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2024.01.12 17:58:54

県立病院と消防局の関係が悪化、医師が救急救命士への指示を一時拒否…消防側「搬送時にパワハラも」

 鳥取県東部で唯一の「3次救急医療機関」に指定されている県立中央病院(鳥取市)と県東部消防局との関係が、救急搬送を巡って悪化している。昨年末には同病院の医師が、救急救命士に特定の救急救命処置を行うための指示を出すことを一時拒否。消防側は病院医師から搬送時にパワーハラスメントを受けてきたと訴え、病院側に調査を要請する事態となっている。(藤本綾子、山内浩平、中島高幸、藤本幸大)

 同病院は重篤な患者を受け入れる3次救急病院として鳥取市など1市4町(人口約22万人)を担当し、3次救急のない県中部からも患者を受け入れている。

 県東部消防局などによると、昨年12月5日、同病院救急集中治療科部長が同消防局担当者に、搬送時の救急救命処置「特定行為」の指示に関する救急救命士からの要請を受け付けない旨のメールを送信。10日間にわたって指示要請を拒否した。この間、いったんは要請を受け入れるとしたが、搬送時になって病院側が要請を断ったため、救急救命士は他の2次救急病院の医師の指示を受けつつ、中央病院に運んだケースが複数あった。

 これに対し、医療・消防関係者から「患者のスムーズな受け渡しに支障が生じる可能性があり、要請拒否はありえない」などと批判の声が上がり、広岡保明院長は消防など関係先に謝罪したうえで、28日に「指示要請に応じなかったのは大変不適切な行動だった」とのコメントを病院のホームページに掲出した。

 広岡院長によると、部長は拒否の理由について、搬送時の手順を取り決めた県の「プロトコル」の内容が不十分で、これを基に指示を出すことは責任が取れないと説明。同プロトコルは国のたたき台を基に、医師や消防関係者らで構成する県の協議会が作成し、中・西部も同じものを使っているが、運用に不都合は生じておらず、県消防防災課は「内容や記載に問題はない」と反論する。

 一方、消防側は12月中旬、要請拒否期間に中央病院へ救急患者を搬送した際、病院医師らからパワハラ行為を受けたとして、医師や消防関係者でつくる組織名で病院に調査を要請した。関係者によると、搬送時に患者の情報を電話で伝えようとすると、話の途中で切られたほか、ストレッチャーからベッドに移す際に医師や看護師に手伝うそぶりがなかったり、大声で伝えたことを再度聞かれ、先ほど伝えたと話すと「聞こえないのは意味がない」と言われたりしたとしている。

 また、関係者によると、消防側は約2年前から、特定行為の指示要請中に電話を途中で切る▽引き継ぎ内容を聞こうとしない▽搬送時に処置を手伝っていると、体を押し当て「邪魔だからどけろ」と言われた――といった医師らの行為が続いてきたと主張している。

 病院は消防側へ12日に調査回答を示す予定。広岡院長は読売新聞の取材に「(指示要請拒否は)行き過ぎた行為だった」と話しているが、パワハラ被害の訴えは「12日の記者会見で説明する」とし、部長は正式な取材要請に応じていない。

 小谷穣治・神戸大教授(災害・救急医学)は「医療機関と消防は、医療事故のリスクを抑え、地域住民に影響が出ないよう円滑な連携を取ることが求められる」としている。

  ◆特定行為 =救急救命士が医師からの具体的な指示を受けないと行えない救急救命処置。医療器具を用いた気道確保や心肺機能停止状態の患者への薬剤投与など、国が五つの行為を指定している。

2024.01.11 18:27:00

災害関連死防げ、DMATが能登半島の高齢者施設から入所者を搬送…数百人規模で搬送要請

 能登半島地震の被災地で支援にあたる災害派遣医療チーム「DMAT」が、高齢者施設の入所者を石川県内外に搬送する活動を進めている。断水や停電が続く中、安全な場所に移ることで災害関連死を防ぐ狙いがあり、対象者は数百人規模にのぼる見通しだ。

 医師や看護師らで構成するDMATは、能登半島地震の発生直後から、同県庁や同県内の病院などを拠点とし、被災地の医療支援にあたる。病院に入院する患者の搬送が一段落した9日、高齢者施設の搬送を始めた。

 七尾市の特別養護老人ホーム「秀楽苑」では9~10日、併設するグループホームを含む入所者87人全員が、DMATや自衛隊の車両で金沢市や富山県の高齢者施設などに移動した。秀楽苑などは、余震で建物が崩壊する恐れがあったが、認知症や寝たきりの人、酸素吸入が必要な人らがおり、近くの避難所に身を寄せることはできなかったという。

 秀楽苑の宇波秀勝施設長は「停電のため暖房がきく部屋は大広間のみだった。最低限の食事しか提供できず、全員が避難できてほっとしている」と話す。

 今回の活動を指揮する阿南英明・神奈川県理事(藤沢市民病院副院長)によると、10日時点で、高齢者施設から入所者計200~300人の搬送の要請があり、さらに増える見込みだ。搬送者の受け入れ先は、石川県内のほか、富山や愛知など近県の施設を中心に調整している。阿南理事は、「命の危機が迫る高齢者を、他施設にスムーズに受け入れてもらうためには国や各都道府県の協力が欠かせない」と話している。

