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2024.03.11 12:03:29

スマホでカルテ、チャットで情報共有…「診療以外の時間が大幅に削減できた」病院に医師集まる

[2024年の医師 働き方改革]<5>

 愛媛県四国中央市のHITO病院。人口約8万人の地方都市にある民間病院に今、全国の医療関係者から熱い視線が注がれている。

 <痛みがないようなので、昼は鎮痛剤を外します>

 2月上旬、脳神経外科部長の篠原直樹さん(53)は外来患者の診察の合間、職員用チャットに投稿された薬剤師の報告をスマホで確認した。<お願いします>。そう書き込むと、次の患者を診察室に招き入れた。

 同病院では、医師や看護師、技師など患者に接する全職員にスマホ計570台を配備し、チャットで情報共有している。診察室に戻らなくてもスマホで電子カルテの入力、閲覧もできる。

 篠原さんは「指示や引き継ぎなど診療以外の時間が大幅に削減できた」と語る。

 業務にスマホを導入したのは、国で「働き方改革」が議論され始めた2017年。2人いた脳神経外科の医師が篠原さん1人になったことがきっかけだった。手術の合間も看護師らへの指示で忙殺され、篠原さんが導入を病院に訴えた。

 並行して働き方も見直し、知識や技能を習得するための「自己研さん」にあたる勉強会も、業務時間内に実施するようになった。参加は自由で、後日動画でも視聴できる。

 働きやすさが評判を呼んで常勤医師は17年から19人増えて48人になった。石川賀代理事長は「今は医師に選ばれる病院にならないと生き残れない」と強調する。

 4月に始まる働き方改革で、業務効率化と並んで欠かせないのが、医師の仕事を看護師らに振り分ける「タスクシフト」や「タスクシェア」だ。

 長崎大病院の心臓血管外科では18年度以降、医師がしていた入院患者への薬剤投与やカテーテル挿入を専門の看護師に担わせている。医師の残業時間が減る一方で手術件数は約1割増えた。

 同病院を含む全国約50病院に助言を行っているコンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」(東京)の桜田陽子さん(46)は「医師が本来すべき仕事に集中すれば、労働時間は削減できる」と指摘する。

 一方、受け皿となる専門の看護師の養成は十分に進んでいない。国は、医師の指示なしで高度な医療行為ができる「特定看護師」の養成を進めている。25年までに10万人以上を養成する計画だが、研修を修了したのは昨年9月時点で8820人にとどまる。

 研修は250時間以上に及び、受講機関も限られている。関東地方で働く看護師の女性(39)は「負担や責任が大きくなるのに、待遇がどう変わるのかわからない」と話す。

 病院が乱立し、医師が分散していることも、過重労働の要因と指摘される。

 国は自治体などに、病院の再編・統合による効率化を促し、20年以降、財政支援を行う「重点支援区域」に13道県の21区域を指定した。しかし、再編を終えたのは4区域にとどまる。地元から病院がなくなる住民の不安が強いためだ。

 宮城県は21年、仙台、名取両市の4病院を二つに再編する方針を打ち出した。しかし、住民の反発を招き、県議会も紛糾。昨年末、2病院を一つにまとめる合意にこぎ着けたが、残る2病院のめどはたたない。

 県医療政策課の担当者は「医師の働き方を守り、持続的に医療を提供していくため、住民に理解を求めていくしかない」と語った。

 国際医療福祉大の高橋泰教授(医療経営)は「4月以降、各地で様々な問題が生じる可能性がある。個々の病院が業務効率化に取り組むのはもちろんだが、国が地域や診療科ごとの医師の需給を詳細に把握し、適正配置を進める必要がある。『コンビニ受診』と呼ばれる緊急性がない夜間の受診を控えるなど患者側の意識改革も重要だ」と指摘する。(おわり。この連載は、田中健太郎、西井遼が担当しました)

2024.03.08 10:57:12

離婚後の「共同親権」導入、民放改正案を閣議決定…「法定養育費制度」創設へ

 政府は8日午前、離婚後の父母双方に親権を認める「共同親権」の導入を柱とした民法などの改正案を閣議決定した。父母が合意した場合に共同親権を選択できるようにするもので、父母の一方が親権を持つ「単独親権」のみを規定した現行民法を見直す。政府は近く法案を衆院に提出し、今国会中の成立を目指す。

