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2025.01.17 18:07:21

東京都、都内の全民間病院に総額300億円超の財政支援へ…医療提供体制の安定確保へ

 東京都は新年度、都内の全民間病院を対象に総額300億円超の財政支援を行う方針を固めた。事業費を新年度予算案に計上する。コロナ禍後の病院経営は物価高や人件費の上昇、患者数減少により厳しさを増している。財政支援は医療提供体制の安定確保を図る狙いがある。

 都関係者によると、都内に約600ある全ての民間病院に入院患者1人あたり1日580円を給付する。年間総額は約160億円を見込む。さらに、高齢の入院患者を受け入れるための病床確保料として約90億円、少子化で減少している小児科や産科、救急医療の体制確保支援として約60億円を計上する。1病院あたりの給付額は最大で2億円に達するとみられる。いずれの支援も1~3年間の時限措置とする。

 病院経営は年々、悪化の一途をたどっている。物価高で光熱費や食材費がかさみ、人手不足で職員の人件費が上昇。一方、コロナ禍の収束後も院内感染を恐れた高齢者の「受診控え」が続いて患者数の回復が遅れており、収益が減少している。

 都によると、東京は最低賃金が全国で最も高いなど、全国と比較して人件費や物価の上昇の影響を大きく受けている。都病院協会が昨年1~2月に実施したアンケートでは、回答した都内128病院のうち、2023年度上半期(4~9月)に赤字だった病院は49・2%に上り、前年同期より17・2ポイント上昇。老朽化に伴う建て替えを断念し、診療休止を決めた病院もある。

 都内では全病院のうち、民間病院が9割以上を占める。都は、安定的な医療体制を支えるには、民間病院への早急な財政支援が不可欠と判断した。

2025.01.17 14:44:41

インフルエンザ猛威、要因はコロナ禍で流行しなかったことによる免疫力低下か…子どもの脳症に注意

 インフルエンザが猛威を振るっている。国立感染症研究所によると、昨年12月29日までの1週間の感染者数が1医療機関あたり64・39人と、過去最多となった。年末年始を挟んで感染者数が減ったものの、今後も流行が続く可能性がある。コロナ禍でインフルエンザに対する免疫力が低下していることが要因とみられる。

 東京都渋谷区の「KARADA内科クリニック渋谷」では16日午前、発熱を訴える患者が次々と訪れた。1日30人ほどの発熱患者のうち、半数がインフルエンザと診断される。田中雅之院長は「年末には1日100~150人が受診に来た。感染状況には波があるので、再度、患者が増える可能性がある」と語る。

 日本感染症学会の石田直・インフルエンザ委員会委員長は「コロナ禍でインフルエンザが流行せず、ウイルスから防御する抗体の保有率が低下していることが今季の流行要因の一つではないか」と分析する。感染研の調査では、コロナ禍の間に生まれた0~4歳の抗体保有率が低くなっている。

 子どもはまれにインフルエンザ脳症を起こし、命に関わることもある。日本大の森岡一朗教授(小児科)は「けいれんを起こす、目線が合わない、ぼーっとしているなど、いつもと異なる様子が見られる時は、迷わず医療機関に受診を」と注意を促す。

 現在流行しているウイルスは、2009年に「新型」として流行した「A型」(H1N1)で、2月以降は、「B型」が広がる可能性がある。型が異なると、再度感染する恐れもある。石田委員長は「今からでもワクチンの接種を検討してほしい」と呼びかけている。

2025.01.16 19:28:01

救急患者「たらい回し」回避へ調整システム…患者情報を多くの病院に即時共有、受け入れ先を迅速に確保

 政府は救急患者の搬送にあたり、患者情報を多数の病院と共有して短時間で受け入れ先を確保するシステムの全国展開を目指す。患者のたらい回しを回避する狙いで、一部自治体が先駆的に実施している搬送調整システムを全国に拡大させる。政府は、搬送時間の短縮によって、患者の救命率向上につなげたい考えだ。

 新たな搬送調整システムについて、政府は2025年度にも希望する自治体から先行導入を始める方向だ。システムでは、現場に駆けつけた救急隊が患者の氏名や患部の画像などを入力し、医療圏を指定して送信すると、情報が圏内の病院に即時共有される。病院側は受け入れの可否をシステム上で返答し、救急隊は電話で最終確認を取って搬送する。

 システムは、災害時に都道府県をまたいで医療機関の状況を共有できる「広域災害救急医療情報システム」(EMIS)を母体とし、平時でも使いやすい仕組みに改修することを検討している。独自の救急システムを構築している自治体との情報連携も目指す。

 さらに、「マイナ保険証」とも連動させ、救急車内の端末でカードを読み取ると、登録された通院歴や処方薬などの情報が病院に共有されるようにする方向だ。

 厚生労働省と総務省消防庁は近く、一部自治体の協力を得て、救急隊がウェブ上で患者情報などを入力・送信し、医療機関と共有するモデル事業を実施する。結果を踏まえて、来年度から希望自治体を募り、新システムの実装に着手する方針だ。

 従来の搬送調整では、救急隊が病院に個別に電話連絡し、搬送先を探す方法が一般的だった。受け入れ不可の場合は別の病院に改めて電話をかける必要があり、搬送開始まで長時間かかるケースも多かった。

