膵臓 の細胞が正常に働かない「1型糖尿病」の治療について、徳島大病院(徳島市)は、患者自身の脂肪からインスリンを出す細胞を作り、再生医療技術で患者に移植して根本的治療を目指す治験を今夏にも始めると発表した。安全な世界初の治療方法を目指す。(吉田誠一)
糖尿病のうち1型の割合は約5%で、膵臓内の細胞の塊「 膵島 」が壊れ、血糖値を制御できなくなる病気。若い頃から発症し、毎日何度もインスリン注射が必要となる。病院によると、根本的な治療方法では、脳死ドナーから膵島を取り出し、患者に移植する方法があるが、日本では患者10万人あたりのドナーは0・6人しかおらず、移植は困難となっている。
そこで消化器・移植外科の池本哲也医師(53)らは、患者からの採取や臨床への応用が安全で容易な脂肪由来の幹細胞に着目した。再生医療技術で、“膵島”(インスリン産生細胞・IPC)にして移植することにし、2018年度から研究を開始した。
1型患者の皮下脂肪から作った膵島をマウスに移植したところ、2週間後から血糖が正常化し、1年以上持続。豚でも腸間膜内に移植すると、同様の効果を確認できた。
池本医師らは、この「IPC自家移植」を臨床応用。局所麻酔した患者から皮下脂肪組織を1グラム採取し、分離・精製して脂肪由来幹細胞とし、4週間かけて培養しながら分化・成熟させ、IPCを作製する。体への負担が少ない 腹腔鏡 手術で患者の腸間膜内に注入して移植する方法を確立した。このうち培養技術については特許も取得した。
徳島大で3月24日にあった記者会見で、池本医師らは「この治療方法は血糖の制御に優れるうえ、患者の自家細胞を使うため拒絶反応がなく、毒性や移植で腫瘍を作ることもない」と利点を強調。「人への初めての投与で効果と安全性を示し、治療法を世界に発信したい」と話した。
1型の治療では、京都大病院がiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った細胞シートを移植する治験を実施する計画がある。池本医師は「患者自身の細胞を使うこちらの治療法は(遺伝子導入などがないため)DNAダメージの危険性が少なく、安全面でアドバンテージがある」と強調した。