万博考 祭典の意義〈5〉
「お酒はいつも何を飲みますか」。人型のロボットが話しかけてくる。理化学研究所が開発中の「ニコラ」だ。開発チームを率いる美濃導彦さん(68)が「ワインが好き。飲んでみたら」と返すと、ニコラは「私はどうもアルコールのにおいが苦手みたいです」と眉をひそめた。
ニコラは人工知能(AI)を搭載し、自然な会話ができる。相手の表情や話の内容に応じて、「喜び」「驚き」といった表情も作り出せる。空気圧モーターがシリコーン製の皮膚を動かし、まばたきもお手の物だ。
目指すは「人間のように自律し、人間を支えるロボット」。現在は機能別に開発を進めており、大阪・関西万博では、対話に特化したニコラのほか、自律的に動き回る「インディ」、人に装着して動作を補助する「エアトロ」を披露する。
美濃さんは「人に寄り添うロボットがいれば、心の安らぎが得られ、年を取って一人になっても楽しく生きられる。万博ではそんな2050年の姿をイメージしてもらいたい」と話す。
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近年のAIの進化は、ロボットの性能を飛躍的に高めつつある。「未来社会の実験場」を目指す万博には、最先端のAIを備えたロボットが数多く出展される。
大阪大の石黒浩教授がプロデュースするテーマ館ではロボット約50体が展示され、ロボットに囲まれて暮らす未来社会が体感できる。石黒教授は「ロボットやAI、(分身として遠隔操作できる)アバターが当たり前になった50年後の姿を示したい」と語る。
一方で、AIは人類の脅威にもなりうる。AIが人の能力を超える「シンギュラリティー」が45年に訪れるという予測もあり、欧州連合(EU)を中心にAIを規制する動きが強まっている。理研の美濃さんは「人の感情を読み取るロボットが、欧州の規制下で許されるのか。万博ではそうした議論も期待したい」と語る。
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AIの普及は、日本のものづくりの復権につながる可能性もある。AI研究の第一人者として知られる東京大の松尾豊教授(49)は「日本はAI開発で遅れたが、ロボットの駆動技術は強い。生成AIによるロボットの柔軟な制御が実現できれば、日本は新しい市場を獲得できる」と指摘する。
立命館大発の新興企業「人機一体」(滋賀県草津市)は人型の作業ロボットを展示する。すぐそばで操縦 桿 を握る人の手に、ロボットが持った物の重みや反発が瞬時に伝わってくるのが特長。危険な高所や建設現場での活用を想定し、30年代の実用化を目指す。
AIを活用すれば操縦者の負担が減り、より使いやすいロボットが実現する。金岡博士社長は言う。「日本がロボット工学技術で先頭を走り続けることをアピールしたい」
(大阪経済部 高市由希帆、都築建、おわり)