今年4月、大阪府岸和田市立大芝小学校の入学式の最中に新入生の母親が倒れて、一時、心肺停止となった。緊迫した事態に、居合わせた看護師の保護者や教職員ら7人が力を合わせて救命措置を施し、母親は一命を取り留めた。市消防本部はその冷静で的確な対応を称賛。感謝状贈呈式で、無事に回復した母親が恩人たちに感謝の思いを伝えた。(松本慎平)
市消防本部が感謝状を贈ったのはいずれも看護師の雪本弥生さん(37)、萩原未夢さん(37)、小川真理子さん(46)、宮瀬隆也さん(30)。そして会社員の原陽介さん(38)、大芝小教諭新田展央さん(50)、同小校務員小次功晃さん(53)。
4月4日午前、大芝小体育館で、次女(7)の入学式に出席していた山内由起子さん(44)は突然意識を失い、椅子から崩れ落ちた。「バタン」という音で気づいた周囲の人たちが、一斉に動いた。
原さんが119番をし、新田さんと小次さんは体育館の玄関に設置されたAED(自動体外式除細動器)を大急ぎで運んだ。看護師の4人は交代で、胸骨圧迫やAEDによる電気ショックを行った。その間、由起子さんの夫・健史さん(49)は妻の名前を呼び続けた。
看護師でも突然の事態に対応することは簡単でなかったという。小川さんは「そばで協力してくれる人がいるだけでも違う」と振り返る。7人の他にも男性の出席者たちが上着を手に由起子さんを囲み、周りからの視線を遮る「パーティション」の役を担った。これによって手当てに集中できたという。
原さんの通報から約6分後に救急車が到着。病院に向かう車中で、由起子さんは自発呼吸を回復した。翌日には集中治療室から一般病棟に移り、その後も短期間で回復し、後遺症の心配もなく退院した。
倒れた原因は不整脈による心室細動だった。病院の医師は由起子さんに「自宅だったら亡くなっていたかもしれない」と告げるほど危険な状態だったという。6月の感謝状贈呈式で由起子さんは、「皆さまがいなければ、こうして生きていることはできなかった。助けていただいた命を大切に、これからも毎日笑顔で子どもたちの成長を見守っていける日々を大切に過ごしていきます」と話した。
導入進む映像通報システム
今回のような事態に備えて各地の消防本部で、現場の人のスマートフォンとを映像でつなぎ、患者の状態を即座に把握できる映像通報システムの導入が進む。岸和田市消防本部も4月に導入したばかりで、原さんとは別に119番した人と連絡を取りながら現場に向かうことができた。
同本部が運用する映像通報システム「Live119」では、スマホから通報が入ると、消防側が必要と判断した場合、通報者とビデオ通話を始めるためのURLを送信。患者を撮影してもらうほか、胸骨圧迫など救命措置の方法を説明する動画を消防側から送ることもできる。通信料は通報者が負担する。
大阪府東大阪市や守口市門真市消防組合消防本部なども4月に映像通報システムの運用を開始。読売新聞が府内の24消防本部(局)に取材したところ、14消防本部が導入済みで、その管轄地域は31市町村に広がっていた。岸和田市消防本部の担当者は「救急車到着までの手当てによっても救命率は変わる。映像を使って助言するので救命措置に協力してほしい」と話した。