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2024.02.09 16:28:43

日本で発生例ないアフリカ豚熱、韓国で感染拡大…農水省が水際対策強化「いったん侵入すれば全国に広がる」

 日本では発生例のない家畜伝染病「アフリカ豚熱(ASF)」が日本に近い韓国南部で拡大し、農林水産省が警戒を強めている。人には感染しないものの、ワクチンがなく、日本で広がれば養豚業に大きな被害が生じる恐れがある。同省は、ウイルスの侵入リスクが高まっているとして、港や空港での持ち込み品検査や消毒の徹底など水際対策を強化している。(浜田萌、西部社会部 今泉遼)

■「なんとか防ぐ」

 「ご協力をよろしくお願いします」「カムサハムニダ(ありがとう)」

 今月8日、韓国に最も近い長崎県対馬市にある比田勝港の国際ターミナル。同省動物検疫所の職員らが、韓国の 釜山プサン から訪れた旅行客に声を掛け、「肉製品持ち込み禁止」とハングルや英語で書かれたポケットティッシュを手渡していた。

 ASFウイルスは、肉製品や人に付着して国内に持ち込まれる恐れがある。同港では1月から、家畜防疫官を1人から2人に増員し、検疫態勢を強化した。この日は、検疫探知犬も初めて投入。肉入りの韓国のり巻き「キンパ」を持ち込もうとした客に廃棄させたという。

 動物検疫所博多出張所(福岡市)の 田上たがみ 勝則所長は「ウイルスがいったん侵入すれば全国に広がってしまう可能性があり、なんとか防ぎたい」と話す。

 東京・羽田空港でも7日、動物検疫への協力を求める啓発キャンペーンが行われた。10日から中国の春節(旧正月)の休暇が始まり、出入国者の増加が見込まれるためで、動物検疫所羽田空港支所の新堀均次長は「水際対策を徹底するため、検疫と広報の両輪を強化していく」と力を込めた。

■「大打撃」

 同省によると、ASFは、すでに国内で発生している「豚熱(CSF)」とは異なり、有効なワクチンや治療法がない。豚とイノシシが感染すると致死率はほぼ100%とされる。79か国・地域で発生が報告されていて、アジアでは2018年に中国で確認されて以降、日本と台湾を除く全域に拡大した。

 韓国では19年に初めて発生し、南部の釜山で昨年12月、野生イノシシの感染が初確認された。さらに、1月下旬以降、大阪や福岡などとの定期航路がある釜山の港付近で、ASFに感染した野生イノシシが相次いで見つかり、日本への侵入リスクが高まっている。

 坂本農相は9日の閣議後記者会見で「ひとたび侵入すれば、我が国の畜産業が大打撃を受ける」と危機感をあらわにし、水際での検疫を強化する考えを示した。

 宮崎市の養豚会社「日高スワイン」専務の日高省三さん(69)は「ウイルスの侵入はもはや時間の問題」と感じている。九州は豚の飼育頭数が全国の約3割を占める「養豚王国」。同社では宮崎県内の4農場で約1万3000頭の豚を飼育していて、日高さんは「農場に入らないよう最大限の警戒を続ける」と気を引き締める。

■消毒徹底

 ASFウイルスは、精肉やハムなどの加工品で3か月から1年近く、冷凍肉だと数年単位で感染力を持つとされる。動物検疫所が渡航者の持ち込み品を検査したところ、18年10月から24年1月末までに、ASFウイルスの遺伝子が134件検出され、うち4件ではウイルスが感染力を持ったままだった。

 このため、同省は、旅行者らに対して、肉の入った食品を違法に持ち込まないよう呼びかけている。屋外に放置された肉製品を野生イノシシが食べて感染するのを防ぐため、キャンプ場などでは、余った肉や食べ残しを野外に捨てずに適切に廃棄するよう注意喚起している。

 また、靴底についたウイルスが国内に入り込まないよう、水際での消毒を強化。空港や港に設置された靴底用の消毒マットについて、1月から消毒液の濃度を高める措置をとった。フェリーにのせた自転車や車の消毒も行っている。

 同省によると、ASFが広がった中国では19年に殺処分などにより飼育豚が減り、豚肉価格が2倍以上になったという。同省幹部は「ASFが発生すると、経済的なダメージも大きい。安易に肉製品を持ち込まず、一人一人がウイルスの侵入防止への意識を持ってほしい」と話している。

