医療ニュース 2024.06.04

川崎市医師会がLINEで医療人材マッチングサービス…紹介会社手数料に苦しむ医療機関の声受け

 全国で医療人材不足が問題となるなか、川崎市医師会は、LINE(ライン)を使って医療機関と求職者をつなぐ独自のマッチングサービスを始めた。人材紹介会社を介さず直接、医療機関と求職者を結ぶことで、高額な採用経費を削減し、採用しやすくするのが狙いだ。(松岡妙佳)

 「昨年1年間で約4500万円が人材紹介手数料に消え、赤字になった」。市内で病院を経営する医療法人の男性理事長(49)はため息をつく。新型コロナウイルスによる業務負荷の増大などにより、2022年1月~23年12月の2年間で看護師が計30人離職し、23年3月から約4か月間、病棟1棟を閉鎖せざるを得なかった。

 病院は看護師確保のため、大手就職情報会社や人材紹介会社など、過去最多の11社と契約。23年中に40人を採用したが、紹介手数料は採用する人材の年収の約2割ほどが「相場」といい、1人平均約110万円を費やした。「採用をためらえば病院の機能が維持できず、背に腹は代えられない」――。

 採用経費に悩む会員の声を受け、川崎市医師会は昨年10月、公式ウェブサイト内に医療機関の求人情報を無料掲載するページを作った。現在、市内の医療機関93件が看護師や医師などを募集している。

 さらに、4月からは市内の人材育成会社と協力してSNSで情報発信し、求人情報のページに誘導する仕組みも導入。同医師会の求人情報を発信するライン公式アカウントを作り、アカウントのリンクを開くと医療機関の連絡先や待遇がわかる求人票が表示される。

 インスタグラムのアカウントも作り、市内の医療機関で働く看護師のインタビューなどを紹介し、結婚や出産で一度離職した「潜在看護師」も発掘する。ラインの登録者を増やすため、市のイベントでPRしたり、ポスターを作ったりして周知する。

 厚生労働省が昨年公表した看護職員の1人あたりの人材紹介手数料は、全国平均で約57万円(2021年度)。ハローワークなど、無料の求人方法もあるが、求職者にとっては、人材紹介会社に登録して転職先を探すのが一般的だという。

 医療機関側にも「急いで採用したい」などの事情があり、有料の紹介会社の利用が広がっている。同省には「手数料に上限を設けるべきだ」などの声も寄せられているという。

 全国の都道府県医師会によると、SNSで会員の求人を拡散している医師会はほかになく、川崎市医師会独自の取り組みとみられる。市医師会の岡野敏明会長は「どこも人材不足と採用時の高額な費用に苦しんでいる。将来的には医師会だけでなく、看護協会や薬剤師会とも協力して仕組みづくりをしていきたい」と意気込んでいる。