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2024.03.04 12:41:38

大学病院の宿直医、担当外も担当「判断ミスしないかびくびく」…医師派遣撤退で地域医療にしわ寄せも

[2024年の医師 働き方改革]<4>

 「宿直に入るたび、判断ミスをしないかびくびくしている」。大阪府内の大学病院に勤務する30歳代の男性医師は「働き方改革」を前にした心境を打ち明ける。

 勤務先では、改革を見据え、「合同宿直」の試行が始まった。これまでは診療科ごとに医師が宿直し、急患や入院患者に対応していた。残業時間を削減するため、1日に宿直する医師数を減らし、担当外の診療科の患者も診るようになる。

 大学病院は、一般病院で対応が難しい患者を引き受ける。専門外の患者を診ることに一部の医師から不安の声が上がる。

 病院側は取材に「医師の確保は将来的により困難になり、従来の体制を維持することは難しい」と説明。合同宿直を本格導入しても、脳外科や産科など緊急性の高い診療科は従来の宿直体制を維持するとし、幹部は「現場の不安を吸い上げ、患者の理解も得ながら適切な体制を模索していきたい」と話した。

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 4月からの働き方改革で、勤務医の残業時間は原則年960時間が上限となる。単純に労働時間を減らせば、これまで通りの医療サービスを提供することは困難だ。

 日本医師会が昨秋、全国の病院に実施した調査では、回答した約3000病院の34・6%が、改革による地域医療への懸念として「救急医療の縮小・撤退」を挙げた。「専門的な医療提供の縮小・撤退」を懸念する声も21・7%に上った。

 病院の多くが医師の派遣を受ける大学病院も残業削減に迫られている。調査では、派遣引き揚げを懸念する声も30%あり、実際、各地で起きている。

 岩手県沿岸部にある県立久慈病院は昨年4月、脳出血の疑いがある救急患者の受け入れを停止した。岩手医科大病院から派遣されていた常勤医師2人のうち1人が退職し、補充がかなわず、対応できなくなったためだ。患者は約50キロ離れた青森県の病院に搬送する。

 遠野千尋院長(57)は「地方の病院では、派遣を受けられなくなると、たちまち医療提供体制に影響が出てしまう」と打ち明ける。

 特に影響が大きいのが産科だ。出産はいつ起きるかわからないため、長時間労働になりやすく、なり手不足が慢性化している。

 新潟県糸魚川市の糸魚川総合病院は、富山大病院から派遣を受けられなくなり、昨年4月、 分娩ぶんべん を休止した。11月、県外から60歳代の男性医師を確保し、再開にこぎ着けたが、山岸文範院長(65)は「来てくれたのは奇跡で、次はない。今後は地域の病院が連携し、役割分担していかざるを得ない」と話した。

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 入院が必要な2次救急患者を受け入れる大阪府東大阪市の市立東大阪医療センター。1月中旬の夜、救急外来には次々と患者が運ばれていた。

 大半の診療科で「宿日直許可」を取っておらず、救急外来の宿直中はすべて残業時間となる。残業時間を抑えるために宿直明けは帰宅するルールで、非常勤の医師を雇って宿直体制を維持しているのが実情だ。

 医師の紹介会社に依頼して非常勤の医師を募集しているが、救急医は特に需要が高く、病院間の争奪戦になっており、確保は容易ではない。

 宮尾清貴・総務課長は「限られた医師の中でどう残業を削減するのか。日本中の病院がジレンマを抱えている」と漏らした。

2024.03.04 12:20:26

緊急避妊薬、処方箋なしの試験販売を継続へ…販売薬局増も検討

 厚生労働省は、望まない妊娠を防ぐ緊急避妊薬(アフターピル)を医師の処方箋なしで薬局で試験販売する調査研究を、来年度も継続する。近くまとまる今年度の調査結果を踏まえ、販売薬局を増やすかや購入希望者への情報提供の内容を見直すかなどを検討する。

 この薬は、性暴力にあったり、避妊に失敗したりした女性が使う。性行為から72時間以内の服用で妊娠を約8割防げる。世界約90か国・地域では医師の処方箋なしで薬局で購入できる。国内でも市販化を求める声の高まりを受け、厚労省が、有識者検討会などで市販化の議論を進めてきた。

 調査研究は、厚労省の委託を受けた日本薬剤師会が昨年11月、全国145か所の調剤薬局で始めた。購入できるのは16歳以上の女性で、16歳、17歳は保護者の同伴が必要となる。同会は、購入した女性へのアンケート調査などを実施し、薬剤師の説明だけで安全に服用できるかを確かめる。

 厚労省は、今年度のデータのみでは、薬剤師だけで適正に販売できるかの検証が難しいと判断した。来年度の研究も、同会を中心に進める方針だ。

 市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」共同代表の染矢明日香さんは、「今の仕組みでは、販売する薬局が限られているため、必要な時に入手するのが難しい。厚労省は漫然と研究を続けるのではなく、早期の市販化を目指してほしい」と注文している。