2024.02.08 16:35:26

高齢者の救急搬送に対応「地域包括医療病棟」、中小病院に創設へ…高度医療の大病院と役割分担図る

 増加する高齢者の救急搬送に対応するため、厚生労働省は、新たな受け皿となる「地域包括医療病棟」を創設する。地域に根差した中小病院を中心に設け、高度な医療を担う大病院との役割分担を図る。看護師などを手厚く配置し、治療からリハビリ、退院に向けた支援までを一貫して提供して、早期に自宅に戻れるようにする。2024年度の診療報酬の改定に盛り込む。

 新病棟は、高齢者の救急患者の受け入れやケアに必要な体制を備えるのが特徴だ。高齢者に多い 誤嚥性(ごえんせい) 肺炎や尿路感染症などの患者を想定している。入院中は体力を維持するため、リハビリや栄養管理で支援し、退院後の生活相談、在宅復帰後に必要な介護サービスの調整までを包括的に提供する。

 看護師は、患者10人につき1人以上、夜勤は2人以上を病棟に配置するという施設基準を設ける。リハビリなどを行う理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士を常勤で置くことも求める。診療報酬改定では、導入した医療機関に対する新たな入院料を設けて整備を進める。

 近年、65歳以上の高齢者の救急搬送件数は増加傾向にある。総務省消防庁によると、22年は386万人に達し、10年前より100万人以上も増え、救急搬送全体の6割を占めている。搬送件数は35年にピークを迎えると見込まれている。

 一方で、高齢者の救急患者のうち、9割が軽症・中等症患者だ。大病院に運ばれて治療を受けても、入院中にリハビリなどが十分に行われず、結果的に心身の機能が低下してしまうことが指摘されている。

 厚労省はこれまで「団塊の世代」が全て75歳以上になる25年を見据え、治療後の在宅復帰を支援する「地域包括ケア病棟」を14年に新設し、拡充を進めてきた。23年5月時点で約2600病院に約10万床が整備された。高齢者の救急搬送受け入れにも対応してもらうことが期待されていた。

 しかし、症状が安定した患者を想定した病棟であるため、病院側から十分に対応できない場合があるとの声が上がっていた。地域包括ケア病棟は看護師が患者13人につき1人以上配置されている。新病棟はさらに手厚くすることで、救急患者への対応を可能にする。

  ◆診療報酬 =医療機関や調剤薬局が医療サービスや薬の対価として受け取る報酬。入院料や初診料、手術料など内容に応じて細かく点数化し、価格が設定されている。原則2年に1度見直される。国が進めたい医療政策に医療機関を誘導する手段にもなっている。2024年度から施行時期がこれまでの4月から6月になる。

2024.02.06 18:15:28

救急搬送に「マイナ保険証」活用、通院歴や処方薬の把握を容易に…搬送先選定の迅速化にも期待

 総務省消防庁は、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」を活用した患者搬送を5月中旬にも開始する。これまで搬送の参考とする患者の医療情報は、口頭で聞き取ることが多かったが、マイナ保険証を利用することで、通院歴や処方薬などの情報を把握することが容易になり、救急活動の迅速化や円滑化につながると期待している。

 救急現場では、隊員が患者から通院先の医療機関や処方薬などの情報を聞き取って搬送先を決める際の参考にしている。しかし、詳細な情報を覚えていない人も多く、症状によっては会話が困難なケースもある。こうした状況を踏まえ、同庁は患者がマイナ保険証を所持している場合、その場で医療情報を閲覧できるシステムを導入する。

 具体的には、患者に同意を得た上で、隊員が専用のカードリーダーでカードを読み取り、レセプト(診療報酬明細書)処理を担う厚生労働省所管の「社会保険診療報酬支払基金」に情報照会するシステムを構築する。このシステムにより、救急車内に設置したタブレット端末で患者の氏名や住所のほか、医療機関の通院歴、処方薬、手術などの情報を閲覧できるようになる。

 このシステムの導入によって、患者から救急隊員への詳しい説明が不要になる上、隊員にとっても、正確な情報に基づき、迅速に搬送先の医療機関を選定することが可能となる。受け入れる医療機関側も事前に既往歴や処方実績などを把握することで、円滑な救命処置ができる。

 同庁は、全国の47消防本部の500隊程度で、実証事業としてこの取り組みを始める考えで、今月上旬まで参加を公募している。実際に現場でマイナ保険証を活用した救急搬送を実施する時期は大型連休明けの5月中旬を見込んでいる。将来的には意識のない重体患者のような場合でも、医療情報を閲覧できるようにすることも検討している。

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