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2024.02.22 15:44:51

政府が長期保存できる止血製剤を開発へ、人工血小板を利用…28年度までの実用化目指す

 政府は年内にも、長期間の保存が可能な人工血小板を用いた止血製剤の開発に乗り出す。献血への依存度を減らして人口減少が進んでも供給量を確保できるようにし、多数の負傷者が発生する大規模災害などの有事に備える。2028年度までの実用化を目指しており、海外への輸出も視野に入れる。

 血小板は、止血をつかさどる血液成分。現在の止血製剤は、献血などで人から採取した血液の血小板から作るが、保存期間が4日程度と短い。政府が開発を目指す人工血小板は、分化していない細胞から生産することを念頭に置いている。この人工血小板を活用した止血製剤は、数か月間程度の長期備蓄が可能となる見通しだ。

 また、人工の止血製剤は、輸血の際、ほぼすべての患者に拒絶反応が起きないメリットがある。通常の輸血では、抗体による拒絶反応を避けるため、患者の型と一致した血液型の血小板を投与しなければならない。一方、人工血小板はこうした拒絶反応が起きないよう開発するため、血液型にかかわらず投与できる。そのため、緊急性の高い有事の際にも事前検査などを経ず利用できると見込まれている。

 政府は、公募を行って大学や医療研究機関などに事業を委託し、年内にも研究を始める方針だ。出血した部位に血小板が効率的に集まって固まる技術や、緊急時に被災地などで止血製剤を製造する技術の開発にも取り組む考えだ。

2024.02.21 17:11:51

中2の18人に1人「ヤングケアラー」、悩み打ち明けられず…こども家庭庁が支援強化へ

 こども家庭庁は2024年度から、家族の介護や世話を日常的に担うヤングケアラーの支援拡充に乗り出す。進路・就職相談や交流事業に取り組む自治体への補助を加算する。悩みを打ち明けるのをためらうヤングケアラーが多いとされる中、悩みや不安などに耳を傾け、見過ごされがちな孤立を防ぐ狙いがある。

 政府は22年度から、ヤングケアラー経験者や当事者が支え合える体制を作った自治体への補助を行っている。公的機関は相談先として心理的なハードルが高いとされているためだ。

 補助基準額は都道府県や政令市に約500万円、中核市と特別区に約340万円、市町村に約170万円となっている。経験者らによる支援全般を対象としていたが、加算分は相談や交流事業に使い道を限定することで、多くの自治体に取り組みを促したい考えだ。

 具体的には、進学・就職と介護の両立などに関し、経験者らによる相談体制を作る場合には都道府県や政令市に約390万円、中核市や特別区には約260万円、市町村に約130万円を上乗せする。また、当事者間の交流会を開催する場合の運営費として、それぞれ約210万円、約180万円、約150万円を加算する。ヤングケアラーが介護から離れて、子どもらしく過ごせるキャンプなどのイベントを想定している。

 支援拡充の背景には、ヤングケアラーの過剰な負担に伴う孤独、孤立が深刻化していることがある。厚生労働省の20年度の調査では、介護を担う中学2年は18人に1人(5・7%)、高校2年(全日制)は24人に1人(4・1%)いた一方、ケアに追われる状況を誰にも相談したことがないと答えた生徒が6割を超えた。

 各都道府県などが行った調査でも、困った時の相談先を求める声が上がっており、介護などを一手に担うヤングケアラーに寄り添い、適切な支援と心身の負担軽減につなげたい考えだ。

 ヤングケアラーを巡っては、自治体レベルで支援の取り組みが進むものの、法的な定義はなく、支援対象としての法的根拠もなかった。同庁はこのため、子ども・若者育成支援推進法にヤングケアラーを支援の対象として明記し、今国会に改正案を提出している。

2024.02.20 14:45:22

子どもの「付き添い入院」、家族の負担軽減へ…病棟スタッフ増やし睡眠・食事の時間確保

 厚生労働省は新年度、入院する子どもの世話を家族が泊まり込みで行う「付き添い入院」の環境改善に取り組む。今年6月から適用される新たな診療報酬で、医療機関に対し、子どもを見守る保育士らを手厚く配置するよう促す。小児科病棟のスタッフを増やし、家族が十分に睡眠や食事を取れるようにする。

