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2025.01.20 17:29:21

「防災研修はリアル伝えないと無意味」…体育館で避難所生活し1泊体験、参加女性「過酷さは想像以上」

 災害時に日常生活とは異なる環境下で様々なストレスにさらされる避難所生活。厳しい現実をどう自分のこととして考え、備えてもらうか。岡山県備前県民局は、NPO法人や自衛隊などと連携し、一般人が参加する避難所運営体験「防災研修キャンプ」を実施した。企画運営は実際に被災地で活動する民間団体が担い、実際の避難生活に近い状況を経験できるのが特徴だ。(浜端成貴)

 「ストレスを知識と備えに変えて持ち帰ってください」

 昨年11月23日午後、玉野市の市立荘内中学校の体育館で、能登半島地震でも支援に携わった一般社団法人「epoおかやま笑顔プロジェクト」代表の村上浩司さん(57)が、参加した7~81歳の男女32人に呼びかけた。

 研修プログラムは市の避難所運営マニュアルを参考に村上さんが考えた。同日午前10時52分、南海トラフを震源とする地震があり、玉野市で震度6強を観測。上下水道の機能が停止し、ペット連れや車椅子が必要な障害者など様々な事情を抱えた避難者が、市の指定避難所である同体育館に訪れていると想定した。

 最低気温が6・9度となったこの日、体育館にはエアコン設備はなく、用意された段ボールベッドの材料は15人分で、参加者の多くが冷たい床に毛布を敷いて寝る必要があった。常設のトイレの使用も禁止し、段ボールと袋で手作りした災害用トイレしか使えないルールも設けた。自衛隊日本原駐屯地による夕食の炊き出しも実施した。

 段ボールベッドの分配では、独身男性が率先して家族連れに譲るなどしてスムーズに決まった一方、洗濯物については、「男女の洗濯物をわけて干し、下着類は人目につかない奥の方に干した方がいいのでは」「自分の洗濯物が他人のものと一緒になるのが嫌だという意見もある。家族の洗濯物で固めた方がいいのでは」などと議論が交わされた。

 その後、解散するのがよくある避難訓練だが、この研修では参加者は実際に体育館に1泊。翌朝、AED(自動体外式除細動器)を使った救命措置の体験や、災害時の避難行動計画作りに取り組むなどした。

 真庭市の栄養士の女性(60)は「1日だから耐えることができたが、避難所生活の過酷さは想像以上で、備えの必要性を改めて実感した。大変だったけど、とても学びになった」と話した。玉野市の中学2年女子生徒(14)は「寒くて不安な気持ちもあったけど助け合いが安心につながると気づけた」と話した。

 村上さんは「防災研修はリアルを伝えないと意味がない」と話す。1995年の阪神大震災以降、避難所の運営に関心が高まり、全国各地で研修が行われてきた。しかし、能登半島など多くの被災地で村上さんが目の当たりにしたのは、水や食料などの備蓄が一切ない避難所があるなど、阪神大震災の時とほぼ変わっていない実態だった。

 自治体の防災研修の多くは、部屋の冷暖房が利いているなど、被災地の状況とはかけ離れた環境下で実施されることが多く、本格的なプログラムの必要性を感じたことが、この研修を始めたきっかけという。

 災害対策基本法では、避難所の指定や開設は自治体の義務だが、環境整備は努力義務とされる。劣悪な環境は災害関連死の増加につながり、阪神大震災では921人に上った。能登半島地震では避難所業務を全て自治体が担うケースもみられ、自治体が日ごろから民間団体と連携を深め、すぐに運営を支援してもらえるような態勢作りが求められている。

 内閣府が2023年9~11月に全国の1313市区町村を対象に行った調査では、避難所の運営を担う職員向けの訓練を実施している自治体は全体の65・8%。そのうち、避難者の受け入れなど開設訓練は81・6%を占めるものの、ルールの検討など運営訓練を実施している自治体は48・4%にとどまる。

 防災研修キャンプの実施を発案した備前県民局地域づくり推進課の川辺秀則参事は「避難所の運営は地域住民の力が欠かせない。つらさも含めて防災について考えてもらうことで、有事の際に本当に役に立つ力が身につくはず」と話している。

2025.01.17 18:07:21

東京都、都内の全民間病院に総額300億円超の財政支援へ…医療提供体制の安定確保へ

 東京都は新年度、都内の全民間病院を対象に総額300億円超の財政支援を行う方針を固めた。事業費を新年度予算案に計上する。コロナ禍後の病院経営は物価高や人件費の上昇、患者数減少により厳しさを増している。財政支援は医療提供体制の安定確保を図る狙いがある。

 都関係者によると、都内に約600ある全ての民間病院に入院患者1人あたり1日580円を給付する。年間総額は約160億円を見込む。さらに、高齢の入院患者を受け入れるための病床確保料として約90億円、少子化で減少している小児科や産科、救急医療の体制確保支援として約60億円を計上する。1病院あたりの給付額は最大で2億円に達するとみられる。いずれの支援も1~3年間の時限措置とする。

