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2025.03.24 10:22:51

東大病院が移植医を8人増強、脳死臓器移植の人材育成目指す…患者からの5億円の寄付で実現

 脳死者からの臓器を移植する施設が人員や病床の不足などを理由に臓器の受け入れを断念している問題を巡り、手術実績で国内トップの東京大病院が2025年度、移植専門の外科医ら8人を採用する方針であることがわかった。指導者として移植に携わる人材を育成し、日本の移植医療の底上げを図りたい考えだ。

 同病院は、移植医療で実績のある外科、内科、麻酔科、集中治療の医師計8人を採用。チームで心臓と肺、肝臓の移植手術を担う。同時に、移植手術の経験を積む希望を持ち全国から集まる医師の指導にあたる。

 採用にかかる費用は、同病院の男性患者(68)からの寄付金5億円を充て、移植専門の講座も開設する。開設期限は27年度末だが、追加の寄付などで予算が確保できれば、延長を検討する。

 このほか、▽移植優先の手術室の整備▽移植手術の前後に患者が入る集中治療室の整備(3床程度)▽移植手術を補佐する臨床工学技士や臨床検査技師の採用▽移植後の患者の健康状態を把握するシステムの開発――なども予定している。

 同病院で、脳死者から提供された臓器の移植手術は23年が心臓、肺、肝臓で計88件、24年は計100件となった。いずれも全国最多だが、移植を希望する患者は24年12月時点で515人が待機している。

 一方、移植手術は、外科医などが一般診療と両立しながら実施している。臓器提供の打診があっても、医師ら人員や病床などのやりくりがつかず、23年は3臓器で36件、24年もほぼ同じ水準で移植手術を見送った。同病院の23年度の収支は11・8億円の赤字で、移植医療も含め、増員や増床の余裕はないという。

 講座の開設を担当する佐藤雅昭教授(呼吸器外科)は、「移植に携わる医師の育成は大きな課題だ。人材養成の『東大モデル』を築きたい」と話している。

移植医人材の地方への波及に国の支援期待

 東京大病院は、移植の経験を積むことを希望する医師を全国から受け入れ、育成する。育った人材が各地域で移植を担うようになることで、日本の移植医療全体が大きく前進する可能性がある。

 東大のように多くの移植希望者を抱える施設は、臓器の受け入れ要請の集中で、移植を担う医師らスタッフや手術室のやりくりが追いつかず、提供された臓器の受け入れを断念している事実が、昨年1月の本紙の報道で明らかになった。

 実態解明を求める声が国会などから上がり、厚生労働省は2023年に全国26施設で、のべ803人の患者の移植手術が見送られていたとする調査結果を公表した。

 厚労省は昨年12月、1997年の臓器移植法施行以来初となる移植医療体制の改革方針を決定した。臓器あっせん機関の分割を打ち出したほか、移植施設が臓器受け入れを断念しても別の施設で移植を受けられるよう、移植を希望する患者が登録する施設を従来の1か所から複数にした。だが、移植施設の人員や設備を強化するものではなかった。

 移植医療は、手厚いスタッフの配置や休日・夜間を含めた手術室の稼働でコストがかかる。東大の試算では、患者の入院が長引くと肺移植で1件当たり400万円近い赤字になることもあるという。そうした中で心臓移植を行う施設として、新たに愛媛大が昨年参入し、東京科学大や岡山大も来年以降の実施に向けて準備を進めている。

 こうした施設では、移植の高度な知識と豊富な経験を有する医師や看護師などの確保や、人工心肺などの機材が配置された手術室の整備などのため、多額の費用を要する。

 今回の東大の移植専門医の一括採用などの体制強化は、患者からの寄付金で可能になった。寄付をした患者の男性は、肺の難病を患い、東大病院で生体肺移植の手術を受けた。本紙の報道などで東大などが移植手術を見送っている実情を知り、寄付を決意した。男性は「東大が日本の移植医療の中心となって人材を育成し、地方にも波及してほしい」と話す。

 思いがけない巨額の寄付金を得た東大のように、他の移植施設が単独で体制を強化するのは難しい。ようやく増えてきた臓器提供を着実に移植につなぐため、診療報酬を手厚くするなど国が後押しする時期にきている。(医療部 影本菜穂子)

