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2024.06.06 15:31:46

「睡眠科」を診療科名に追加へ、08年以来の見直し…不眠・無呼吸など「国民病」の治療期待

 厚生労働省は、医療機関が掲げることができる診療科名に「睡眠科」を追加する方針を固めた。診療科名を分かりやすく表記することで、患者が医療機関を選択しやすくする。診療科名の見直しは2008年以来となる。日本人は睡眠時間が短く、睡眠障害は現代の「国民病」とも言われる。様々な病気のリスクを高める恐れがあるため、適切な治療につながることが期待される。

 医療機関が看板などで広告できる診療科名は「 標榜ひょうぼう 診療科」と呼ばれ、厚労省が医療法に基づき定めている。「内科」「外科」「小児科」など単独で使えるものが20種類あるほか、「糖尿病内科」「脳神経外科」など組み合わせで認められているものもある。それ以外の診療科も開設できるが、路上や駅での広告や看板などで宣伝ができない。

 追加するには、関連学会の賛同を得た上で、厚労省の医道審議会に意見を聞く必要がある。〈1〉国民の求めの高い診療分野であるか〈2〉診療科名がわかりやすいか――などの条件を満たしていることが前提となる。

 専門医らでつくる日本睡眠学会の調査では、睡眠障害を治療する医療機関(約1200施設)の72%が睡眠科の標榜を希望する。同学会は日本呼吸器学会や日本循環器学会など関連学会から賛同を得られるよう調整を進めており、今夏にも追加を求める要望書を厚労省に提出する予定だ。

 これを受け、厚労省は早急に手続きを進める考えだ。「睡眠科」の単独ではなく、「睡眠内科」「睡眠精神科」など組み合わせで標榜できる方式を想定している。

 現在、患者は症状に応じ、精神科や耳鼻咽喉科、小児科などにかかっているとみられるが、受診先を探しにくいことが課題となっている。日本睡眠学会は「一目で分かる診療科を求めるニーズは高い」と説明する。

 経済協力開発機構(OECD)の調査(21年版)では、日本人の1日あたりの平均睡眠時間は7時間22分で、33か国中で最も短い。厚労省の調査では、睡眠で十分な休養が取れていない人の割合は18年に21・7%に上っている。慢性的な睡眠不足は高血圧や糖尿病、うつ病などのリスクを高める恐れがある。

 こうしたなか、睡眠への関心が高まっている。睡眠の質を高める効果をうたう乳酸菌飲料などが人気となっており、調査会社の富士経済によると、睡眠サポート市場は15年の43億円から22年には640億円に急拡大している。

 ◆ 睡眠障害 =睡眠に何らかの問題がある状態で、心身の健康に影響を与える恐れがある。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、過眠症「ナルコレプシー」など約70種類と多岐にわたる。睡眠が不足すると、高血圧や糖尿病、心疾患などのリスクを上昇させる恐れがある。厚労省は睡眠時間の目安として、成人では6時間以上を推奨している。

2024.06.05 12:32:10

きょうだいで暴力含むいじめ受け「たすけてください」…学校の「重大事態」報告は3~6か月後

 高松市立小学校で2021~22年に起きたいじめの「重大事態」2件について、学校から市教委や市長への発生報告が、保護者の申し立てを受けてから3~6か月後だったことが、保護者への取材でわかった。文部科学省は指針などで速やかな報告を求めており、専門家は学校や市教委の対応を疑問視する。(黒川絵理)

 文部科学省は、いじめ防止対策推進法に基づく指針などで、市立校は保護者や子どもから重大事態の申し立てを受けた場合、直ちに市教委を通じて市長に報告しなければならないと定めている。特に子どもの欠席が続くケースは、7日以内の報告が望ましいとしている。

 保護者の説明や、市教委が保護者に開示した資料によると、2件の被害児童はきょうだいで、同じ市立小に通っていた。

 上の児童は2021年11月~22年1月、クラスメートから体の上に乗られたり、髪を引っ張られたりしたほか、「死ね」などの暴言を受け、別室登校になった。下の児童は22年5月、クラスメートから顔を殴られたり、膝を蹴られたりされ、登校できない日が続いた。2人ともその後、転校した。

 保護者は学校に被害を訴え、上の児童については22年6月、下の児童も同9月、学校にそれぞれ、「重大事態として取り扱ってほしい」と申し立てた。

 学校はいじめ行為があった直後から市教委と情報共有し、加害児童に謝罪させたり、教員を増やしたりしたが、市教委に2件の重大事態の発生を報告したのは、いずれも同12月だった。市教委はその10日後、大西秀人市長に伝えた。

