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2024.08.26 11:54:44

介護ベッドなど福祉用具の事故情報、年内にもデータベース化…現在は集約する仕組みなし

 厚生労働省は、電動の車いすや介護ベッドなどの福祉用具を使用中に起きた死傷事故の件数や概要、要因などについて、データベース(DB)を構築し、公表する方針を決めた。自治体や消費者庁などに集まる情報を一元化し、高齢者や介護職員の安全な利用につなげ、メーカーの製品開発にも活用してもらう狙いだ。年内の運用開始を目指す。

 独立行政法人「製品評価技術基盤機構(NITE)」によると、介護施設や自宅などで使われる電動車いすやシニアカー(ハンドル付き電動車いす)、介護ベッドでの死傷事故は、2022年までの10年間に計86件確認されている。「踏切で脱輪し、立ち往生した」「ベッドと柵の間に首が挟まれた」といったケースで、メーカーなどから報告を受けたものだ。

 消費者庁は、メーカーなどが把握した死傷事故について報告を受け、ウェブサイトで公表している。

 一方、市区町村は、介護保険法の運営基準に基づき、福祉用具を扱う事業者や特別養護老人ホームなどから、現場で起きた事故の報告を受けるが、国に報告する仕組みはない。集約先がバラバラのため、どんな福祉用具で事故が何件起きているのか実態は分かっていない。

 新たに構築するDBでは、厚労省が作成した事故報告書を使って、自治体から任意に提出してもらう情報や、消費者庁が収集した事故情報などを集約し、活用する。公表するデータは、自宅と施設のそれぞれの事故件数、福祉用具の種類や使用場面ごとの事故要因の分析――などを想定する。

 福祉用具を利用する高齢者は22年度に約367万人と、12年度の1・7倍となり、高齢化で今後も増える見通しだ。厚労省は「事故情報を収集し、注意を呼びかける必要がある」(高齢者支援課)と判断した。メーカーが製品の安全性向上に役立てることも期待している。

 DBの詳細な設計や公表する内容は、厚労省の委託を受けた公益財団法人「テクノエイド協会」(東京都)の有識者会議で検討を進める。

 国際医療福祉大の東畠弘子教授(福祉支援工学)は「体の動きや判断力が衰えた高齢者が利用する福祉用具の安全性を高めるため、事故情報の一元化は重要だ。利用者や事業者に情報が確実に届くように、発信の仕組みも整えてほしい」と話している。

  ◆福祉用具= 介護保険制度で、つえや歩行器、移動用リフト、手すりなど13種類を原則1割の自己負担でレンタルできる。専門相談員が定期点検を行う。ポータブルトイレなど再利用がためらわれるものは、原則1割の自己負担で購入できる。

2024.08.23 16:04:58

創薬力強化へ新薬の研究開発拠点…海外新興企業を呼び込み、「ドラッグロス」解消図る

 日本の創薬力強化を目指し、厚生労働省は2027年度にも、新薬開発の基礎研究から試験薬の製造、臨床試験までを一体的に実施できる拠点を整備する方針を固めた。創薬を担うスタートアップ(新興企業)を海外から呼び込み、革新的な新薬の開発を活発化させる狙いだ。海外の新薬が日本で使えない「ドラッグロス」の解消にもつなげる。

 政府は7月、医薬品産業を日本の成長を担う基幹産業と位置づけ、創薬力を強化する方針を打ち出した。

 拠点は、その中核的な役割を担うもので、国内に1か所整備し、医療機関が運営する形を想定する。新薬の効果や安全性を確かめるための臨床試験を行う病院のほか、研究施設、試験薬の製造施設を設ける。25年度予算の概算要求に関連経費を盛り込む。

