[2024年の医師 働き方改革]<2>
1月下旬の未明。関西のある病院の救急外来には、患者が救急車で絶え間なく運ばれていた。
30歳代の男性専攻医は、もう1人の医師と治療に追われ、その間に入院患者への対応もこなす。
午後5時から約15時間、対応した患者は20人に及ぶが、病院に申告しても残業と認められるのは一部だ。病院は労働基準監督署から「宿日直許可」を得ており、宿直中は原則として「休憩時間」とみなされる。
仮眠を取れる日もあるが、多くても3時間ほどだ。専攻医は「宿直中は気が休まる時間なんてほとんどない。これが労働でなくて何なんだろう」とつぶやいた。
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勤務医が夜間や土日の患者対応に備えて待機する「宿直」と「日直」。労働基準法は、業務内容が軽度で睡眠も十分取れる場合、病院が労基署の許可を得れば、特例で労働時間とみなさないと規定している。
4月に始まる「医師の働き方改革」で、勤務医の残業時間の上限が原則年960時間となり、残業時間を抑制したい病院からの許可申請が相次いでいる。
厚生労働省によると、労基署の許可件数は2020年が144件、21年が233件だったのに対し、22年は1369件に上った。一般病院だけでなく、重篤者を扱う3次救急病院や不規則な産科など幅広い病院、診療科が取得している。
医療提供体制を維持したい厚労省も、許可を取るよう病院に求めている。西日本のある公立病院の担当者は「以前はハードルが高かったが、書類が整っていればおりる」と打ち明ける。
一方で、勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」(東京)が22年に実施した調査では、宿直中に「ほとんど業務を行わない」と回答した勤務医は2割にとどまった。
厚労省の通達では、宿日直中に通常業務が発生した場合、病院側は労働時間と扱わなくてはならない。だが、いったん許可が出ると運用は病院側に任される。
ユニオンの植山直人代表は「夜間の業務が軽度と言えない3次救急病院にも許可が出ている。『名ばかり宿日直』が広がっているのではないか」と声を強める。
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東京都内の大学病院で緩和ケアを担当していた50歳代の男性医師は18年11月、くも膜下出血を発症し、現在も寝たきりの状態だ。19年10月、長時間労働が原因だとして労基署に労災申請したが、認められなかった。
代理人の蟹江鬼太郎弁護士によると、男性医師は月4回程度宿直に入り、入院患者の対応で残業は月100時間以上に上ったという。
しかし、病院は宿直中の午前0~6時を仮眠時間としていた。男性医師側は労災申請で、その間の午前3~4時台に電子カルテを操作していた記録を提出したが、労基署は仮眠時間を労働時間と認めず、宿直中の労働は約9時間だったと認定した。
男性医師側はこれを不服として東京労働局に審査請求した。ところが、労働局は病院が宿日直許可を得ていたことから「宿直中は働く必要がなかった」と判断。宿直中は休憩扱いにし、労働時間はゼロだとした。
労働局は取材に「個別案件には答えられない」とするが、蟹江弁護士は「客観的な記録があるのに労働と認められなかった」と批判。「許可を理由に労災と認めないケースが相次ぐ恐れがある」と訴える。
日本救急医学会(東京)は昨年11月、厚労相に要望書を提出した。宿日直許可を、残業規制の上限を守るための「緊急避難的措置」とし、夜間や休日の勤務を労働時間と扱うよう求めた。そのためには医師数の確保が必要だとし、不要不急の救急利用の自粛を国民に呼びかけることも求めた。
同学会の大友康裕・代表理事は「医師の過重労働を残したままでは、必要な医療を受けられない患者が出てくる」と危機感を示した。