2024.03.01 10:53:43

病院、宿直を「休憩」扱い…残業規制対策で申請急増し「書類が整っていればおりる」

[2024年の医師 働き方改革]<2>

 1月下旬の未明。関西のある病院の救急外来には、患者が救急車で絶え間なく運ばれていた。

 30歳代の男性専攻医は、もう1人の医師と治療に追われ、その間に入院患者への対応もこなす。

 午後5時から約15時間、対応した患者は20人に及ぶが、病院に申告しても残業と認められるのは一部だ。病院は労働基準監督署から「宿日直許可」を得ており、宿直中は原則として「休憩時間」とみなされる。

仮眠を取れる日もあるが、多くても3時間ほどだ。専攻医は「宿直中は気が休まる時間なんてほとんどない。これが労働でなくて何なんだろう」とつぶやいた。

 勤務医が夜間や土日の患者対応に備えて待機する「宿直」と「日直」。労働基準法は、業務内容が軽度で睡眠も十分取れる場合、病院が労基署の許可を得れば、特例で労働時間とみなさないと規定している。

 4月に始まる「医師の働き方改革」で、勤務医の残業時間の上限が原則年960時間となり、残業時間を抑制したい病院からの許可申請が相次いでいる。

 厚生労働省によると、労基署の許可件数は2020年が144件、21年が233件だったのに対し、22年は1369件に上った。一般病院だけでなく、重篤者を扱う3次救急病院や不規則な産科など幅広い病院、診療科が取得している。

 医療提供体制を維持したい厚労省も、許可を取るよう病院に求めている。西日本のある公立病院の担当者は「以前はハードルが高かったが、書類が整っていればおりる」と打ち明ける。

 一方で、勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」(東京)が22年に実施した調査では、宿直中に「ほとんど業務を行わない」と回答した勤務医は2割にとどまった。

 厚労省の通達では、宿日直中に通常業務が発生した場合、病院側は労働時間と扱わなくてはならない。だが、いったん許可が出ると運用は病院側に任される。

 ユニオンの植山直人代表は「夜間の業務が軽度と言えない3次救急病院にも許可が出ている。『名ばかり宿日直』が広がっているのではないか」と声を強める。

 東京都内の大学病院で緩和ケアを担当していた50歳代の男性医師は18年11月、くも膜下出血を発症し、現在も寝たきりの状態だ。19年10月、長時間労働が原因だとして労基署に労災申請したが、認められなかった。

 代理人の蟹江鬼太郎弁護士によると、男性医師は月4回程度宿直に入り、入院患者の対応で残業は月100時間以上に上ったという。

 しかし、病院は宿直中の午前0~6時を仮眠時間としていた。男性医師側は労災申請で、その間の午前3~4時台に電子カルテを操作していた記録を提出したが、労基署は仮眠時間を労働時間と認めず、宿直中の労働は約9時間だったと認定した。

 男性医師側はこれを不服として東京労働局に審査請求した。ところが、労働局は病院が宿日直許可を得ていたことから「宿直中は働く必要がなかった」と判断。宿直中は休憩扱いにし、労働時間はゼロだとした。

 労働局は取材に「個別案件には答えられない」とするが、蟹江弁護士は「客観的な記録があるのに労働と認められなかった」と批判。「許可を理由に労災と認めないケースが相次ぐ恐れがある」と訴える。

 日本救急医学会(東京)は昨年11月、厚労相に要望書を提出した。宿日直許可を、残業規制の上限を守るための「緊急避難的措置」とし、夜間や休日の勤務を労働時間と扱うよう求めた。そのためには医師数の確保が必要だとし、不要不急の救急利用の自粛を国民に呼びかけることも求めた。

 同学会の大友康裕・代表理事は「医師の過重労働を残したままでは、必要な医療を受けられない患者が出てくる」と危機感を示した。

2024.02.29 13:51:53

HIV治療薬「ツルバダ」、予防投与でも申請…承認国では「適切な服用で99%感染予防」

 米製薬会社ギリアド・サイエンシズは28日、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の治療薬「ツルバダ」を、感染予防でも承認するよう厚生労働省に公知申請した。予防投与を認める国では新規感染者が減少しており、HIV流行を終結させる切り札として期待される。

 公知申請は、国内の臨床試験を省略し、医薬品の製造販売を承認申請できる制度。欧米での使用実績などの条件がある。予防投与は、世界保健機関(WHO)が推奨し、欧米やアジア諸国で承認されている。

 ツルバダは飲み薬で、HIV感染症のパートナーがいるなどして、医師が性行為でHIVに感染するリスクが高いと判断した人らが対象となる。適切な服用で感染を99%防げるとする海外の報告がある。

 厚労省は、予防投与については、公的医療保険を適用しない方針だ。国立国際医療研究センター(東京)エイズ治療・研究開発センターの水島大輔治療開発室長は「承認されれば、医師らが予防法として情報提供しやすくなる。感染リスクが高い人が確実に服用するには、公費助成の仕組みも必要だ」と話している。

 国立感染症研究所によると2023年に新たにHIV感染が判明した人は943人(速報値)だった。

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