 近年、新薬開発は、米国を中心に新興企業が主に担うようになっている。しかし、こうした企業は日本に支社などを持たないケースが多いため、手厚く支援することで、海外発のシーズ(創薬のタネ)を国内に導入することを目指す。資金力に限界がある新興企業が基礎研究として細胞実験などをしようとしても、自前で施設を用意するのは難しい。拠点には実験室や事務室を設け、間借りして研究できるようにする。

 さらに日本での臨床試験実施を重点支援する。初期段階の臨床試験は、新薬の候補物質を初めて人に投与するため、予期せぬ副作用の発生などに対処できる体制を整える。製造施設では先端技術を使った多様な試験薬の提供を可能にする。

 拠点周辺には、国内外の新興企業を集積させ、製薬会社や大学、資金面で支援するベンチャーキャピタル(起業投資会社)などと連携できるようにする。政府は28年度に、初期段階の臨床試験を10件実施することを目指している。

2024.08.21 19:09:57

膝の痛みにmRNAで軟骨摩耗防ぐ、東京医科歯科大などのチームが治験へ…整形外科で実用化なら初

 東京医科歯科大などの研究チームが、遺伝物質メッセンジャーRNA(mRNA)を高齢者に多い膝の関節痛の患者に投与する治験を計画していることがわかった。対象の病気は「変形性膝関節症」で、国内の患者は推計2000万人以上に上る。整形外科分野でmRNA医薬品が実用化されれば世界初。チームは2030年代の承認と普及を目指している。

 変形性膝関節症は膝の軟骨が加齢などで少しずつすり減り、関節が変形する病気。痛みで歩行や階段の利用が難しくなり、高齢者の外出や運動が減って健康寿命を縮める一因になる。対症療法や運動療法はあるが、進行が速いと人工関節を入れる手術などが必要になる。

  位高啓史いたかけいじ ・同大教授らのチームは、人工的につくったmRNAで膝の痛みを抑える新しい再生医療の治験を計画した。mRNAは新型コロナウイルスワクチンの主成分として注目され、他の疾患に応用する研究が世界的に進んでいる。

 今回のmRNAは、膝軟骨の細胞の働きを高めるたんぱく質の遺伝情報でできている。患者の膝に注入すると、膝の細胞がこのたんぱく質を作り出し、軟骨を構成するコラーゲンを増やすなどして、軟骨が壊れるのを防ぐ。動物実験では軟骨の摩耗や関節の変形を抑えることに成功した。

 治験には、mRNA医薬品の開発を手がけるバイオ企業「NANO MRNA」(東京都港区)などが協力する。mRNAを直径1万分の1ミリ以下の膜に包んだ粒子状の医薬品とし、膝の細胞に届きやすくする。

 治験は少人数から始める方針で、年度内にも治験計画を国の機関に提出する。安全性が確認できれば治験の人数を増やし、有効性を検証した上で、医薬品としての承認をめざす。

 位高教授は「変形性膝関節症の痛みと進行を抑え、将来の関節手術を避けられれば、患者の身体的、経済的な負担を軽くすることができる。mRNAを使った日本発の新しい医療を届けたい」と話している。

 ◆ メッセンジャーRNA(mRNA) =細胞の中にあり、生命活動に必要なたんぱく質の設計図として働く小さな物質。細胞の核からDNAの情報を写しとり、たんぱく質を合成させる働きがある。

産学連携の開発加速を

 mRNAを使った医薬品は、新型コロナワクチンで米企業などが世界で初めて実用化し、次世代医療を支えると期待されている。感染症やがんのワクチンのほか、遺伝病や心臓疾患などの治療薬の研究開発も進む。

