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2024.03.01 10:53:43

病院、宿直を「休憩」扱い…残業規制対策で申請急増し「書類が整っていればおりる」

[2024年の医師 働き方改革]<2>

 1月下旬の未明。関西のある病院の救急外来には、患者が救急車で絶え間なく運ばれていた。

 30歳代の男性専攻医は、もう1人の医師と治療に追われ、その間に入院患者への対応もこなす。

 午後5時から約15時間、対応した患者は20人に及ぶが、病院に申告しても残業と認められるのは一部だ。病院は労働基準監督署から「宿日直許可」を得ており、宿直中は原則として「休憩時間」とみなされる。

仮眠を取れる日もあるが、多くても3時間ほどだ。専攻医は「宿直中は気が休まる時間なんてほとんどない。これが労働でなくて何なんだろう」とつぶやいた。

 勤務医が夜間や土日の患者対応に備えて待機する「宿直」と「日直」。労働基準法は、業務内容が軽度で睡眠も十分取れる場合、病院が労基署の許可を得れば、特例で労働時間とみなさないと規定している。

 4月に始まる「医師の働き方改革」で、勤務医の残業時間の上限が原則年960時間となり、残業時間を抑制したい病院からの許可申請が相次いでいる。

 厚生労働省によると、労基署の許可件数は2020年が144件、21年が233件だったのに対し、22年は1369件に上った。一般病院だけでなく、重篤者を扱う3次救急病院や不規則な産科など幅広い病院、診療科が取得している。

 医療提供体制を維持したい厚労省も、許可を取るよう病院に求めている。西日本のある公立病院の担当者は「以前はハードルが高かったが、書類が整っていればおりる」と打ち明ける。

 一方で、勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」(東京)が22年に実施した調査では、宿直中に「ほとんど業務を行わない」と回答した勤務医は2割にとどまった。

 厚労省の通達では、宿日直中に通常業務が発生した場合、病院側は労働時間と扱わなくてはならない。だが、いったん許可が出ると運用は病院側に任される。

 ユニオンの植山直人代表は「夜間の業務が軽度と言えない3次救急病院にも許可が出ている。『名ばかり宿日直』が広がっているのではないか」と声を強める。

 東京都内の大学病院で緩和ケアを担当していた50歳代の男性医師は18年11月、くも膜下出血を発症し、現在も寝たきりの状態だ。19年10月、長時間労働が原因だとして労基署に労災申請したが、認められなかった。

 代理人の蟹江鬼太郎弁護士によると、男性医師は月4回程度宿直に入り、入院患者の対応で残業は月100時間以上に上ったという。

 しかし、病院は宿直中の午前0~6時を仮眠時間としていた。男性医師側は労災申請で、その間の午前3~4時台に電子カルテを操作していた記録を提出したが、労基署は仮眠時間を労働時間と認めず、宿直中の労働は約9時間だったと認定した。

 男性医師側はこれを不服として東京労働局に審査請求した。ところが、労働局は病院が宿日直許可を得ていたことから「宿直中は働く必要がなかった」と判断。宿直中は休憩扱いにし、労働時間はゼロだとした。

 労働局は取材に「個別案件には答えられない」とするが、蟹江弁護士は「客観的な記録があるのに労働と認められなかった」と批判。「許可を理由に労災と認めないケースが相次ぐ恐れがある」と訴える。

 日本救急医学会(東京)は昨年11月、厚労相に要望書を提出した。宿日直許可を、残業規制の上限を守るための「緊急避難的措置」とし、夜間や休日の勤務を労働時間と扱うよう求めた。そのためには医師数の確保が必要だとし、不要不急の救急利用の自粛を国民に呼びかけることも求めた。