 校長らで構成される調査委員会は23年9月、2人ともいじめがあったとする調査結果をまとめ、市教委に報告した。

 保護者は学校の対応について、「申し立てはどうなっているのかただしても、学校側からは『円満解決を目指す』と繰り返され、放置されたと感じた。調査が遅れ、ほかの児童の記憶も薄れて全容解明が難しくなった」などと主張。調査委も、発生報告の遅れについて調べていないなどとして再調査を求めている。

 市教委は学校から重大事態の報告を受けた直後の22年12月、各校に対して、重大事態への対応の流れや提出書類の様式を説明する文書を出していた。

 市教委学校教育課は取材に「個別事案は明らかにしない」としている。文科省のガイドラインは、重大事態の調査結果は「特段の支障がない限り、公表が望ましい」としているが、市教委はこれまで「児童生徒への影響を総合的に勘案している」として公表していない。

  千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)の話 「学校も市教委も教室に入れなくなったり、欠席が続くようになったりした時点か、遅くとも転校をした時点で自ら重大事態として対応すべきだった。被害者に放置されたと感じさせたことは二次被害だ。法の趣旨を無視した対応といえる」

 ◆ 重大事態 =2013年施行のいじめ防止対策推進法で定義された。いじめで児童の生命や心身などに重大な被害が生じたり、年間30日以上欠席を余儀なくされたりしている疑いがある事案を指す。

2024.06.04 16:47:49

川崎市医師会がLINEで医療人材マッチングサービス…紹介会社手数料に苦しむ医療機関の声受け

 全国で医療人材不足が問題となるなか、川崎市医師会は、LINE(ライン)を使って医療機関と求職者をつなぐ独自のマッチングサービスを始めた。人材紹介会社を介さず直接、医療機関と求職者を結ぶことで、高額な採用経費を削減し、採用しやすくするのが狙いだ。(松岡妙佳)

 「昨年1年間で約4500万円が人材紹介手数料に消え、赤字になった」。市内で病院を経営する医療法人の男性理事長(49)はため息をつく。新型コロナウイルスによる業務負荷の増大などにより、2022年1月~23年12月の2年間で看護師が計30人離職し、23年3月から約4か月間、病棟1棟を閉鎖せざるを得なかった。

 病院は看護師確保のため、大手就職情報会社や人材紹介会社など、過去最多の11社と契約。23年中に40人を採用したが、紹介手数料は採用する人材の年収の約2割ほどが「相場」といい、1人平均約110万円を費やした。「採用をためらえば病院の機能が維持できず、背に腹は代えられない」――。

 採用経費に悩む会員の声を受け、川崎市医師会は昨年10月、公式ウェブサイト内に医療機関の求人情報を無料掲載するページを作った。現在、市内の医療機関93件が看護師や医師などを募集している。

 さらに、4月からは市内の人材育成会社と協力してSNSで情報発信し、求人情報のページに誘導する仕組みも導入。同医師会の求人情報を発信するライン公式アカウントを作り、アカウントのリンクを開くと医療機関の連絡先や待遇がわかる求人票が表示される。

 インスタグラムのアカウントも作り、市内の医療機関で働く看護師のインタビューなどを紹介し、結婚や出産で一度離職した「潜在看護師」も発掘する。ラインの登録者を増やすため、市のイベントでPRしたり、ポスターを作ったりして周知する。

 厚生労働省が昨年公表した看護職員の1人あたりの人材紹介手数料は、全国平均で約57万円(2021年度)。ハローワークなど、無料の求人方法もあるが、求職者にとっては、人材紹介会社に登録して転職先を探すのが一般的だという。

 医療機関側にも「急いで採用したい」などの事情があり、有料の紹介会社の利用が広がっている。同省には「手数料に上限を設けるべきだ」などの声も寄せられているという。

 全国の都道府県医師会によると、SNSで会員の求人を拡散している医師会はほかになく、川崎市医師会独自の取り組みとみられる。市医師会の岡野敏明会長は「どこも人材不足と採用時の高額な費用に苦しんでいる。将来的には医師会だけでなく、看護協会や薬剤師会とも協力して仕組みづくりをしていきたい」と意気込んでいる。