 新型コロナワクチンは健康な人の体内で「異物」であるウイルスの一部を作り、免疫をつける仕組みだった。今回の治験は患者の体内で軟骨の構造を再生させ、膝の痛みを抑えるたんぱく質を作らせる「薬」としてmRNAを用いる。

 mRNA医薬品は短期間に大量生産できる。国立医薬品食品衛生研究所によると、mRNAを使った臨床試験は2019年4月時点で世界で17件確認できたが、今年4月時点では140件と急増した。井上貴雄・同研究所遺伝子医薬部長は「新型コロナワクチンの普及でmRNAの製造施設の整備が進んだ。各国で承認審査の条件が整理され、開発が加速している」と話す。

 mRNAを薬として使う場合、人体に必要な投与量や、効果の持続時間はまだよくわかっていない。課題をいち早く解決すれば、世界の開発競争で日本が優位に立てる可能性がある。産学連携を進め、人材や資金を結集させるべきだ。(科学部 鬼頭朋子)

2024.08.21 17:56:51

コロナ後遺症患者5割が退職や休職、回復時期見通せない不安・職場の無理解…岡山大調査

 新型コロナウイルスの後遺症患者が、体調悪化を理由に退職や休職に追い込まれるケースが後を絶たない。岡山大(岡山市)の追跡調査では、患者の5割が該当した。回復の時期が見通せない不安感や職場の無理解が背景にあるとみられ、専門家は企業側の配慮の必要性を訴えている。(野口恵里花)

働きたいのに

 「理想の仕事だったのでショックだった」。兵庫県姫路市の女性(56)は3月、7年間勤めたレストランの調理師を辞めた。事務職などとして働いていたが、好きな料理を仕事にしたいと見つけた職だった。

 女性は2022年8月に感染し、頭痛や息切れなどの後遺症が残った。だるさでフライパンを持つのもやっとだったが、上司に伝えても負担は軽くしてもらえなかった。休憩時間に人目に付かない場所で横になった。体調は限界に達し、7か月間休職した後、回復が見込めずに退職した。

 現在は月に15万円ほどの失業手当をもらいながら、自宅で療養を続ける。高齢の両親と暮らす女性は「生活のためにも働かなくてはいけないのに、働けない。家にいると自責の念にかられます」と話す。

休むことで悪化も

 後遺症について、世界保健機関(WHO)は「感染から3か月時点で、別の病気では説明できない症状があり、それが2か月以上続く」と定義する。せきや息苦しさ、 倦怠けんたい 感、睡眠障害、味覚障害などを訴える人が多い。

 岡山大の大塚文男教授(総合内科学)は、23年12月までの約2年間、同大病院を受診した後遺症患者に聞き取り調査を実施した。その結果、 罹患りかん 前に働いていた545人のうち、220人(40・4%)が休職、53人(9・7%)が退職を余儀なくされていた。

 患者の中には、職場の上司から「後遺症なんて存在しない」などと言われ続けて精神的に追い詰められた人や、復帰のめどが立たず、職場に迷惑をかけたくないと退職した人もいた。

 大塚教授は「経済的な不安がある場合、休むことがストレスとなって症状が悪化することもある。企業側は職場で後遺症について周知するほか、患者が復帰しやすい仕組みを整え、安心して休めるようにすることが必要だ」と指摘する。

求められる配慮

 仕事と療養の両立を実現するため、対応に乗り出した企業もある。

 機械部品メーカー「イーグル工業」(東京)の岡山事業場の男性(41)は21年8月の感染後、倦怠感などが残った。半年の有給休暇などを経て、週2日のテレワークで業務を再開した。

 3か月ほどで出勤可能になり、負担軽減のため課長職から1人でできる業務に担当を変更。今年7月に課長職に復帰し、「会社が向き合ってくれ、安心して療養できた」と感謝する。

 上司だった森茂俊さん(62)は「他に事例がなくて戸惑った」と言うが、症状を丁寧に聞き取り、負担が少ない勤務形態を話し合うことを意識したという。

 「特別扱いと思われないよう、症状や対応をほかの社員と共有したことが良かった」と振り返る。一連の対応については別部署でも取り入れてもらえるよう、会社側に進言した。

 就労と治療の両立に詳しい産業医科大の五十嵐侑講師は「後遺症は人によって症状が異なる。話を聞いて柔軟に対応できたことや、段階的な復職で心身のストレスを軽減できた点が良かった」と評価する。

