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2024.03.14 12:16:03

SNS通じ犯罪被害の小学生、過去最多139人…スマホ利用の低年齢化が背景か

 SNSを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもが昨年1年間で1665人に上り、このうち小学生が前年比25人増の139人と過去最多だったことが警察庁のまとめでわかった。小学生の被害者は10年前から約5倍に増えており、警察庁はスマートフォンの利用の低年齢化が背景にあるとみている。

 警察庁によると、SNSがきっかけになった18歳未満の犯罪被害は昨年、高校生が713人(前年比120人減)、中学生が748人(同30人増)で全体の9割近くを占めた。

 小学生の被害者は139人で前年より2割増え、2013年の28人の約5倍になった。約8割は11~12歳だったが10歳が15人、9歳が7人、8歳も9人いた。被害で最も多かったのは、児童ポルノ事件で72人に上り、自ら撮影した画像を送ってしまうケースが目立った。「不同意性交」が23人、「不同意わいせつ」も19人おり、被害は深刻だ。

 内閣府の昨年度の調査では、10歳以上の小学生のスマートフォン利用率は、18年度の45・9%から22年度は59・5%に上昇している。

 「インスタグラム」やオンラインゲームなどを通じて加害者と接触するケースが多く、警察庁は「子どものスマホ利用に注意を払ってほしい」としている。

 一方、昨年の子どもへのわいせつ行為や買春などによる摘発は4418件(同274件増)だった。盗撮行為の処罰のため新設された性的姿態撮影処罰法違反事件では、被害者が20歳未満のケースが539件あった。

2024.03.12 13:49:37

認知症と診断されて20年…現在は「希望大使」として講演する90歳「外に出ると脳が刺激、敬遠せず誘って」

取材帳 異次元の長寿<4>

 長生きすれば認知症になる確率も高くなる。注文紳士服の仕立て職人として腕を振るってきた 長田米作(おさだよねさく) さん(90)は、約20年前に認知症と診断された。今は東京都から任命された「とうきょう認知症希望大使」として、住まいのある練馬区を中心に認知症への理解を広げる活動に精を出す。(文・編集委員 猪熊律子、写真・鈴木竜三)

  「(診断された時は)これが認知症かって感じでね。自分では意識せず、普通だと思って生活していましたから」

 通い慣れた道がわからなくなる。知り合いの名前を忘れる。おかしいと気付いた妻の治代さんに付き添われて検査を受けたところ、認知症と診断された。72歳頃のことだ。

  「病院で一緒に診断された人たちと音楽療法で歌を歌ううちに楽しくなり、みんなと何かやるのが好きになりました。今は地域包括支援センターが開く当事者の集まりなど、いろいろな場に参加させてもらっています」

 診断でショックを受けたことはなかったと話す。しかし、二世帯住宅の上の階で暮らす娘の鈴木文恵さんによると、診断後は家に閉じこもってしまったという。

 中学卒業後、故郷の静岡県から埼玉県に来た。知り合いが経営する洋服店で一から洋裁を学び、20代で独立。東京都内に自分の店を持った。

 文恵さんによると1ミリの狂いも許さない仕事ぶりで、著名な政治家がスーツの仕立てを頼みに来るほど。それが60代終わり頃、難なくこなしていた仕事を夜も寝ずにやり直す日が続き、家族も「これはおかしい」と感じたという。

 受診後、外出しなくなった長田さんが再び出歩くようになったのは「すっかり自信をなくした父を母がいろいろな場に連れ出したから。人と触れ合ううち、こういう病気もあるんだと自分で納得してから、父は元気になったみたいです」と文恵さんは語る。

 昨年暮れ、治代さんが入院した。文恵さんが長田さんの外出予定を知らせるなど何かと気遣う。ただ、味付けが異なるため、食事は別だ。

  「自分の分は私が台所をやっています。認知症と診断された頃、家内が腰を痛めて立っていられなくなったんで、家内の指導のもと、初めて包丁を握りました。今では1人で食事を作れますよ」

