来月13日に開幕する大阪・関西万博の安全対策を強化するため、日本国際博覧会協会(万博協会)は、情報通信技術(ICT)を活用し、AED(自動体外式除細動器)を素早く現場に届けるシステムを導入する。人が倒れた場所などをスマートフォンのアプリでスタッフに知らせ、AEDを運んでもらう仕組み。国内の大型イベントでは初の導入事例になるといい、救命処置の効率化や迅速化に役立てたい考えだ。(中村直人)
アプリは「AED GO」で、京都大とソフトウェア開発会社「ドーン」(神戸市)が2017年に共同で開発した。119番などを受けると、発生場所や近くのAED設置場所を周辺の地図とともに専用のアプリで通知。事前に登録したボランティアらに駆け付けるように求める。愛知県尾張旭、千葉県柏、奈良の3市で運用されている。
今回はイベント向けに仕様を変更。昨年夏頃に着手し、パビリオンの位置などが分かる万博の会場マップを取り込んだり、スタッフらが相互で情報をやり取りできるチャット機能を追加したりした。
心停止となると、救命率は1分ごとに約10%ずつ低下するとされる。一方、総務省消防庁によると、救急車が現場に到着するまでには平均10分かかる。23年に人前で心停止状態となり、搬送された2万8354人のうち、市民がAEDで電気ショックを行ったのは5%にとどまり、使用率の向上が課題となっている。
万博の会期は10月13日までの184日間で、来場者数は約2820万人と想定される。大阪市の人工島・ 夢洲 に設けられる会場(約155ヘクタール)では屋内外に150台以上のAEDが設置される予定だ。05年の愛・地球博(愛知万博)では約100台が設置され、4人の救命に役立てられた。
京都大研究員として開発チームに参加している大阪急性期・総合医療センター救急診療科の木口雄之副部長は「世界中から来場者を迎える万博は、国内だけでなく世界的な関心も高くなる。ICTを使うことで救命率の向上を図り、安心・安全な万博運営につなげたい」と話している。
◆ AED(自動体外式除細動器) =血液を全身に送り出す心室がけいれんする不整脈の一つ「心室細動」を起こして心停止になった場合に、心臓に電気ショックを与え、正常なリズムで収縮できるようにする医療機器。体外(裸の胸の上)に貼った電極の付いたパッドから自動的に心臓の状態を判断する。