講師 中川 泰一

中川クリニック

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。

そしていよいよ細胞老化の第3番目の原因であるテロメア短縮によるもの (複製老化)について。第3番目と言ったが老化とテロメアが最も関連している気がしませんか?

そもそも複製老化とは、正常細胞をin vitroで培養すると約50回の分裂の後に増殖が止まる現象から発見された。この現象のことを発見者のHayflick博士の名を採って、Hayflick(ヘイフリック)限界と呼ばれている。そして、現在ではこの現象の原因はテロメアの短縮によるものと考えられている。

さてまた「テロメア」だ。以前の「不老」に関してでも出てきたが(老化細胞じゃありませんよ。念の為。)この際、ちょっと詳しく説明しておこう。

テロメアは「染色体の末端を保護する染色体の要素」としてハーマン・J・マラーとバーバラ・マクリントックによって発見された。その名の由来だが、テロメア(telomere)とはギリシア語で「末端」を意味する「テロ」 (telos) と「部分」を意味する「メア」 (meros) からなる造語だ。そして、その名の通りテロメアは染色体の末端にあり、特徴的な繰り返し配列をもつDNAとタンパク質からできている。

テロメアDNAの構造はG(グアニン)T(チミン)を多く含む染色体の特徴的なヌクレオチド反復配列が数百から数千繰り返されたもので、染色体末端のTループと呼ばれるキャップ構造の形成を促進し、染色体の分解や染色体末端同士の融合を防ぐためのキャップとしての役割を果たしている。

なお、テロメアの最末端ではGTに富む一本鎖のDNAオーバーハングを形成しており、これを「Gテール」と言う。このGテールが色々な健康状態や寿命を表すと言う。

では、根本的な問題として、なぜテロメアが短くなっていくのかと言うと、ここにDNA複製における「末端複製問題」と言うのがあるのだ。

どう言うことかと言うと、細胞が分裂するときDNAの複製が行われる。ところが直鎖状染色体DNAが複製されるとき、新しく生成されるDNA鎖の5’端は元となる鋳型のDNA鎖に比べて短くなる。なぜかと言うと、DNA複製が核酸の断片から5’→3’とい う一方向にDNAを合成していく反応でり、線状DNAのラギング鎖の末端ではDNAポリメラーぜによるDNAの合成開始に必要なRNAプライマーをつくる余地がないため,鋳型のDNA鎖の3’末端(つまり対する新生DNA鎖の5’末端)が合成されないことによって起こる。さらに鋳型DNA鎖の5’端も複製後には分解される。この為、新生DNA鎖と鋳型DNA鎖はともに複製の度に5’末端が100~200塩基ずつ短縮することになるが、テロメアが付いているためテロメアが短縮していくことになる。これが「末端複製問題」と言われておりDNAがどのようにして完全に複製されているかが謎だった。

この解答として「テロメラーゼ」と言う酵素が発見された。このテロメラーゼは RNA 成分を含む特殊な逆転写酵素で、その RNA 成分の中にテロメアの繰返し配列に相当する CCCCAA という配列が存在している。そして、テロメラーゼは自身の RNA 成分を鋳型としてテロメア配列を合成する事が解った。つまり、テロメラーゼが末端のテロメアの配列を繰返し 合成しその長さを調節することで、最末端のテロメアを失うことなく染色体を完全に複製できると言う事がわかり、この「末端複製問題」が解決された。

この様にテロメアは細胞分裂のたびに短縮するのではなく、テロメラーゼによって伸張する。しかし、当然ながらこのテロメラーゼがない細胞では、細胞分裂のたびにテロメアが短くなる。つまりDNA複製が起こるたびにテロメア長は徐々に短縮され、臨界長に達するとDNA複製が妨げられ細胞分裂が止る。するとキャップ構造を持たない非常に短いテロメアによってDNA損傷応答が開始され細胞老化が誘導される。

そして、幸か不幸かテロメラーゼは人の体細胞のほとんどでは発現していないか、微弱な活性しか無い。

つまり、テロメアはDNAポリメラーゼだけでは完全に複製することができ無いので、人の体細胞では短縮して行き「老化細胞」の発現や「死」に至ってしまう。

しかしながら人の体細胞の中でも例外的に癌細胞、幹細胞、生殖細胞はテロメラーゼを発現しテロメアの長さが維持されるため、複製老化に達することなく継続的に増殖することができる。

余談だが、老化細胞の負の部分だが、いまだに流行のCOVID-19の重症化の原因の一端としてこの老化細胞の関与が疑われている。

まず、COVID-19の特徴として、重症化する感染者はほとんど高齢者で当然「老化細胞」も多い。そして SASPの主体は炎症性サイトカインである。この事から考えられる機序としては、COVID-19が感染すると、生体防御機構として細胞老化が誘導される。するとSASPにより免疫細胞が過剰に活性化され、サイトカインストームを引き起こし免疫細胞が身体中の細胞を攻撃し出し重症化する。

以前より、COVID-19の重症化は サイトカインストームによる免疫暴走によると言われていたが、この説明で納得出来た気がするがいかがですか?

そうすると老化細胞を除去することにより、サイトカインストームが予防でき、COVID-19の重症化も防げると言う事になる。

さらに言うと高齢者だけが老化細胞を発現している訳でない。そこで私からの提言だが、COVID-19の重症者治療および重症化予防に「老化細胞除去」を用いてはいかがだろうか?