 釜で米を炊く際は、必ず大豆と麦と昆布を入れる。汁は煮干しや昆布、乾燥小エビなどでダシを取る。具は「1種類じゃつまらない」から、ニンジン、大根、白菜、油揚げなどを包丁でざくざくと手際よく切る。手軽で便利なため、よく洗って乾かした牛乳パックをまな板代わりに使う。

 冷蔵庫のドアには、ひじき、ブロッコリーなど、20近い「常備すべき食品リスト」が貼ってある。これをもとにスーパーに自分で買い物に行く。

 時に豆腐が三つほど冷蔵庫にたまることがあるが、文恵さんは「食べちゃえば大丈夫。(家族は)責めずに怒らない、(本人は)出かける場がある、みんなが認めてくれる、というのが父を見ていると大切だと感じます」と話す。

 「とうきょう認知症希望大使」は、2021年に任命され、23年に再任命された。居間の棚には任命状が二つ並ぶ。

  「やっぱりこれがあると希望がありますよね。皆さんに話ができますもんね」

  「私自身は、自分が閉じこもっていた時のことはよく覚えていないんですが、やっぱり1人でいたんじゃ何もできない。みんなでやれば何でもできる。人の中に入って、できること、できないことを伝え合うのが一番大事じゃないかと思っています」

  「外に出ると、ああ、こんな花が咲いてるとか、あの人はこんな服装をしているとか、いろいろ目に入りますね。それだけでも脳が刺激を受ける。認知症だからといって声をかけないことはせずに、誘ってほしいと思います」

高齢期の外出・運動「推奨」

 認知症は、加齢とともに有病率が上がる。国の資料によると、60代後半で1.5%だった有病率は、80代後半には44.3%、90歳以上になると64.2%に上昇する。

 男女差が大きいのも特徴で、秋下雅弘・東京大教授(老年医学)によると、特にアルツハイマー型認知症は女性の方が男性より多く、進行の速度も速い。次のようないくつかの理由が考えられるという。

 動脈硬化による病気やがんなどになりやすい男性は、認知症の前段階ともいえる「軽度認知障害」のレベルで死亡しやすい。認知症の危険因子といわれる抑うつや身体活動の低さは、女性の方がうつ病などの患者数が多く、高齢期の運動習慣がある人の割合は男性より低いというデータがある。女性ホルモン(エストロゲン)については、神経伝達機能の活性化作用が報告されており、閉経後の女性ホルモン量の低下が発症に関与している可能性が指摘されてきた。ただ、ホルモン補充療法による効果はまだよくわかっていない。

 「運動は予防効果があることがわかっている。日本医学会連合では『80GO(ハチマルゴー)』といって、80歳になっても外出(ゴーアウト)して虚弱化を防ごうと呼びかけており、高齢期の外出や運動はお勧めできる」と秋下教授は話している。

2024.03.11 18:29:24

介護食品を作る3Dプリンター 山形大が開発 メリットは?…日本酒メーカーはがん終末期の患者も飲める酒を販売

 食事をかむ力の弱いお年寄りでも、のみ込みやすい食品づくりに、大学や日本酒メーカーが取り組んでいる。目指すのは、食べ物が気管に入ってしまうのを防ぐとろみをつけつつ、普通の食品と見た目や香りが変わらない介護食品だ。お年寄りが楽しめる食事の提供に向けて工夫を重ねている。(高田真之)

 高さ50センチほどの金属の機器に緑色のペーストを入れると、2本のノズルから直径1ミリに満たない緑色の線が出てきた。ノズルが動き、一筆書きのようにイチョウ形の絵を描いた。それが何層にも積み重なり、数分後、立体の「ブロッコリー」の房が完成した。

 山形大工学部(山形県米沢市)では、介護食品向けの「3Dフードプリンター」の開発を進めている。「味はブロッコリーそのものです」。研究を主導する古川英光教授(55)が笑う。

