政府は、出産費用への公的医療保険の適用を巡り、医療機関に支払われる診療報酬を原則として「50万円以内」とする方向で検討に入った。妊婦に対しては、通常の保険医療の場合にかかる3割の自己負担をゼロとすることに加え、50万円から出産費用を差し引いた額を一時金として支給することを検討している。
出産費用への保険適用は、厚生労働省とこども家庭庁の有識者検討会が制度設計などの議論を進めており、2026年度の適用を念頭に、来春をめどに結論をまとめる予定だ。
厚労省によると、正常 分娩 の費用の全国平均は、22年度は48・2万円だった。現在は医療機関が独自に価格を設定しているため、地域差が大きいほか、人件費や物価の高騰の影響で値上がり傾向が続いている。
保険適用は、全国一律に公定価格を決めることで出産費用の透明化を図り、これ以上の価格上昇に歯止めをかける狙いがある。政府は保険適用後の診療報酬について、現行制度で妊婦に支給される出産育児一時金(50万円)の範囲内に収め、保険財政が過度に圧迫されることを避ける必要があると判断した。
一方、現場を担う産婦人科医からは、保険適用に伴う収入減で経営が苦しくなり、医療体制の維持が困難になるとの懸念が上がっている。産婦人科医の理解を得るため、政府内では、減収分を補助金で支援する案も出ている。
また、政府は、保険の適用で妊婦の経済的負担がかえって増える事態とならないよう制度設計を進める考えだ。通常の保険医療の場合、患者は窓口で1~3割の自己負担分を払う必要があるが、出産費用は全額を保険でまかない、妊婦には自己負担を求めない。
出産一時金の支給も一部存続する方向だ。現行の50万円の一時金は、出産費用が50万円を下回れば差額が妊婦の手元に残る仕組みで、家計にとっては出産だけでなく、育児費用に充てるための貴重な資金ともなっている。このため、保険適用後も、費用が50万円未満の場合は差額を一時金で支給し、制度変更の前後で不公平感が出ないよう配慮する。厚労省幹部は「保険適用は少子化対策の意味合いもあり、出産を後押しする制度にしたい」としている。