 民法改正案では離婚後の親権について、父母が話し合いなどで協議が整わない場合は家庭裁判所が共同親権か単独親権かを判断すると規定。いずれかの親からの子への虐待や父母間のDV(家庭内暴力)など「子の利益を害する」場合には、家裁は単独親権に決める。

 改正案が成立すれば、公布から2年以内に施行される。施行前に離婚して単独親権となっている場合でも、家裁に申し立て、認められれば共同親権への変更も可能となる。共同親権の場合でも「急迫の事情」があれば単独で親権を行使できるとした。法務省は▽虐待やDVからの避難▽緊急の医療行為▽学校の入学手続き――などを想定している。

 監護や教育に関する「日常の行為」についても、同居親が単独で決められる。

 改正案では「親の責務」を明確化し、婚姻関係の有無にかかわらず「子どもの利益」の確保を最優先する姿勢を打ち出した。

 現在は、離婚後に父母間の取り決めや家裁の調停・審判がないと要求できない養育費について、取り決めがなくても同居親が別居親に最低限の養育費を請求できる「法定養育費制度」を創設する。支払いが滞った場合は他の債権者に優先して財産を差し押さえ、未払いの解消につなげる。

 離れて暮らす親が子どもと定期的に会う面会交流の申し立てについても、現在は父母にしか認められていないが、一定の条件で祖父母ら親族にも認める。

2024.03.07 19:27:38

発がん性疑いPFAS検出、米軍弾薬庫付近の川などで指針値の最大300倍…市が住民40人に臨時で健康診断

 発がん性が疑われる化学物質「 PFAS(ピーファス) 」が、広島県東広島市八本松町で国の暫定指針値を超えて検出された問題で、市は6日、周辺の井戸水を飲用している住民に臨時の健康診断を行うと発表した。高垣広徳市長が定例記者会見で明らかにした。

 対象は、同地域の14世帯約40人。地域集会場で今月から4月にかけ、通常の健康診断項目に加え、肺や大腸などのがん検診を行う。費用は市が全額負担する。PFASの血中濃度検査は行わない。

 検出されたのは米軍川上弾薬庫がある地域。高垣市長はこの日、市からの情報公開の要請に対して、米軍から中国四国防衛局を通して先月27日に回答があったと発表した。県内の米軍施設全体について▽泡消火剤を使用したことがない▽漏出を確認したことがない▽2020年に計8300リットルを処分した▽現在は一切保有していない――との内容で、高垣市長は「川上弾薬庫についての具体的回答がもらえず残念だ。引き続き調査を要請していく」と話している。

 同市内では、川上弾薬庫近くの川や水路で国の暫定指針値を上回るPFASが検出され、市が周辺58か所の井戸水を含め、河川や水路など計101か所を検査。これまでに最大で指針値の300倍となる1リットル当たり1万5000ナノ・グラム(ナノは10億分の1)を検出している。

2024.03.06 19:23:41

中学1年生250人の半数超、理科の課題で同じ間違い…教諭の違和感の正体は生成AIの「誤答」

 東京都内の私立中で2月、1年生の半数超が理科の課題に対する解答を間違う事態が起きた。原因となったのは、生成AI(人工知能)が表示した“誤答”。食品大手「キユーピー」がホームページ(HP)に載せていた記述を基に生成し、生徒たちが書き写していた。男性教諭に記述の誤りを指摘された同社は、誤解を招きかねない表現があったとして修正した。

同じ誤り

 <唾液アミラーゼは、食べ物に含まれるでんぷんを分解し、胃で消化されやすい状態にする>

 2月上旬。都内の私立中で1年生に理科を教える男性教諭(34)は、授業で出した課題の解答をチェックしていて違和感を抱いた。

 出した課題は「唾液アミラーゼの働き」を調べること。「でんぷんは胃では消化されない。なぜこんな解答になったのだろう」と疑問に思った。

 最初にチェックしたクラスで、多くの生徒がほぼ同じ文言で解答。気になって調べたところ、6クラスで計約250人いる1年生のうち、半数超が同じように間違っていたことが分かった。

生成AI

 男性教諭が試しに、インターネットで「唾液アミラーゼの働き」と検索すると、原因はすぐに判明した。検索サイトに搭載された生成AIが生徒の解答と同じ文言を生成し、表示していたからだ。