2024.01.11 11:39:43

iPS・ES細胞から作製、精子・卵子の受精容認へ…不妊症原因など究明

 政府の生命倫理専門調査会は10日、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)から作製した精子や卵子を受精させる基礎研究を容認する方針を決めた。委員らにアンケートを行ったところ、9割以上が認めるとの見解を示した。作製した受精卵を、子宮に移植することは政府の指針で禁止されている。年内に報告書をまとめる。

 現在の国の研究指針は、iPS細胞やES細胞など、様々な細胞のもとになる幹細胞から作った精子や卵子を使って受精卵を作製する研究を認めていない。不妊症や遺伝性疾患の原因究明には、生殖細胞や受精卵の成長過程を解明することが重要として、研究者からは指針の見直しを求める声が上がっていた。

 同調査会は一昨年4月からiPS細胞などから作った精子や卵子を受精させる研究に関する議論を開始した。委員ら17人にアンケートを行ったところ、回答した16人中15人が「認める」と表明した。容認する理由として、「研究から得られる科学的知見が大きい」「医療に貢献する」などが挙がった。

 「容認しない」とした委員は、「技術が進めば、同一人物から精子と卵子を作製してクローンを作れる」との懸念を示したが、十分な規制があれば容認できるとした。

 同調査会は今後、受精実験が認められる研究目的などについて議論したうえで、年内に報告書を取りまとめる。

2024.01.10 18:09:57

余震が続く夜、陣痛の母は地割れした道を車で駆け抜けた…七尾の被災病院に希望の産声

 能登半島地震の余震が続く中、石川県七尾市の「 恵寿(けいじゅ) 総合病院」(426床)で、被災地の希望となる新たな命が誕生した。両親は地割れした道路を車で走り、海に面した病院に駆け込んだ。院内に響く元気な産声に、両親や医療スタッフらは喜び合った。(杉本奏)

 地震発生から2時間が過ぎた1日午後6時半頃、同病院で急きょ勤務に入っていた産婦人科長の新井隆成さん(60)が1本の電話を受けた。「10分おきに痛みが来ています」。切迫した声の主は、妊娠39週の山田優美さん(35)。すでに陣痛が始まっていた。

 悩んだ末、新井さんは院外での出産はリスクが大きいと考え、「到着さえしてくれれば、守ります。とにかく気をつけて来てください」と伝えた。

 新井さんによると、山田さんは第1子出産のため昨年11月、東京都から同市に隣接する志賀町の実家に帰り、同病院をかかりつけ医にしていた。救急車を頼むと、救命活動で手いっぱいで「自分で病院へ行ってくれ」と言われた。

 病院までの道路は隆起してひび割れもひどく、夫の運転で到着したのは約1時間後の午後7時半頃だった。病院は壁に亀裂が入り、水漏れが発生。産科病棟は足の踏み場もないほど備品などが散乱して使えず、 分娩(ぶんべん) は急きょ手術室で行うことになった。

 一時は帝王切開をする可能性もあったが、無事に3130グラムの元気な女の子が生まれた。新井さんは「余震も気づかないくらい集中した」と振り返る。気がつくと、翌2日の午前2時を過ぎていた。

 「こんな大変な時でも、赤ちゃんって生まれてくるんだ」。そう 安堵あんど する山田さんを、看護師らが涙ぐみながら「おめでとう」と祝福した。「周りの人が大変な時に、その気持ちを理解して行動できる子になってくれれば」と山田さん。待望の我が子を優しいまなざしで見つめていた。

 地震の後、9日現在で同病院は妊婦8人を受け入れ、山田さんを含む3人が出産した。新井さんは「病院のスタッフも被災して長くつらい日々が続くが、大切な命を守り抜きたい」と決意を新たにしている。

2024.01.10 10:35:28

臓器移植の体制充実を求める要望書、学会が国に提出へ…東大などで受け入れ断念相次ぎ

 日本移植学会は、脳死者から提供された臓器の移植を担う施設の体制充実を求める要望書を国に提出する方針を固めた。東京大など3大学病院で人員や病床などが不足し、臓器の受け入れを断念する例が相次いでいる問題を受けたもので、小野稔・同学会理事長(東大心臓外科教授)が9日、読売新聞の取材に対し、明らかにした。厚生労働省も関係学会と協力して対応を進める。

 脳死者の臓器提供は2023年、過去最多の132件となった。主要な移植施設に臓器の受け入れ要請が集中し、東大、京都大、東北大の3大学病院では対応能力が限度を超えたとして、受け入れを断念する例が60件超あった。

 小野理事長は「今後の移植医療の方向性を決める重要な時期を迎えている。問題が広がる前に、早く手を打たねばならない」と述べ、6~7月にも要望書を提出する考えを示した。

 一方、武見厚労相は同日の閣議後記者会見で、看護師らや集中治療室の不足による臓器受け入れの断念例が生じていることを認めた上で「提供件数の増加を踏まえた対応が重要。移植医療の円滑な実施に向けて関係学会と協力して対応する」と述べた。

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