医療ニュース 2024.03.04

大学病院の宿直医、担当外も担当「判断ミスしないかびくびく」…医師派遣撤退で地域医療にしわ寄せも

[2024年の医師 働き方改革]<4>

 「宿直に入るたび、判断ミスをしないかびくびくしている」。大阪府内の大学病院に勤務する30歳代の男性医師は「働き方改革」を前にした心境を打ち明ける。

 勤務先では、改革を見据え、「合同宿直」の試行が始まった。これまでは診療科ごとに医師が宿直し、急患や入院患者に対応していた。残業時間を削減するため、1日に宿直する医師数を減らし、担当外の診療科の患者も診るようになる。

 大学病院は、一般病院で対応が難しい患者を引き受ける。専門外の患者を診ることに一部の医師から不安の声が上がる。

 病院側は取材に「医師の確保は将来的により困難になり、従来の体制を維持することは難しい」と説明。合同宿直を本格導入しても、脳外科や産科など緊急性の高い診療科は従来の宿直体制を維持するとし、幹部は「現場の不安を吸い上げ、患者の理解も得ながら適切な体制を模索していきたい」と話した。

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 4月からの働き方改革で、勤務医の残業時間は原則年960時間が上限となる。単純に労働時間を減らせば、これまで通りの医療サービスを提供することは困難だ。

 日本医師会が昨秋、全国の病院に実施した調査では、回答した約3000病院の34・6%が、改革による地域医療への懸念として「救急医療の縮小・撤退」を挙げた。「専門的な医療提供の縮小・撤退」を懸念する声も21・7%に上った。

 病院の多くが医師の派遣を受ける大学病院も残業削減に迫られている。調査では、派遣引き揚げを懸念する声も30%あり、実際、各地で起きている。

 岩手県沿岸部にある県立久慈病院は昨年4月、脳出血の疑いがある救急患者の受け入れを停止した。岩手医科大病院から派遣されていた常勤医師2人のうち1人が退職し、補充がかなわず、対応できなくなったためだ。患者は約50キロ離れた青森県の病院に搬送する。

 遠野千尋院長(57)は「地方の病院では、派遣を受けられなくなると、たちまち医療提供体制に影響が出てしまう」と打ち明ける。

 特に影響が大きいのが産科だ。出産はいつ起きるかわからないため、長時間労働になりやすく、なり手不足が慢性化している。

 新潟県糸魚川市の糸魚川総合病院は、富山大病院から派遣を受けられなくなり、昨年4月、 分娩ぶんべん を休止した。11月、県外から60歳代の男性医師を確保し、再開にこぎ着けたが、山岸文範院長(65)は「来てくれたのは奇跡で、次はない。今後は地域の病院が連携し、役割分担していかざるを得ない」と話した。

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 入院が必要な2次救急患者を受け入れる大阪府東大阪市の市立東大阪医療センター。1月中旬の夜、救急外来には次々と患者が運ばれていた。

 大半の診療科で「宿日直許可」を取っておらず、救急外来の宿直中はすべて残業時間となる。残業時間を抑えるために宿直明けは帰宅するルールで、非常勤の医師を雇って宿直体制を維持しているのが実情だ。

 医師の紹介会社に依頼して非常勤の医師を募集しているが、救急医は特に需要が高く、病院間の争奪戦になっており、確保は容易ではない。

 宮尾清貴・総務課長は「限られた医師の中でどう残業を削減するのか。日本中の病院がジレンマを抱えている」と漏らした。