救急搬送された自殺未遂者のデータを収集する「レジストリ(症例登録)制度」を巡り、2022年12月の運用開始後、厚生労働省などから協力要請を受けた全国の救命救急センター307機関のうち25%(76機関)しか参加していないことが、厚労省の関連団体への取材でわかった。国は収集データを分析し、自殺対策に生かす考えだが、「症例数が不十分」との声も上がる。(森安徹)
国の統計によると、自殺者数は20年以降、2万1000人前後で推移。23年は2万1837人だった。少なくとも約2割に未遂歴があり、自殺未遂者は再び自殺を図るリスクが高いとされる。だが、全国的な統計はなかった。
国は「自殺総合対策大綱」で未遂者の再発防止を重点施策に掲げる。世界保健機関(WHO)は「自殺予防の中核的要素」として各国にレジストリ制度を要望している。
これを受け、厚労省は22年12月に制度を導入。実際の運用は、国の交付金で自殺対策の調査研究にあたる厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」と日本臨床救急医学会が担っている。厚労省を含む3者が制度導入前、連名で全国全ての救命救急センターに対し、制度への参加を依頼する文書を出した。
JSCPによると、2年が経過した昨年末時点で、参加は76機関となっている。
読売新聞は昨年4~7月、全国の救命救急センターにアンケート調査を実施。回答が得られた59機関のうち47機関が制度に不参加とし、理由に「業務多忙で登録作業が負担」「無報酬なので、参加するメリットがない」などを挙げた。
制度では、救命救急センターが患者の年齢や性別、自殺を図った手段、過去の未遂歴、精神科の受診歴など約30項目を入力。24年末までに登録された症例は約4300件だった。
JSCPなどが昨年9月に公表した報告書では「結果の解釈には、参加率が約2割にとどまっている点に留意が必要」と記載され、今後の課題に参加率の向上が挙げられた。厚労省は毎年度、救命救急センターに補助金を支給しており、金額の算定根拠となる評価項目にレジストリ制度参加の有無を盛り込むことを検討している。
レジストリ制度の構築に携わった帝京大の三宅康史教授(救急医学)は「全体像を明らかにするため、残る230以上の救命救急センターに未遂者対策の重要性を周知する必要がある」と指摘する。
◆ 自殺未遂者のレジストリ制度 =搬送された自殺未遂者の年齢や性別、自殺を図った手段などを救命救急センターが入力し、厚生労働省の関連団体と共有する。未遂者の氏名や住所などの個人情報は含まれない。海外ではイギリスやベルギーなどが導入している。