 機器に入れたペーストは、粉末状にしたブロッコリーを水に溶かし、増粘剤を混ぜたものだ。ペーストにする野菜をニンジンに替え、この機器で立体の「ニンジン」を成形することもできる。

 この機器を使えば、食感が軟らかくても、見た目は普通の食品を作ることができる。いったん作った食事をミキサーでポタージュ状にする「ミキサー食」などとは大きく違う点だ。

家族と会食 前向きに

 従来の介護食品だと、介護施設に入居するお年寄りが家族らと会食する際、自分の料理だけ見た目が違うと気分が落ち込み、やがて食欲低下を引き起こすと懸念されている。3Dフードプリンターで作る介護食品は、こうした問題をクリアできると期待される。

 今後、山形大は製造した食品をお年寄りが安全にのみ込めるかどうかや、機器そのものの安全性や耐久性を確かめる試験を検討している。事業者向けの機器だけでなく、高齢者一人ひとりに合ったオーダーメイド食品を作れる家庭用機器の開発も目指す。

 古川教授は「見た目が本来の素材に近づけば、食事の意欲も高まる。利用者一人ひとりに合った食品を提供できれば、安心で安全な楽しい食事になる。食べる喜びや安全性を最新技術で実現したい」と語る。

日本酒の風味保ち とろみ

 京都市伏見区で360年以上の歴史を誇る老舗酒造「北川本家」が2020年に全国販売を始めたのが、とろみのある「 斗瀞(ととろ) 酒  雅香(みやこ) 」だ。お酒が食道ではなく気管に入ってしまう 誤嚥(ごえん) をしないよう、日本酒に海藻などから抽出された成分を増粘剤として加えた。

 日本酒は通常、米や米こうじを使って製造する。従来の増粘剤を加えると、日本酒の風味を損ないやすい。同社は日本酒本来の味を保ちつつ、とろみが均一につくように試行錯誤を4年間続け、飲みやすさを追求したという。

 このお酒に、香川県で訪問看護事業を展開する「QOL」社は着目し、がんの終末期で自宅で過ごす高齢者らに提供している。

 看護師の中村隆一郎さん(47)は「従来のとろみ剤を使ったお酒と比べ、日本酒本来の味を楽しめ、お酒が好きな人に評判が良いです」と話す。本人や孫の誕生日といった記念日に、家族と一緒に飲めるのも利点という。

「救命プリン」から1500種以上へ

 高齢者向けの介護食品は、1980年代に神奈川県小田原市の特別養護老人ホーム「潤生園」で誕生したとされる。「煮こごり」をヒントに牛乳にゼラチンを混ぜ、介護食品の原型「救命プリン」を開発した。

 施設長の井口健一郎さん(44)は「市販のプリンよりもソフトで、のどの奥までは固まったまま届くというイメージで作ったそうです」と説明する。当時の施設長が、よだれを流しながら寝る入居者が息を詰まらせないのを見て、「唾液と同じような『とろみ』を加えれば食べやすい」と考えたという。

 介護食品の製造や販売を行う国内96社でつくる「日本介護食品協議会」(東京都)は、加盟社の製品を日常の食事としても提供できる「ユニバーサルデザインフード」と名付けている。

 レトルトや冷凍食品なども含め、品数は、参加企業だけでも1500種類以上ある。2022年の時点で、市販用と業務用を合わせた生産量は7万トンを超え、生産金額(工場出荷額)は500億円に上る。

 25年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる。このため、介護食品の需要は今後も高まる見通しだ。

◆3Dフードプリンター= 設計データに沿い、ゲル状や粉状の食品などで2次元の層を1枚ずつ積み重ね、精巧な立体食品を製造する機械。金型や模型作りなどに使う3Dプリンターを応用しており、一部は実用化されている。野菜の切れ端を活用すれば、食材を無駄なく使えると期待される。