 同学会の大友康裕・代表理事は「医師の過重労働を残したままでは、必要な医療を受けられない患者が出てくる」と危機感を示した。

2024.02.29 13:51:53

HIV治療薬「ツルバダ」、予防投与でも申請…承認国では「適切な服用で99%感染予防」

 米製薬会社ギリアド・サイエンシズは28日、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の治療薬「ツルバダ」を、感染予防でも承認するよう厚生労働省に公知申請した。予防投与を認める国では新規感染者が減少しており、HIV流行を終結させる切り札として期待される。

 公知申請は、国内の臨床試験を省略し、医薬品の製造販売を承認申請できる制度。欧米での使用実績などの条件がある。予防投与は、世界保健機関(WHO)が推奨し、欧米やアジア諸国で承認されている。

 ツルバダは飲み薬で、HIV感染症のパートナーがいるなどして、医師が性行為でHIVに感染するリスクが高いと判断した人らが対象となる。適切な服用で感染を99%防げるとする海外の報告がある。

 厚労省は、予防投与については、公的医療保険を適用しない方針だ。国立国際医療研究センター(東京)エイズ治療・研究開発センターの水島大輔治療開発室長は「承認されれば、医師らが予防法として情報提供しやすくなる。感染リスクが高い人が確実に服用するには、公費助成の仕組みも必要だ」と話している。

 国立感染症研究所によると2023年に新たにHIV感染が判明した人は943人(速報値)だった。

2024.02.28 11:34:36

花粉症治療の副作用を大幅に軽減…原因たんぱく質を「膜」で包み服用、治療短縮も期待

 花粉症などのアレルギーの治療に伴う副作用を大幅に軽減する方法を開発したと、九州大大学院などの研究チームが発表した。アレルギーの原因たんぱく質を特殊な膜で包んで服用することで、免疫細胞の“ディフェンス”を上手にかわして副作用を防ぐ。治療にかかる期間も短縮できると期待される。(大森祐輔)

九大などチーム 手法開発

 花粉症などの治療には長年、点鼻薬などで症状を抑える対症療法が採られてきた。2010年頃には、原因たんぱく質を少量ずつ服用し、体を慣れさせる免疫療法が実用化。体内に入った異物の情報を「学習」する樹状細胞が、原因たんぱく質を繰り返し取り込むうちにアレルギーを根治するもので、14年には花粉症の薬剤が保険適用された。

 だが、原因たんぱく質はわずかな量でも免疫細胞を刺激し、舌下から服用する場合なら、喉の腫れやかゆみなどの副作用を招くことがある。そのため、副作用のつらさから治療を途中で断念するケースも多い。

 九州大大学院と同大病院、慶応義塾大でつくる研究チームは、免疫細胞を刺激せずに原因たんぱく質を服用できる方法を模索。寒天やセルロースなどと同じ多糖類の「マンナン」で原因たんぱく質を包んだ直径約100ナノ・メートル(1ナノ・メートルは10億分の1メートル)の粒子をマウスに投与したところ、副作用を起こさずに体に慣れさせることができたという。

 マンナンは樹状細胞にとりつきやすい性質をもつ一方、免疫細胞は反応が鈍い。そのため、原因たんぱく質をマンナンで包んで服用すると、副作用をほとんど起こさず、治療の負担が大きく軽減されるという。

 原因たんぱく質を効率的に服用できることで、花粉症なら3年以上かかる治療期間を短縮できることも期待される。研究チームは昨年11月、国際電子版科学誌「Biomaterials」に論文を掲載。10年以内の実用化に向け、人での臨床研究を行う方針だ。

 卵や小麦などの食物アレルギーの治療にも応用できる可能性があり、チームの中心メンバーの森健・九州大大学院工学研究院准教授は「様々なアレルギーに悩む人々に良い知らせを届けられるよう、研究や治験を急ぎたい」としている。

  ◆アレルギー =体内に入った異物を排除する免疫の仕組みが過剰に働いて起こる。花粉症、食物アレルギー、気管支ぜんそくなどがあり、命に関わるショック症状を招くこともある。

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