記事・コラム 2022.04.10

医者が知らない医療の話

【2022年4月】若返りの治療 Ⅳ

講師 中川 泰一

中川クリニック

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。

前回ざっとお話しした「老化細胞」だが、そもそも名前自体が紛らわしいと思いませんか?

実際は「細胞周期が停止し、細胞増殖を行わず、かつ細胞が安定的に生存している状態の細胞」の事だが、この細胞自体が「老化」しているわけではない。確かにこの細胞が蓄積してくると、SASP (senescence-assosiated secretory phenotype)により各種の加齢を促進する働きをしているが、それだけじゃない。発癌予防など色々と有益な作用があるのは前回述べた通り。私的には「停止細胞」とでもしてくれた方がわかり良いと思うのだが。

そもそもこの「老化細胞」はと言うと、ヒト胎児線維芽細胞が一定回数の細胞分裂を経た後に増殖が止まり、さらにその後も細胞は死滅せず生存し続ける現象として発見された。そしてこの現象を細胞が死滅するアポトーシスと異なることから、「細胞の老化」と名付けられたと言う経緯がある。

まあネーミングの問題はさておき、身体を正常に保つための細胞の新陳代謝のためには、プログラミングされた細胞死であるアポトーシスを発現させて古くなった細胞を除去するのが合理的だ。ではなぜ老化細胞なのだろう?

老化細胞の発現には以下の3パターンがある。

1.DNA損傷によるもの (DNA損傷誘発性老化)
2.癌遺伝子活性化によるもの (がん遺伝子誘発性老化)
3.テロメア短縮によるもの (複製老化)

1.および2.のパターンは明らかに、細胞が癌化するのを防ぐための作用と考えられる。突発的な事故により細胞のDNAが障害を受けたときに、損傷したDNAを持つ細胞の無限増殖、つまり癌化を起こさせないために増殖を停止させ、さらにSASPにより各種免疫細胞を活性化したりして癌細胞を死滅させたりする。と言う身体の緊急避難装置のはずだ。

ところが、その後老化細胞が蓄積して来ると、今度はSASPは老化を促進する作用として働いてしまう。この二面性は何なんだろう?

この現象の一つの解釈として言われているのが、「人の寿命が急激に伸びた為、身体のシステムが適応していないのではないか?」と言う説だ。つまり、長生きしすぎて、老化細胞の負の作用が発現してしまっていると言う訳だ。人類の寿命が延びたのはここ100数十年の事で、身体のシステムが順応出来ないまま、加齢が進んでしまい、負の作用が出てしまっているのではないかと言うのだ。

原則として、人の身体のシステムは細胞が正常に再生していく様に出来ているとすると、この「長生きしすぎ説」は説得力があるのだが。反対に、生物は必ず「老化」し「死」を迎える前提だと話がややこしくて、先程の仮説もおかしくなるのだが、皆さん如何お考えですか?

そもそも身体の「老化」さらに「死」が起こる合理的説明は、現在のところなされていない。勿論、生科学的にと言う意味で。「魂は肉体と別にあり、肉体は生殖により再生している。」という考えもあるが、宗教的な発想の域を出ない。最新の量子力学ではこれを支持する説明がなされるというがまだまだ仮説の域を出ない。何せ、有史以来、生き返った人の記録って「イエスキリスト様」しか無いし(もっとマイナーな話はあるかも知れないが寡聞にして存じ上げない。)。キリスト教徒の方にはお叱りを受けるかも知れないが、これも確たる科学的な証拠があるわけでもないし。

では、生物には「老化」や「死」が必須のものかというとそうでも無いところが悩ましい。現実として生物の中には「プラネリア」のように「不死」なものもいる。更にはもっと高等生物の哺乳類の中でさえも「ハダカネズミ」が存在する。「ハダカネズミ」には老化の兆候が見られず、事故や病気以外の老衰による死亡が見られないばかりか生殖能力も衰えない。このデーターはなんと3000匹の「ハダカネズミ」を30年間観察したと言うのだから恐れ入る。これらの実例から「不老不死」もあながち夢でないと考えられている。また、先程の生物が「老化」や「死」至る事への合理的理由が見出せないという事にも繋がる。

この辺りの議論の元になる現象が、3.テロメア短縮によるもの(複製老化)に関連して来るのだが。続きは次回に。