 政府は、一部自治体が独自のシステムやアプリで行っている搬送調整を国が用意することで、財政事情が厳しい自治体でも採用できる状況を整えたい考えだ。システムの活用によって各病院の病床の 逼迫ひっぱく 度合いが可視化されるため、救命救急医療にあたる医療機関ごとの負担の偏りが解消される効果にも期待を寄せている。

2025.01.14 19:05:30

「腹八分目」「酒はほろ酔い」…現代にも通用する貝原益軒「養生訓」、医師らがネットで発信

 健康長寿の実践書「養生訓」で知られる江戸期の福岡藩学者、貝原 益軒(えきけん) (1630~1714年)の功績を伝えようと、福岡市の医師らが特設ウェブページで発信を始めた。各地に残る史跡や資料を取りまとめたもので、「人生100年時代」を迎えた現代にも通用する益軒の教えを広めていく考えだ。(原聖悟)

江戸のベストセラーに

「長寿社会の日本だが、介護が必要な人も多い。解決法を300年以上も前に提言したのが、益軒の養生訓」と話すのは、市民団体「養生訓の里 ネットワーク」会長で、原土井病院(福岡市東区)の理事長を務める原寛さんだ。92歳で現役の医師でもある原さんは「実践している私は、この通り元気」と笑う。

 「塩分を控えめに」「腹八分目」――。全8巻の養生訓は1712年、生活習慣に気を配り、傘寿を過ぎた益軒が自らの体験や知見をまとめたものだ。

 庶民も読めるように漢文ではなく和文を用いたことで、江戸の「ベストセラー」に。生活習慣病の予防につながる見識も豊富で、現代語版や関連書籍が今も出版され続けている。医学界にも研究者が多いという。

 旅好きだった益軒は、京都や江戸、長崎を頻繁に訪れては現地の高名な学者たちと交流し、見聞を広めた。数々の名著や名言を残し、安倍晋三・元首相が施政方針演説で、「寛容の心」を伝えるために取り上げたこともある。

益軒の足跡を網羅

 益軒の足跡は福岡県を中心に点在しているが、網羅的にまとめたものはこれまでなかったという。

 生誕400年を2030年に控え、出身地の福岡市で研究や交流活動を重ねてきた原さんや大学関係者5人が、昨年12月に結成したのが「ネットワーク」だ。ウェブページでは益軒の経歴や功績に加え、屋敷跡や碑、夫婦が眠る金龍寺(福岡市中央区)などのゆかりの地を地図とともに紹介している。資料を所蔵する博物館や図書館の情報も充実させるという。

 全国で益軒に学ぶ人たちとの交流も深めていく予定で、生誕400年に向けてイベントやシンポジウムも企画する。養生訓の内容を基に、子どもや若者、女性や高齢者に合った健康法も指南していく。

「現代の心身医学の先駆け」

 厚生労働省によると、昨年9月時点で要介護(要支援を含む)と認定されている人は約719万人に上り、10年前から100万人以上増えた。社会保障費の抑制にもつなげるため、政府は心身ともに健康で日常生活に制限の必要がない「健康寿命」をより重視するようになっている。

 団体の発起人のひとりで、中村学園大学(市城南区)の久保千春学長(76)は「益軒は養生訓で、節制やストレス対策の重要性を述べており、まさに現代の心身医学の先駆けといえる」とした上で、「病気は食事や睡眠、運動といった生活習慣が大きく影響する。益軒の教えをわかりやすい形で案内していきたい」と話している。

  ◆貝原益軒( 損軒そんけん )= 江戸中期に活躍した筑前・福岡藩の儒学者、本草学(薬学)者。福岡藩士の子として生まれ、「黒田家譜」「筑前国続風土記」などを手がけた。生涯で医学から歴史学、教育学まで60部270余巻を残し、シーボルトは「日本のアリストテレス」と博学ぶりを称賛した。

2025.01.14 14:00:48

iPS細胞で「水疱性角膜症」治療、矯正視力0・5に回復…藤田医大や慶大チーム

 角膜の細胞が減り視力が落ちる「 水疱(すいほう) 性角膜症」の患者の目にiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の細胞を移植する臨床研究で、患者の矯正視力が0・5に回復したと、藤田医科大や慶応大などの研究チームが発表した。13日付医学誌「セル・リポーツ・メディシン」に論文が掲載された。

 水疱性角膜症は、黒目の内側で水分量を調節する「角膜内皮細胞」が減って角膜が水ぶくれし、視界が濁って視力が落ちる。白内障手術などの合併症として発症する例が多く、放置すると失明の危険もある。

 チームは2022年10月、健常者のiPS細胞から作製した角膜の細胞約80万個を、70歳代の男性患者の左目に特殊な注射器で移植した。男性は手術前に眼鏡をかけても視力が0・02で「矯正不能」と判定されていたが、術後1年までに眼鏡で0・07、コンタクトレンズで0・5まで回復した。視界の濁りや角膜の水ぶくれも改善したという。

 移植後に副作用や合併症は確認されていないが、移植に使った角膜の細胞で、がんを抑制している遺伝子の配列に変異が見つかった。研究チームは遺伝子の配列を移植前に4回検査し、最初の3回は正常だった。4回目の検査は移植直前に行い、移植後に変異が判明した。変異があったのは遺伝子の機能に影響がない部位で、チームは健康に影響する可能性は低いとみている。

 角膜移植の待機患者数は現在、全国で2000人近いとされる。今回の研究が実用化すれば、献体を必要とする角膜移植に代わる可能性があり、慶応大発の新興企業「セルージョン」(東京)が治験の準備を進めている。

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