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2024.12.17 19:57:30

AIロボと人類の「共生」体験…自然な会話、「喜び」「驚き」の表情も

万博考 祭典の意義〈5〉

 「お酒はいつも何を飲みますか」。人型のロボットが話しかけてくる。理化学研究所が開発中の「ニコラ」だ。開発チームを率いる美濃導彦さん(68)が「ワインが好き。飲んでみたら」と返すと、ニコラは「私はどうもアルコールのにおいが苦手みたいです」と眉をひそめた。

 ニコラは人工知能(AI)を搭載し、自然な会話ができる。相手の表情や話の内容に応じて、「喜び」「驚き」といった表情も作り出せる。空気圧モーターがシリコーン製の皮膚を動かし、まばたきもお手の物だ。

 目指すは「人間のように自律し、人間を支えるロボット」。現在は機能別に開発を進めており、大阪・関西万博では、対話に特化したニコラのほか、自律的に動き回る「インディ」、人に装着して動作を補助する「エアトロ」を披露する。

 美濃さんは「人に寄り添うロボットがいれば、心の安らぎが得られ、年を取って一人になっても楽しく生きられる。万博ではそんな2050年の姿をイメージしてもらいたい」と話す。

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 近年のAIの進化は、ロボットの性能を飛躍的に高めつつある。「未来社会の実験場」を目指す万博には、最先端のAIを備えたロボットが数多く出展される。

 大阪大の石黒浩教授がプロデュースするテーマ館ではロボット約50体が展示され、ロボットに囲まれて暮らす未来社会が体感できる。石黒教授は「ロボットやAI、(分身として遠隔操作できる)アバターが当たり前になった50年後の姿を示したい」と語る。

 一方で、AIは人類の脅威にもなりうる。AIが人の能力を超える「シンギュラリティー」が45年に訪れるという予測もあり、欧州連合(EU)を中心にAIを規制する動きが強まっている。理研の美濃さんは「人の感情を読み取るロボットが、欧州の規制下で許されるのか。万博ではそうした議論も期待したい」と語る。

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 AIの普及は、日本のものづくりの復権につながる可能性もある。AI研究の第一人者として知られる東京大の松尾豊教授(49)は「日本はAI開発で遅れたが、ロボットの駆動技術は強い。生成AIによるロボットの柔軟な制御が実現できれば、日本は新しい市場を獲得できる」と指摘する。

 立命館大発の新興企業「人機一体」(滋賀県草津市)は人型の作業ロボットを展示する。すぐそばで操縦 かん を握る人の手に、ロボットが持った物の重みや反発が瞬時に伝わってくるのが特長。危険な高所や建設現場での活用を想定し、30年代の実用化を目指す。

 AIを活用すれば操縦者の負担が減り、より使いやすいロボットが実現する。金岡博士社長は言う。「日本がロボット工学技術で先頭を走り続けることをアピールしたい」

(大阪経済部 高市由希帆、都築建、おわり)

2024.12.17 06:37:47

国立がん研究センターに京都大が新拠点、治験開始までの準備を半年以上短縮へ…免疫療法を計画

 画期的ながん治療法の開発を目指し、京都大は来年4月、国立がん研究センター(東京都中央区)内に新拠点を開設する。京大の最先端の基礎研究の成果を、国内で最もがん治療の実績が豊富な同センターで活用し、治験を加速させる狙い。同センター内に大学の出先機関ができるのは初となる。(編集委員 今津博文)

 京大は、がん免疫療法の開発に貢献した 本庶佑ほんじょたすく 特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞するなど、基礎研究に定評がある。こうした成果の実用化を促すため、2020年4月、本庶氏をトップとする「がん免疫総合研究センター」を設立するなど、がん治療の進歩に注力している。

 だが、学内の京大病院はがん治療に特化した病院ではなく、単独で治験を行う場合、患者の募集や企業など関係機関との調整に時間を要し、治験開始まで1年以上かかるのが課題だ。

 一方、国立がん研究センターでは、治験開始までの準備を半年以内に完結し、スムーズに患者を募集するノウハウが確立。患者から採取したがん組織や血液などの検体、臨床データを多数保有し、研究段階の治療法の有効性を事前に調べる体制も整っている。

 日本が世界のがん治療をリードするには、基礎研究の成果を迅速に治験につなげる必要がある。そこで京大と同センターは来年4月、共同治験の実施拠点として、京大の研究室を同センター内に開設することを決めた。

 同センターの間野博行・研究所長が京大の客員教授を兼任。今後は、京大が構想する新規のがん免疫療法の治験を同センターと共同実施することを計画している。また、同センターの医師が新拠点で学び、京大の学位を得ることも可能だ。

 拠点の責任者を務める西川博嘉・京大教授は「米国の主要ながん研究センターは、大学と一体化して成果を上げている。今回の連携で、国内でも世界トップレベルの体制を整えたい」と意気込む。

2024.12.16 15:14:20

シルバー人材センターに「アシストスーツ」…体力衰え理由の退会防ぐ、厚労省がモデル事業

 厚生労働省は、足腰などを補助して負担を軽減する「アシストスーツ」をシルバー人材センターの高齢者に貸与するモデル事業を実施する方針を固めた。体力面で不安を抱える高齢者が働き続けられるように支援する狙いで、モデル事業の成果や課題を全国のセンターに周知し、アシストスーツの活用を促したい考えだ。