 生徒たちに検索サイトの生成AIを使って書いたか尋ねたところ、各クラスで6~7割の生徒が手を挙げた。ネットの利用は許可していたが、多くの生徒が、生成AIの回答について正確性を確かめずにそのまま書き写し、提出していた。

 男性教諭は、教科書や参考書を確認しながら、でんぷんは口と十二指腸で分解されることを説明すると、生徒たちは「胃では消化されないんだ」と納得した様子だったという。

誤解招く

 男性教諭は、生成AIがどの情報に基づいて回答を生成したのかも調べた。

 出典として挙げられていたのは「キユーピー」のHPだった。「一人何役?唾液の働き」と題した特集ページに、「唾液に含まれる酵素(アミラーゼ)が、食べ物に含まれるでんぷんを分解し、胃で消化されやすい状態にします」との記載があった。

 男性教諭は2月18日、自身のX(旧ツイッター)で、キユーピーに宛てて投稿し、「もし修正できるならお願いしたく思います」と記した。

 キユーピーは翌19日に事態を把握。同社の研究所も含めて担当部署で検討した結果、でんぷんの消化について誤解を招きかねない表現だったと判断した。

 同28日、HPの記載から「胃で」を削除し、「唾液に含まれる酵素(アミラーゼ)が、食べ物に含まれるでんぷんを分解し、消化されやすい状態にします」と修正した。また、胃で吸収されることを表現したイラストにも変更を加えた。

 同社によると、HPの当初の記述は2018年9月からあったといい、同社は「外部に発信している以上、誤解のないように注意していきたい」としている。

妄信は危険

 <ちゃんと生成された内容の正誤チェックや文章校正が出来ない限り使うべきではない><AIにまず回答作らせて教科書で調べて修正すると定着率の高い勉強法になると思う>

 男性教諭の投稿は、360万回以上閲覧され、中には、そんなコメントも書き込まれた。

 男性教諭は「結果的に唾液アミラーゼの働きについて学習の理解が深まった。生成AIは間違った回答を示すこともあり、生徒たちにとっては自分で調べることの大切さを知る良い機会になった」と話す。

 医学博士で江田クリニック院長の江田 あかし 氏(消化器内科)は「でんぷんは胃では消化されず、キユーピーHPの記載は医学的に言えば誤りで、誤解を生じさせる。同社が迅速に修正したのは評価できる」と指摘。「生命や健康に関わる医学的な情報についてAIを妄信することは、現時点では非常に危険。情報の正確性について、ほかの文献に当たるなどの『裏取り』が必要だ」としている。

2024.03.05 15:58:10

体を動かす時間は成人60分・高齢者40分が目安…厚労省がガイド作成、座りっぱなし防止には30分ごとに動く

 厚生労働省は、日常生活で推奨される身体活動や運動の目安などをまとめたガイドを作成した。歩行と同程度の活動を成人は1日60分以上、高齢者は1日40分以上行うことを勧めた。週2~3回は筋力トレーニングを取り入れ、長時間の座りっぱなしを避けるように呼びかけた。

 厚労省が作成したのは「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」。2013年以来、10年ぶりの改訂で、こども(18歳未満)、成人、高齢者に分け、学術論文などを基にまとめた。24年度以降、自治体の健康づくり施策などに活用してもらう。

 成人では、家事などを含めた身体活動を1日60分以上、ウォーキングに換算すると1日約8000歩以上を推奨する。このうち筋トレなど「息が弾み汗をかく程度」の運動を週60分以上行う。

 高齢者の場合、身体活動は1日40分以上で、ウォーキングで1日約6000歩以上に相当する。達成できなくても、今より10分でも多く体を動かすことを心がける。体力が十分にあれば、成人と同等レベルで行うことを目標にする。

 筋トレは、腕立て伏せやスクワットでもいい。筋肉は年齢に関係なく鍛えられ、糖尿病などの発症リスクが低くなるほか、高齢者では筋力や骨密度が改善し転倒や骨折のリスクが低減するとされる。

 座りっぱなしの弊害についても指摘した。時間が長くなるほど、死亡リスクが高まるとの研究結果を踏まえ、30分ごとに体を動かすことが望ましい。

 こどもについては、1日60分以上の活動をし、ゲームやスマホの利用は減らすことを勧めている。

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