 付き添い入院を巡っては、ケアが長期にわたって体調を崩す事例が多い。自宅との二重生活で経済的に困窮するケースもある。

 厚労省の2022年度調査によると、回答した小児科病棟の半数以上が保育士や、食事や排せつなどを介助する看護助手を配置していなかった。付き添い入院の当事者や支援団体は、手薄な態勢が家族の負担を増やしているとし、対応を求めていた。

 厚労省は新たな診療報酬で、保育士や看護助手を採用、増員した医療機関に加算する。従来、保育士については人数にかかわらず、子ども1人当たり1日「1000円」を加算していたのを見直し、2人以上配置した場合は「1800円」に引き上げる。家族は保育士に子どもを見てもらう間に休息や食事を取る。

 看護助手については、夜間も働ける人員を配置した医療機関に、新たに子ども1人あたり1日「1510円」を算定できる仕組みを作った。

 このほか、厚労省は小児科病棟のある医療機関に、付き添い入院する家族に病院食を提供したり、寝やすいベッドを用意したりするなどの配慮を求める。

 難病の子どもの治療などにあたる国立成育医療研究センター(東京)の笠原群生病院長は「今回の改定は、子どもの療養環境の改善に役立つ」と語っている。

 NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」(東京)が昨年6月に公表した調査によると、22年までの5年間に付き添いをした親ら3000人を超す家族のうち、85・4%が熟睡できず、51・8%が子どもと同じベッドに寝ていた。65・1%が院内のコンビニや売店で食事を購入していた。

付き添い入院= 母親ら家族が入院する子どものそばで寝起きしながら世話する行為。食事や排せつ、入浴などの介助を行う。本来は看護師らの業務である「たん吸引」などの医療的ケアを担うこともある。厚労省は看護師の代役になる付き添いを原則禁じているが、子どもの看護は、親の方が円滑に進むため、医師の許可があれば付き添い入院を認めている。

2024.02.19 19:53:10

万博の熱中症リスク、毎日5m四方のエリアごとに危険度表示…仮想空間に再現した会場で予測

 2025年大阪・関西万博の熱中症対策として、国土交通省は、気象状況をデジタル空間に再現する新技術「デジタルツイン」を使って、翌日の熱中症の危険度を会場のエリアごとに細かく予測できるシステムを導入する。国内イベントで熱中症リスクを毎日予測する試みは初めて。運営主体の日本国際博覧会協会(万博協会)が、休憩所の設置などの取り組みに生かす考えだ。(科学医療部 松田俊輔)

 予測システムは、神戸大や建設コンサルタント会社「東電設計」などでつくる産学連携のチーム「都市丸ごとのシミュレーション技術研究組合」が開発した。

 人工島・ 夢洲ゆめしま (大阪市此花区)に整備される万博会場(約155ヘクタール)の地形やパビリオン、樹木といった3次元データに気温や湿度、風向きなどの気象データを加え、気候変動の研究などに用いられているスーパーコンピューターで翌日の熱中症リスクを算出する。

 5メートル四方のマス目ごとに熱中症の危険度を色分けして示すことができる。会期中、予測データを万博協会に提供し、水分補給ができる休憩所の配置や来場者の誘導に役立ててもらう案を検討している。

今年夏に会場予定地で実証実験を行い、パビリオンなどの建設に従事する作業員の熱中症対策に生かせるか検証する計画だ。

 環境省と気象庁は21年から、同庁の予測値を基にした「熱中症警戒アラート」を全国で発令しているが、原則、都道府県単位での発表となっている。デジタルツイン技術を使えば会場内の詳細な予測が可能となる。

 万博の会期は来年4月13日から10月13日までの184日間で、夏場は厳しい暑さが予想される。アラブ首長国連邦(UAE)で21~22年に開かれたドバイ万博では、真夏の猛暑を避けるために開催期間を半年ずらす措置も取られた。

 国交省は今後、万博以外の大型野外イベントでの活用も目指す。チームの大石 さとる ・神戸大教授は「道路1本ごとの熱中症リスクが予測でき、熱中症警戒アラートよりも細かく危険度を示せるのが強み。安心・安全な万博運営に貢献していきたい」と話している。

  ◆デジタルツイン= 仮想の空間上に現実の環境を「双子(ツイン)」のように再現する先端技術。気象状況の予測研究のほか、都市や人体などを再現し、防災、医療といった幅広い分野での実用化や研究開発も進んでいる。

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