 五十嵐講師によると、▽テレワークの利用や就業時間中の休憩を許可する▽上司が部下の状況に気を配り、体調不良について相談しやすい雰囲気をつくる▽社内に相談窓口を設置して利用が進むよう周知する――などが有効という。

お盆明けの感染に注意

 昨年5月8日に感染症法上の分類がインフルエンザと同じ「5類」に引き下げられて以降も、新型コロナウイルスの感染者数は、増減を繰り返している。

 厚生労働省によると、全国約5000か所の医療機関から報告された今年7月22~28日の感染者数は、1医療機関あたり14・58人。1~2月の第10波ピーク時の同16・15人に近づいた。

 その後は2週連続で前週を下回っているが、同省は「昨年もお盆明けに増加の傾向が見られたので、注意が必要」として、手洗いやうがいなど基本的な対策の実施を呼びかけている。

2024.08.20 17:50:33

富士山「弾丸登山」、規制効果で92%減…今夏もスニーカーなど軽装目立つ

 今夏の富士山は山梨県側で初めて登山規制が行われ、例年登山者数がピークを迎えるお盆期間も比較的静かだった。ご来光を見るために夜通しで登る「弾丸登山」も減り、夜間の登山者数は前年より9割減った。一方で軽装の登山者が依然として目立っており、体にこたえる厳しい環境をどう周知していくかが課題として残っている。

受診「数人程度」

 富士山の登山ルートは山梨側に1本、静岡側に3本あり、登山者の6割が山梨側から登る。山梨県は混雑や弾丸登山を防ぐため、山梨側の吉田ルートで7月1日の山開きから規制を実施。5合目の仮設ゲートを午後4時~午前3時に閉鎖し、登山者数を1日4000人とした。1人2000円の通行料も徴収している。

 同県富士吉田市によると、今月18日までに吉田ルートの6合目を通った登山者は9万456人で、前年同期比13・8%減。弾丸登山が目立っていた午後9~11時台は166人で、同92・6%の大幅減だった。山小屋スタッフの井上義景さん(44)は「この時期は小屋の外で仮眠する人が毎日いたのだが……」と驚く。

 8合目の「富士吉田救護所」で10~12日に詰めた医師の前田 宜包よしかね さん(63)も「以前は夜に寝られないほどの受診者が来たが、今年は数人診た程度だ」と、弾丸登山が抑制された効果が出ているとみる。

静岡にも流入せず

 山梨側を避け、登山人数の規制がない静岡側から登る人も比較的少なかった。

 環境省によると、7月の登山者数は富士山全体で8万2092人で、前年同期比10・9%減。このうち静岡側が開山した同10日以降の登山者の割合は、山梨側54・4%、静岡側45・6%で、前年比で山梨側4・1ポイント減、静岡側4・1ポイント増にとどまった。静岡県富士山世界遺産課の担当者は「お盆も登山者の割合は例年通りに推移した印象だ」と話す。

軽装なお課題

 軽装の登山者は今夏も目立つ。ラフな格好で来る外国人も多く、山梨県はゲート前で係員がスニーカー姿などの登山者に声をかけ、装備のレンタルや購入を促している。長崎幸太郎知事は7月の記者会見で「準備不足の方の通行をお断りすることも考える必要がある」と話した。

 開山後の遭難も相次いだ。静岡県警によると、静岡側では18日までに4人が死亡し、前年同期比3人増。山梨県警によると、山梨側でも3人が死亡した。

 山頂は夏でも気温が5度程度まで下がるうえ、天候も急変しやすく、雨具や防寒着がなければ命に関わる。前田さんは「低酸素下で負荷の高い運動をすると予想もしないような症状が起きる。まずは近くの山に登るなどして心肺機能を確かめてほしい」と注意を促す。

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