2025.03.21 18:00:01

iPS細胞移植で2人の運動機能が改善、脊髄損傷患者が自分で食事をとれるように…慶応大チーム発表

 慶応大は21日、脊髄損傷で完全まひした患者4人に人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した細胞を移植した臨床研究で、2人の運動機能が改善したと発表した。

 改善した2人は食事を自分でとれるようになり、うち1人は立つことができたという。今回は受傷後2~4週間の患者が対象で、慶大はまひが固定した慢性期の患者を対象にした治験を、2027年に実施する方針も明らかにした。

 臨床研究を行ったのは慶大の中村雅也教授(整形外科)、岡野 栄之ひでゆき 教授(生理学)らの研究チーム。横浜市で開かれている日本再生医療学会で結果を報告した。

 発表によると、患者は18歳以上の4人で、治療前の検査では、受傷した首や胸から下の運動機能や感覚が完全にまひしていた。

 チームは京都大側から提供された他人のiPS細胞から神経のもとになる細胞を作製し、2021~23年、患者一人あたり約200万個の細胞を脊髄の受傷部に移植した。患者はその後、運動機能の回復を促す通常のリハビリなどを続けた。

 移植の約1年後に効果を検証した結果、脊髄損傷によるまひを5段階で評価する国際基準で、1人は「完全まひ」から3段階、1人は2段階、改善したという。残る2人は、完全まひのままだった。4人に腫瘍化などの重い健康被害は確認されなかった。

 脊髄損傷の国内の新規患者は年間約6000人で、症状が固定した慢性期の患者は10万人以上とされる。脳や脊髄などの中枢神経は化学療法やリハビリでは再生せず、脊髄が損傷し完全にまひした場合、運動機能や感覚が回復することはほぼないと考えられている。チームはサルなどの動物実験で脊髄が再生し、運動機能を回復することは確認していた。

2025.03.18 06:49:00

海外で流行中の「麻疹」の感染者、3月に都市部で急増…渡航歴ない人の感染が相次ぐ

 感染力が非常に強い麻疹(はしか)の感染者が、3月に入って都市部で相次いで見つかっている。どこで感染したかわからず、受診先の医療機関が対応に追われるケースも起きており、4月に開幕する大阪・関西万博を前に、専門家らは警戒を強めている。(松田俊輔、佐々木栄)

 麻疹は空気感染し、免疫を持たない人が感染すると10日程度の潜伏期間後に発熱やせき、発疹などの症状が表れ、1000人に1人が死亡するとされる。

 日本は2015年、国内に定着しているウイルスはなくなったとして、世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定された。

 しかし、その後も海外からウイルスが流入して感染するケースは相次いでいる。19年には全国で744人が感染し、10年ぶりに700人を超えた。

 コロナ禍で人の往来が激減した20年以降は沈静化し、21年、22年の全国の感染者数は1桁だったが、23年は28人、24年は45人と増加。18日に国立感染症研究所が発表した今年の感染者数(9日現在)は22人と、前週から倍増した。

 感染研によると、都道府県別では神奈川4人、兵庫4人、大阪3人、岡山2人、東京1人などとなっている。

 気になるのは、海外渡航歴のない感染者が相次いで見つかっていることだ。

 大阪府東大阪市の市立東大阪医療センターでは、10日に受診した30歳代男性が麻疹と診断された。男性はワクチン未接種で、直近3週間の渡航歴はなく、なぜ感染したか不明という。

 男性は同日午前11時半から約1時間半、院内にいたため、同センターはこの間の来院者に、31日までの健康観察を呼びかけている。

 渡航歴のない人の感染は、今月になって東京や神奈川でも出ており、いずれも診断前に病院やバスを利用していた。各自治体は、渡航歴のある人とどこかで接触していないか、調査を進めている。

 一方、海外では中東や東南アジアなどで流行しているほか、WHOは今月、欧州・中央アジアの昨年1年間の感染者数が12万7000人に上り、1997年以降で最多になったと発表。こうした状況を受けて、日本へ流入するケースが増えているとみられる。

