米マサチューセッツ総合病院は21日、遺伝子改変したブタの腎臓を末期腎不全の患者に移植する世界初の手術に成功したと発表した。患者は順調に回復しており、近く退院する予定だ。(ワシントン支局 冨山優介)
動物の臓器を移植する治療法は「異種移植」と呼ばれ、臓器提供者不足の解決につながると期待されている。2022年には米メリーランド大でブタの心臓を使った世界初の異種移植が行われたが、患者は2か月後に死亡した。
同病院によると、患者は62歳の男性。糖尿病と高血圧を長年患い、18年に人の腎臓の移植手術を受けたが、約5年後に腎不全の症状を示すようになり、人工透析を再開していた。
同病院は、他の治療法がない場合などに認められる試験的な治療として、米食品医薬品局(FDA)から承認を受け、男性の同意を得て手術を実施した。手術は今月16日に実施され、約4時間に及んだ。
移植したブタの腎臓は米バイオ企業イージェネシスが提供した。患者の体内で拒絶反応やウイルス感染が起きにくいように計69か所の遺伝子を改変している。
男性は病院を通じ、「自分だけでなく、生きるために移植を必要とする多くの人々に希望を与えるものだ」との声明を出した。執刀チームの河合達郎・同病院臨床移植寛容センター長は取材に「長年、透析を受けている患者らの福音となることを願っている」とコメントした。
日本でもイージェネシス社から細胞の提供を受けた遺伝子改変ブタが誕生しており、数年内にブタの腎臓や心臓の異種移植を目指す計画が進んでいる。
愛知医科大の小林孝彰教授(移植外科)の話「移植した腎臓が3か月後、6か月後も機能し続けているかどうかが重要で、引き続き状況を注視したい」