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2024.09.02 19:22:09

生後初の便、消化管や心臓の病気の診断に活用期待…たんぱく質の種類や量に違い

 新生児が初めて出した便を解析した結果、先天性の消化管や心臓などの病気の有無で含まれるたんぱく質の種類や量が異なったとの調査報告を東京大などの研究チームがまとめた。病気を早期に診断する新たな検査法の開発につながる成果として期待できるという。論文が科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。

 生後最初の便は「胎便」と呼ばれ、母親のおなかの中にいる時につくられる。粘り気のある黒っぽい便で、多くは出生から24時間以内に排出される。

 チームは、東大病院で2019年10月~21年3月に生まれた259人の胎便を解析。消化管、心臓、染色体異常、感染症で先天性の病気を持つ新生児と、病気ではない新生児の胎便を比べたところ、たんぱく質の種類や量に違いが出た。

 解析対象とした病気は、現在、主に採血で診断や原因の特定を行っている。研究責任者の渡辺栄一郎・群馬県立小児医療センター外科部長は「採血よりストレスのない便検査で病気を早期に発見する診断法につなげたい」話す。

  須田 
わたる
 ・理化学研究所共生微生物 
そう
 研究チームチームリーダーの話 
「国内で初となる胎便の本格的な研究成果で、赤ちゃんの成長に伴う腸内環境の変化の解明にも役立つだろう」

2024.09.02 13:47:00

1型糖尿病患者にiPS細胞から作る膵島細胞を移植、京大病院が来年にも治験実施…インスリン注射不要に

 膵臓の細胞が正常に働かない重症の1型糖尿病について、京都大病院がiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った細胞のシートを患者に移植する治験を、来年にも実施する計画であることが、京大関係者らへの取材でわかった。有効性が確認されれば、注射治療が継続的に必要な患者の負担を軽減する効果が期待できるという。企業による大規模な治験を経て、2030年以降の実用化を目指す。

 1型糖尿病の患者は通常、インスリン製剤を毎日数回、腹部に自分で注射する必要がある。国内では、亡くなった人の膵臓からインスリンを出す膵島細胞を取り出し、重症患者に移植する「膵島移植」が20年から公的医療保険の対象になっているが、日本膵・膵島移植学会によると、提供者(ドナー)不足などから、保険適用後に実施されたのは10人以下にとどまっている。

 そこで京大などは、iPS細胞から膵島を作製してシート状にする技術を開発し、京大病院での治験実施を計画。8月下旬に学内の治験審査委員会で承認され、治験の助言や審査を行う厚生労働省所管の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画書を送付した。

 計画では、健康な人のiPS細胞から膵島細胞の塊を作り、これらを集めて数センチ四方のシート状にする。これを複数枚、患者の腹部の皮下に移植する。

 治験の対象は、20歳以上65歳未満の患者3人の予定で、1年以上かけて安全性を確認する。シートが血糖値の変化に応じてインスリンを放出することで、注射をしなくても血糖値を安定させる効果が期待できるという。

 膵島細胞シートの製造は京大と武田薬品工業の共同研究から生まれた新興企業「オリヅルセラピューティクス」(神奈川県藤沢市)が担当する。実用化に向けて、同社は規模を拡大した治験で有効性を確かめる。

 米国ではバイオ医薬品会社「バーテックス」が、同様に人の幹細胞から膵島細胞を作って移植する臨床試験を実施している。同社は6月、投与された患者12人全てで細胞が定着し、インスリンが出ているのを確認したと発表した。

 京都大肝胆膵・移植外科の穴澤貴行講師は、「実用化されれば、低血糖による命の危険や糖尿病による合併症を減らせるだろう」と話す。

 日本膵・膵島移植学会理事長の剣持敬・藤田医科大病院特命教授の話「ドナー不足の問題解消につながることが期待される。移植後の体内で膵島細胞以外の細胞に変化して悪影響を与えないか、長期的に見極める必要がある。実用化に向けてはコストをいかに下げられるかも課題だ」


 ◆ 1型糖尿病 =膵臓の組織中に島のように点在しインスリンを分泌している膵島の細胞が壊れ、血糖値を制御できなくなる病気。若い人が発症することが多く、国内には推計で10万~14万人の患者がいる。中高年に多く生活習慣が発症に影響する2型糖尿病とは異なるが、いずれも腎臓の機能低下や網膜症、神経障害など様々な合併症が起きやすい。

多数の細胞移植は慎重さも必要

 iPS細胞を用いた1型糖尿病の治療が可能になれば、患者の体の負担や合併症のリスクを大きく減らせる可能性がある。

 治療でポイントになるのは、血糖値の変化に応じて体内で適切な量のインスリンを分泌する膵島(すいとう)細胞の補充だ。国立国際医療研究センターはブタの膵島を特殊なカプセルで包んで移植する臨床研究を計画している。iPS細胞から作った膵島細胞シートが使えるようになれば移植を待つ患者にとって選択肢が増え、意義は大きい。

 今回の治験は重い1型糖尿病の患者が対象だが、成功すれば、国内に推計約1000万人いる2型糖尿病患者のうち重篤な例の治療も視野に入ってくる。

 iPS細胞を使った治療としては、これまで7人の患者に神経細胞の移植が行われたパーキンソン病の治験などを上回る慎重さが求められる。膵島移植と同等の数の細胞を移植する場合、パーキンソン病で使われた数の10倍以上になるからだ。免疫抑制剤を使うため、治療を受けた患者には感染症などへの対策も欠かせない。

 2014年に目の病気に対してiPS細胞を用いた世界初の移植手術が行われてから10年。iPS細胞による再生医療は、新たな段階に入りつつある。(大阪科学医療部 松田祐哉)

2024.08.28 13:31:28

着床前診断、新ルールで58例の実施を承認…失明の恐れがある目のがんも初認定

 受精卵の段階で遺伝性の病気の有無を調べる着床前診断について、日本産科婦人科学会(日産婦)は28日、2023年に審査した72例のうち58例の実施を承認したと発表した。実施のルールを見直し、診断の対象を拡大したことで、旧ルールでは却下されていた目のがん「網膜芽細胞腫(RB)」も認めた。

 発表によると、23年に審査した72例の内訳は、承認58例のほか、不承認3例、審査継続中9例、取り下げ2例だった。

 着床前診断は、病気や障害を持つ人の排除につながる懸念がある。このため1998年に日産婦がルールを定め、1例ごとに審査し、実施の可否を決めてきた。従来は、成人するまでに命を落とす恐れがある病気などに限られていた。

 見直しのきっかけは、2018年、RB患者が申請したことだ。RBは失明の恐れがある一方、命に関わることは少なく、認められなかった。

 日産婦は22年1月、ルールを改定。命に関わらなかったり、成人後に発症したりする場合でも、治療法がない、生活に大きな不自由があるなどの条件に合えば、申請した夫婦の意見などを踏まえた上で、承認するとした。

 ◆ 着床前診断 =重い遺伝病の子が生まれる可能性がある夫婦の受精卵を調べる。異常がないと判定された受精卵を子宮に戻し、病気の遺伝を避ける狙いがある。

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