モデル事業は2025年から全国20か所程度で実施する。厚労省は今年度の補正予算案に関連経費1億9000万円を計上した。

 アシストスーツは、モーターなどが駆動する力で重い物を持ち上げるのを助ける電動型のほか、ゴムの伸縮などを利用して腰や腕を支えてくれる簡易なタイプもある。人材センターでは庭木の枝切りや農作業、地域によっては雪かきなどの作業を請け負っている。高齢者には腰などへの負担が重い作業もあり、課題となっていた。センターを退会する高齢者の多くは、体力の衰えを理由に挙げているという。

 同省によると、アシストスーツを導入しているセンターはまだ少ない。1台で数万から100万円程度かかる調達費用が問題になるほか、まだ使いやすさが知られていないことが背景にあるという。

 同省は貸与によるモデル事業を実施することで、スーツについて広く知ってもらうことを目指している。実際にアシストスーツを使った高齢者の意見を踏まえてどういった作業に使えるのかも検証する。

 65歳以上の就業者数は914万人(23年)で、20年連続で前年を上回っている。政府は今年9月に閣議決定した高齢社会対策大綱で、年齢にかかわらず希望に応じて働ける環境を整備するとしている。

◆シルバー人材センター =地域の家庭や企業、官公庁から仕事を受注し、定年退職者らの高齢者の会員に依頼する。会員は全国に67万人(男性44万人、女性23万人)おり、平均年齢は74・8歳。

2024.12.16 12:25:15

介護職員の不足深刻化、東南アジアで人材獲得を強化…現地での採用活動費に一部補助

 厚生労働省は来年度、深刻な介護職員の不足を受け、東南アジアで介護人材の獲得を強化する。日本の介護事業者が現地で採用活動を行う経費の一部を補助し、インドネシアでは介護の教育プログラムの創設に着手する。高齢化の進展で介護が必要な高齢者が増えるため、外国人材の受け入れに戦略的に取り組む必要があると判断した。

 出入国在留管理庁によると、介護の仕事に就くために、在留資格「特定技能」で入国した外国人は2万8400人(2023年末時点)で、政府目標の5割強にとどまる。先進国を中心に高齢化が進む中、国際的な福祉人材の獲得競争が起きていることが背景にある。

 厚労省の獲得強化策の一つは、特別養護老人ホーム(特養)を運営する法人や介護福祉士を養成する専門学校などを対象にした渡航費の補助だ。ベトナムやミャンマーなど東南アジア各国の日本語学校や「送り出し機関」を訪問し、勉強や研修をしている若者らを対象に、日本の介護現場の魅力や待遇を伝える説明会を開いたり、面接などの採用活動を行ったりする費用に充てられる。

 1法人あたりの補助額は国と都道府県から計100万円。厚労省は来年度、最大約100事業所の参加を見込む。今年度補正予算案に関連経費を盛り込んだ。

 公益財団法人「介護労働安定センター」(東京)の23年度調査によると、特養など6割の介護事業所が職員の不足感を訴える一方、外国人材を受け入れたのは1割だ。厚労省は「外国人材の採用に一歩を踏み出す後押しをしたい」(福祉人材確保対策室)とする。

 また、海外への人材送り出しに意欲的なインドネシアでは、来年度から3年をかけ、介護技術の教育プログラム「KAIGO」を策定する。厚労省と国際協力機構から、日本の介護保険制度や高齢者ケアの専門家ら計3人を派遣する準備を進めている。

 KAIGOは、現地の公的な看護師養成校で学ぶ若者らが対象で、指導教員も養成する。ドイツなどは人材確保に向け、すでにインドネシアで動き出しているという。

 海外からの介護人材は介護福祉士の資格試験に合格すると日本で働き続けることができる。日本大学の塚田典子教授(社会老年学)は「国は資格取得を費用面で後押しし、働きやすい職場作りに力を入れるべきだ。賃上げなどの処遇改善を進め、外国人にも魅力のある業界にする必要がある」と指摘する。

 ◆ 介護職員の不足 =来年、日本の総人口の約5人に1人が75歳以上になり、介護ニーズが急速に高まる。介護職員は2022年度に約215万人いるが、26年度に約25万人、40年度には約57万人が不足すると推計されている。

2024.12.13 20:04:17

今年の科学10大ニュースに高知大などの研究…藻類「窒素固定」機能の発見

 【ワシントン=冨山優介】科学誌サイエンスは今年の科学10大ニュースの一つに、藻類が窒素をアンモニアに変換する「窒素固定」の機能を持つことを発見した、高知大など日米研究チームの成果を選んだ。

 チームは4月、藻類の一部は、窒素固定ができる特殊な細胞内小器官「ニトロプラスト」を持つことを同誌で発表。動植物を含む真核生物で窒素固定ができることを初めて明らかにした。

 大気に多く含まれる窒素は化学反応しにくい性質を持つが、一部の微生物は窒素固定ができ、化学反応しやすい窒素化合物に変換する。窒素化合物の中でもアンモニアは土を肥やす重要な成分で、同誌は「ニトロプラストを持ち、豊かに育つ作物が生まれる可能性を示唆する」と講評した。

 チームの萩野恭子・高知大特任講師(微古生物学)(52)は「自然科学の前進に役立ったという評価をうれしく思う。今後、藻類とニトロプラストがどのように進化したのか、その過程を調べたい」と話した。

 今年の最も優れた研究成果「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」には、臨床試験でHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染を予防する高い効果を示した薬レナカパビルを選んだ。

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