厚生労働省は新年度、重い障害がある医療的ケア児らが成人した後の支援に乗り出す。ケアを行う看護師を増やした事業所の報酬を手厚くするなどし、国内の受け入れ施設が増えるよう促す。学校卒業後、ケアのために付き添いを迫られていた家族も含めてサポートする。
特別支援学校などには、医療的ケア児の人数の8割以上にあたる看護師らが配置され、たん吸引といったケアを行っている。
一方、厚労省が、成人を受け入れる事業所(約1万か所)について抽出調査をしたところ、医療的ケアが必要な人が利用する施設は2割に満たなかった。看護師がおらず、家族に付き添いを求める施設もあり、関係者は成人への移行期を「18歳の壁」と呼んで支援を求めていた。
このため、厚労省は新年度以降、成人を受け入れる施設を増やそうと、障害福祉サービスの基本報酬を今より細分化し、事業所の規模やケアの提供時間に応じて報酬を増額することにした。
具体的には、主に重い障害がある利用者を5人以下に絞って手厚いケアを行う事業所の報酬区分などを新設する。従来20人まで利用できた施設の基本報酬が1人当たり1日1万2880円だったのに対し、新たな区分だと新年度以降に7~8時間ケアすれば1万6720円に増える。
さらに医療的ケアを行う看護師らの人数に応じて加算し、入浴などの生活介護や、医療的ケアを行う場合の報酬も上乗せする。厚労省は今後、多くの事業者が参入し、家族の負担が軽減されると見込んでいる。
東京都日野市にある生活介護事業所を運営し、医療的ケアが必要な重症心身障害児の親(41)は、「これまでは成人すると、お世話になる生活介護事業所が少なくて困っていた。今後、地元に事業所が増えるとありがたい」と語る。
厚労省によると、在宅で療養する国内の医療的ケア児は推計2万人。医療的ケアが必要な成人の人数を示す公的な統計はなく、医療関係者は「数万人に上る」とみている。
「18歳の壁」解決へ道半ば
厚生労働省が新年度、医療的ケア児と家族を支える新たな施策に着手する。
家族の多くは、子どもが幼い頃から、ケアで心身をすり減らしている。子どもが成人になると、親も体力が衰え、自分自身がケアの対象になりかねない。
2021年9月に施行された医療的ケア児支援法は、国や地方自治体の責務に当事者だけでなく、家族の支援も定めている。当事者と家族の全国団体「全国医療的ケアライン」(東京)の宮副和歩代表は「切れ目なく支援を受けられるかどうかが重要だ」と語る。
同法は施行から3年をメドに見直しが検討される。成立時には「成人期に移行する際の支援に万全を期す」との付帯決議がついた。
医療的ケア児と家族に立ちはだかる「18歳の壁」の解決の道は半ばだ。国や自治体は看護師の増員といった施策に継続して取り組み、当事者の安心につなげてほしい。(社会保障部 河野越男)
◆医療的ケア児 = 人工呼吸器の使用や、たんの吸引、経管栄養といったケアが日常的に必要な子ども。起き上がることすら難しい重度の障害児から、歩ける子どもまで、病態は幅広い。厚生労働省などによると、在宅療養者が増えており、家族に大きな負担がかかっている。