2024.05.31 18:04:35

コロナ解説きっかけ、SNS中傷5000件被害の医師「萎縮すれば正しい情報伝わらない」

 新型コロナウイルス禍でワクチン接種を呼びかけた医師らが<コロナ騒動の戦犯>などとSNS上で激しい 誹謗(ひぼう) 中傷にさらされた。「 萎縮(いしゅく) すれば次のパンデミック(世界的大流行)で正確な情報の発信が妨げられる」――。医師らは、そんな思いから今も悪質な投稿者の責任を追及している。(川畑仁志、石間亜希)

情報開示を申し立て

 <ワクチンを推進した人殺しの畜生><#コロナ脳死ね><生きている価値がない>

 埼玉医科大総合医療センター(埼玉県川越市)でコロナ禍に対応した岡秀昭教授(総合診療内科)は、2020年の感染拡大以降、SNSで続く中傷に頭を悩ませてきた。

 流行が始まった直後から、X(旧ツイッター)で 逼迫ひっぱく する医療現場の実情を発信し、感染対策の必要性を訴えてきた。すぐにSNSでの中傷が始まり、22年頃にネットニュースのコメンテーターとして、コロナワクチンの重症化予防効果などの解説を始めた頃から激化した。

 <おぞましいくらいに気持ち悪い>――。顔の見えない匿名アカウントからの言葉の暴力はやまず、昨年5月頃から約50件の投稿について発信者情報の開示を裁判所に申し立て、これまでに約20人を特定。謝罪を求めたところ半数はすぐに応じ、最高約100万円の和解金の支払いを受けて示談した。

 「感情的にならず、冷静に意見を述べればよかった。ひきょう者だった」などと反省の言葉を記した手紙も届いた。

 一方で、一部の投稿者は過激化し、<殺意がわいてきた><ぶっ殺したくなってきた>などとさらに乱暴な投稿を続けた。

 岡氏は特に悪質な投稿者について、損害賠償を求めて民事訴訟を起こし、警察にも刑事告訴した。岡氏が数えた中傷投稿は5000件を超えたという。「医師が 躊躇ちゅうちょ すれば、世の中に正しい情報が伝わらなくなってしまう。SNS事業者は、誹謗中傷や侮辱、名誉 毀損きそん に当たる投稿を厳しく規制してほしい」と訴えた。

開示に時間

 新型コロナワクチンの情報発信サイト「こびナビ」(23年11月活動終了)の副代表として、Xなどでワクチンの情報を発信してきた木下 喬弘(たかひろ) 医師(38)も中傷を受けた一人だ。

 自宅の住所をさらされ、<木下はワクチンを打っていないのに、打ったふりをしている>と事実無根の情報を拡散されたため、法的手段を取ることを決めた。

 ただ、発信者情報が開示されるまで、短くても半年、長ければ1年以上を要した。より悪質な投稿を探すため、自身を中傷する書き込みを約1000件見返し、1日がつぶれたこともあった。

 木下氏は「勝訴しても、まったく割に合わないが、私個人への中傷よりも、公衆衛生として重要な施策が実行できなくなる危機感から提訴を決めた」と強調。「明らかに違法性のある投稿は情報開示のステップを簡単にしてほしい」と訴える。

投稿・日時・URLの証拠印刷を…弁護士

 SNSなどで 誹謗(ひぼう) 中傷を受けた場合はどうすれば良いのか。ネット上のトラブルに詳しい清水陽平弁護士は「証拠を残しておくことが重要だ」と強調する。

 発信者の特定は、プロバイダー責任制限法に基づき、被害者側が裁判所に申し立て、SNSの運営事業者から発信者のIPアドレス(ネット上の住所)の開示を受けたうえで、接続事業者から氏名や住所を伝えられるのが通常の流れだ。

 法的に権利侵害にあたるか判断する際に参考となるのが、投稿に虚偽や人格を否定する内容が含まれるかだ。清水弁護士は「後から『投稿者の責任を追及したい』と思っても、証拠がなければどうしようもない」と言う。投稿をパソコンで表示し、投稿内容・日時やURLをPDFで印刷しておくことが望ましいという。

 総務省の「違法・有害情報相談センター」によると、2022年度は5745件の相談が寄せられ、10年度の4倍以上になっている。

 22年10月には改正同法が施行され、投稿者を特定する手続きが簡略化された。今月10日、同法はさらに改正され、SNSの運営事業者に、削除申請への迅速な対応のほか、▽削除を申請する窓口の設置▽削除する基準の策定・公表などが義務付けられた。

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