始まり、同12月末までに約1047億3300万円が返済期限を迎えた。返済されたのは37%にあたる約387億6800万円で、未回収は約659億6500万円に上る。

 返済は34年頃まで続く見込み。厚労省によると、返済率が4割ほどで推移した場合、未回収は将来的に数千億円に上り、6000億円以上になる恐れもある。

 全国社会福祉協議会は、困窮者がほかに借金を抱えていたり、収入がコロナ禍前まで回復していなかったりする事情があるとみている。各地の社協は、返済を促すため、督促の書類送付や自宅訪問をしている。

 一方、返済が低調なのは、国が当時、迅速な貸し付けを打ち出したことが背景にあるとの指摘がある。各地の社協からは「申込者の返済能力や返済の意思を十分に見極められないまま、貸し付けざるを得なかった」との声が上がる。

 厚労省は今年度、返済率の向上に取り組む。困窮者の生活再建に向けた相談体制の強化や、家計の改善などを進める自治体や社協に人件費を補助する。

 日本福祉大の角崎洋平准教授(社会福祉学)は「借りた人が少しずつでも返せるよう、返済の期間や金額について国は柔軟に対応してほしい。特例貸付が支援に役立ったかどうか詳しい検証も必要だ」と指摘する。

 ◆ 特例貸付制度 =一時金の「緊急小口資金」と、生活再建のための「総合支援資金」があり、およそ160万世帯が利用したとみられている。住民税の非課税世帯などは、返済が免除される。

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