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記事・コラム 2026.08.05

中国よもやま話

【第69回】絶対的な所有者は不在~両岸三地の土地制度

講師 千原 靖弘

内藤証券投資調査部

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい

「両岸三地」とは中国本土、台湾、香港マカオ地区を指す言葉であり、「グレーター・チャイナ」(大中華圏)と同じ意味で使われる。両岸三地の4つの土地は異なる法域に属し、漢民族を中心とする中華文化は共通しているものの、社会制度はかなり違う。


中華人民共和国で初の土地使用権競売
(1987年12月1日)
深圳市の土地8588平米を525万元で落札

中国本土は本来的に私有財産制度を否定する社会主義の法域に属する。だが、現行の「中華人民共和国憲法」は2004年に改正した第十三条に「私有財産の不可侵」を明記。かつては禁止していた生産要素の私有を認め、個人が会社の株式(資本)を保有することも保障している。いまでは中国本土の人々も、さまざまな財産を取得できるようになったが、それでも入手不可能なのが土地だ。

代表的な経済学の考えによると、生産要素は土地、労働、資本の三つからなる。中国本土でも個人が資本を保有し、労働者を雇うことはできる。だが、土地は期限付きの使用権こそ取得可能だが、永続的な所有は不可能だ。


中英街で対峙する英兵と中国兵
中央の石碑が英領香港と中国本土の境界線
人間の往来は禁止だが、犬は自由
(1949年撮影)

現行憲法でも第六条で「社会主義経済制度の基礎は、生産要素の社会主義公有制である」と明記しており、第十条で土地の所有を「国家所有」と「集団所有」に限定している。生産要素の筆頭格である土地の私有は、社会主義国家として絶対に認めない。

国家の三要素である主権、領土、国民のうち、領土は最も外国に侵されやすい。戦前は外国が中国各地で租借地を獲得し、中国の主権や国民を脅かしていた。そうした歴史的背景からも、土地の私有を認めない。


聖ヨハネ座堂(聖約翰座堂)
香港で唯一の私有地
教会である限り、香港聖公会が所有

土地の私有を認めないのは香港も同じだ。「香港基本法」の第七条には「土地と資源は国家所有に属す」とある。香港は1997年6月30日まで資本主義国家の英国が統治していたが、その土地は「王領植民地」と「租借地」であり、唯一の例外である聖ヨハネ座堂を除き、そもそも私有を認めていなかった。


私有地の保障を求めるマカオ住民800人
清王朝から土地を買ったと主張するが、
マカオ政庁に記録がなく、公有地とされた。
2019年6月の集会

マカオも基本的には国有地だが、「マカオ基本法」の第七条によると、中国への返還前に確認した私有地だけは例外。つまり中華人民共和国が主権を有する3つの法域のうち、香港とマカオに例外的で小規模な私有地が存在するが、その他はすべて公有地だ。

一方、中国本土と対立する台湾では、「中華民国憲法」の第百四十三条で「土地は国民全体に属す」と強調。その前提で法的な保障と制限のある土地の私有を国民に認め、課税と土地収用を定めている。つまり土地には政府の上級所有と国民の下級所有があり、前者が優先される。だが、政府と国民のどちらにも、絶対的な所有権はない。


孫文と1905年に東京で結成した中国同盟会の綱領
「駆除韃虜」「恢復中華」とは
満洲人の清王朝を打倒し、漢民族の主権を回復する
「民族主義」「創立民国」とは
専制君主制の廃止と民主共和制国家の樹立を目指す
「民権主義」「平均地権」とは
土地所有権の平準化で民生を安定させる「民生主義」
これらを合わせて「三民主義」という。

これは中国革命の父である孫文の「平均地権」という思想。台湾の憲法第百四十二条は、孫文が唱えた「三民主義」に含まれる民生主義を国民経済の基本原則とし、平均地権を実施すると明記。社会主義的に人類共通の財産である土地の寡占や投機を防ぎ、自由主義的に個人による利用を促し、その効用を最大化することで、恩恵を国民全体に及ぼすことが平均地権の主旨だ。

両岸三地に絶対的な土地の私有はない。こうした中で日本の「絶対的土地所有権」が、妖しい魅力を放っている。