 大阪府では4月に万博が開幕し、国内外から多数の人々が訪れるだけに、感染対策は喫緊の課題だ。

 麻疹には特効薬がなく、有効な対策はワクチンの2回接種だ。高齢者には過去の感染で免疫を持つ人が多い一方、感染経験がなく、ワクチンも未接種のため十分な免疫がない人もいる。

 本村和嗣・大阪府感染症情報センター長は「体に発疹が広がった場合は、麻疹の可能性がある。いきなり医療機関に行かず、事前に電話で相談したうえで受診してほしい」と呼びかけている。

混合ワクチンが全国的に不足

 現在、一部メーカーの出荷停止で、麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)が全国的に不足している。

 現行制度では、1歳と小学校入学前に1回ずつMRワクチンの定期接種を受けることになっているが、定期接種分も十分に確保できていない状況だ。国は「子どもの定期接種が優先」としており、今月、子どもの接種期間を2年延長することを決めた。

 大人については、1990年4月1日以前に生まれた人は公費助成による定期の接種が0~1回で、2回接種できていない人が少なくない。免疫が十分あるかどうかは血液検査で分かる。接種歴は母子手帳などで確認できる。

 関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「近年、麻疹への警戒感が薄れ、国内の接種率が低下している。ワクチンの在庫は医療機関ごとにばらつきがあるので、接種希望者は事前に問い合わせをしてほしい」としている。

2025.03.17 19:26:01

大人よりニコチン依存になりやすい少年、たばこと聞くだけで「また吸いたくなる」…興味本位で始め抜け出せず

 昨年12月、高知市内で20歳未満の少年にたばこを販売したとして、高知県警が70歳代の女を20歳未満喫煙禁止法違反で書類送検していたことが捜査関係者への取材でわかった。県警の統計によると、昨年1年間に喫煙で補導した少年の数は延べ894人で、2年連続で増加。県警はたばこを販売する店舗などへの指導を強化し、少年たちへの教育にも力を入れている。(田中志歩)

 捜査関係者によると、書類送検されたのは、70歳代の女で、高知市内の店舗で20歳未満であると知りながら、たばこを販売した疑い。県警は2023年にも同容疑で女を書類送検し、その後も指導を続けていたが、少年への販売を繰り返したため、昨年12月、2度目の書類送検を行った。女はその後、高知簡裁から罰金刑の略式命令を受けたという。

 同法は、健康のために20歳未満をたばこの被害から守る法律で、処罰対象は販売者や提供した親権者。たばこを購入した20歳未満の人は処罰対象にならず被害側として保護される。

 県警少年課は今回の書類送検について「個別の事案には答えられない」としながらも、同法違反については「指導や取り締まりを強化しているのは事実。少年の健全育成のため、供給元を減らさなければならない」とする。

 県警の統計では、県内で昨年補導された少年1733人(前年比224人増)のうち、半数を超える894人(同227人増)が喫煙での補導。800人を超えたのは7年ぶりとなる。

 ここまで補導者数が増えた理由として、同課少年サポートセンターは、身近で喫煙している大人の影響や、コンビニ店などでたばこ購入時の年齢確認が本人によるタッチパネルの操作でできることを可能性に挙げる。

 また、近年普及した加熱式たばこやたばこ価格高騰の影響も考えられるという。以前のセンターでは補導の際にたばこを廃棄できたが、現在はその高額さから廃棄に本人や保護者の許可が必要になっている。少年たちが保護者の目を盗んで返却されたたばこを吸うなど、再発につながっている恐れがある。

 20歳未満の少年は大人よりも、喫煙によるニコチンへの依存状態になりやすいとされる。実際、同センターで指導した中にも、更生支援の中で「『たばこ』と聞くだけでまた吸いたくなるから言わないでくれ」と耳を塞ぐ子どもや、「禁煙外来に通わせようと思う」と相談にくる親もいるという。

 少年の補導や立ち直り支援を行っている同センターは、依存の危険性について知ってもらおうと、昨年は学校などで喫煙や飲酒、薬物の危険性を伝える講義を約165回実施。担当者は「興味本位で吸い始めて抜け出せなくなる少年もいる。喫煙少年の補導や更生支援とともに、啓発活動にもより力を入れていきたい」と話している。

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