 病院経営は年々、悪化の一途をたどっている。物価高で光熱費や食材費がかさみ、人手不足で職員の人件費が上昇。一方、コロナ禍の収束後も院内感染を恐れた高齢者の「受診控え」が続いて患者数の回復が遅れており、収益が減少している。

 都によると、東京は最低賃金が全国で最も高いなど、全国と比較して人件費や物価の上昇の影響を大きく受けている。都病院協会が昨年1~2月に実施したアンケートでは、回答した都内128病院のうち、2023年度上半期(4~9月)に赤字だった病院は49・2%に上り、前年同期より17・2ポイント上昇。老朽化に伴う建て替えを断念し、診療休止を決めた病院もある。

 都内では全病院のうち、民間病院が9割以上を占める。都は、安定的な医療体制を支えるには、民間病院への早急な財政支援が不可欠と判断した。

2025.01.17 14:44:41

インフルエンザ猛威、要因はコロナ禍で流行しなかったことによる免疫力低下か…子どもの脳症に注意

 インフルエンザが猛威を振るっている。国立感染症研究所によると、昨年12月29日までの1週間の感染者数が1医療機関あたり64・39人と、過去最多となった。年末年始を挟んで感染者数が減ったものの、今後も流行が続く可能性がある。コロナ禍でインフルエンザに対する免疫力が低下していることが要因とみられる。

 東京都渋谷区の「KARADA内科クリニック渋谷」では16日午前、発熱を訴える患者が次々と訪れた。1日30人ほどの発熱患者のうち、半数がインフルエンザと診断される。田中雅之院長は「年末には1日100~150人が受診に来た。感染状況には波があるので、再度、患者が増える可能性がある」と語る。

 日本感染症学会の石田直・インフルエンザ委員会委員長は「コロナ禍でインフルエンザが流行せず、ウイルスから防御する抗体の保有率が低下していることが今季の流行要因の一つではないか」と分析する。感染研の調査では、コロナ禍の間に生まれた0~4歳の抗体保有率が低くなっている。

 子どもはまれにインフルエンザ脳症を起こし、命に関わることもある。日本大の森岡一朗教授(小児科)は「けいれんを起こす、目線が合わない、ぼーっとしているなど、いつもと異なる様子が見られる時は、迷わず医療機関に受診を」と注意を促す。

 現在流行しているウイルスは、2009年に「新型」として流行した「A型」(H1N1)で、2月以降は、「B型」が広がる可能性がある。型が異なると、再度感染する恐れもある。石田委員長は「今からでもワクチンの接種を検討してほしい」と呼びかけている。

2025.01.16 19:28:01

救急患者「たらい回し」回避へ調整システム…患者情報を多くの病院に即時共有、受け入れ先を迅速に確保

 政府は救急患者の搬送にあたり、患者情報を多数の病院と共有して短時間で受け入れ先を確保するシステムの全国展開を目指す。患者のたらい回しを回避する狙いで、一部自治体が先駆的に実施している搬送調整システムを全国に拡大させる。政府は、搬送時間の短縮によって、患者の救命率向上につなげたい考えだ。

 新たな搬送調整システムについて、政府は2025年度にも希望する自治体から先行導入を始める方向だ。システムでは、現場に駆けつけた救急隊が患者の氏名や患部の画像などを入力し、医療圏を指定して送信すると、情報が圏内の病院に即時共有される。病院側は受け入れの可否をシステム上で返答し、救急隊は電話で最終確認を取って搬送する。

 システムは、災害時に都道府県をまたいで医療機関の状況を共有できる「広域災害救急医療情報システム」(EMIS)を母体とし、平時でも使いやすい仕組みに改修することを検討している。独自の救急システムを構築している自治体との情報連携も目指す。

 さらに、「マイナ保険証」とも連動させ、救急車内の端末でカードを読み取ると、登録された通院歴や処方薬などの情報が病院に共有されるようにする方向だ。

 厚生労働省と総務省消防庁は近く、一部自治体の協力を得て、救急隊がウェブ上で患者情報などを入力・送信し、医療機関と共有するモデル事業を実施する。結果を踏まえて、来年度から希望自治体を募り、新システムの実装に着手する方針だ。

 従来の搬送調整では、救急隊が病院に個別に電話連絡し、搬送先を探す方法が一般的だった。受け入れ不可の場合は別の病院に改めて電話をかける必要があり、搬送開始まで長時間かかるケースも多かった。

 政府は、一部自治体が独自のシステムやアプリで行っている搬送調整を国が用意することで、財政事情が厳しい自治体でも採用できる状況を整えたい考えだ。システムの活用によって各病院の病床の 逼迫ひっぱく 度合いが可視化されるため、救命救急医療にあたる医療機関ごとの負担の偏りが解消される効果にも期待を寄せている。

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