(2024年2月26日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)

2024.03.11 12:03:29

スマホでカルテ、チャットで情報共有…「診療以外の時間が大幅に削減できた」病院に医師集まる

[2024年の医師 働き方改革]<5>

 愛媛県四国中央市のHITO病院。人口約8万人の地方都市にある民間病院に今、全国の医療関係者から熱い視線が注がれている。

 <痛みがないようなので、昼は鎮痛剤を外します>

 2月上旬、脳神経外科部長の篠原直樹さん(53)は外来患者の診察の合間、職員用チャットに投稿された薬剤師の報告をスマホで確認した。<お願いします>。そう書き込むと、次の患者を診察室に招き入れた。

 同病院では、医師や看護師、技師など患者に接する全職員にスマホ計570台を配備し、チャットで情報共有している。診察室に戻らなくてもスマホで電子カルテの入力、閲覧もできる。

 篠原さんは「指示や引き継ぎなど診療以外の時間が大幅に削減できた」と語る。

 業務にスマホを導入したのは、国で「働き方改革」が議論され始めた2017年。2人いた脳神経外科の医師が篠原さん1人になったことがきっかけだった。手術の合間も看護師らへの指示で忙殺され、篠原さんが導入を病院に訴えた。

 並行して働き方も見直し、知識や技能を習得するための「自己研さん」にあたる勉強会も、業務時間内に実施するようになった。参加は自由で、後日動画でも視聴できる。

 働きやすさが評判を呼んで常勤医師は17年から19人増えて48人になった。石川賀代理事長は「今は医師に選ばれる病院にならないと生き残れない」と強調する。

 4月に始まる働き方改革で、業務効率化と並んで欠かせないのが、医師の仕事を看護師らに振り分ける「タスクシフト」や「タスクシェア」だ。

 長崎大病院の心臓血管外科では18年度以降、医師がしていた入院患者への薬剤投与やカテーテル挿入を専門の看護師に担わせている。医師の残業時間が減る一方で手術件数は約1割増えた。

 同病院を含む全国約50病院に助言を行っているコンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」(東京)の桜田陽子さん(46)は「医師が本来すべき仕事に集中すれば、労働時間は削減できる」と指摘する。

 一方、受け皿となる専門の看護師の養成は十分に進んでいない。国は、医師の指示なしで高度な医療行為ができる「特定看護師」の養成を進めている。25年までに10万人以上を養成する計画だが、研修を修了したのは昨年9月時点で8820人にとどまる。

 研修は250時間以上に及び、受講機関も限られている。関東地方で働く看護師の女性(39)は「負担や責任が大きくなるのに、待遇がどう変わるのかわからない」と話す。

 病院が乱立し、医師が分散していることも、過重労働の要因と指摘される。

 国は自治体などに、病院の再編・統合による効率化を促し、20年以降、財政支援を行う「重点支援区域」に13道県の21区域を指定した。しかし、再編を終えたのは4区域にとどまる。地元から病院がなくなる住民の不安が強いためだ。

 宮城県は21年、仙台、名取両市の4病院を二つに再編する方針を打ち出した。しかし、住民の反発を招き、県議会も紛糾。昨年末、2病院を一つにまとめる合意にこぎ着けたが、残る2病院のめどはたたない。

 県医療政策課の担当者は「医師の働き方を守り、持続的に医療を提供していくため、住民に理解を求めていくしかない」と語った。

 国際医療福祉大の高橋泰教授(医療経営)は「4月以降、各地で様々な問題が生じる可能性がある。個々の病院が業務効率化に取り組むのはもちろんだが、国が地域や診療科ごとの医師の需給を詳細に把握し、適正配置を進める必要がある。『コンビニ受診』と呼ばれる緊急性がない夜間の受診を控えるなど患者側の意識改革も重要だ」と指摘する。(おわり。この連載は、田中健太郎、西井遼が担当しました)

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