NEWS

2024.06.12 16:06:52

成長に応じて伸びる「血管修復パッチ」発売、子の心臓再手術のリスク軽減に期待

 福井市の繊維メーカー「福井 経編たてあみ 興業」と、大阪医科薬科大、大手繊維メーカー・帝人が共同で、生まれつき心臓の壁に穴が開いたり血管が狭まったりする「先天性心疾患」の新生児や幼児の治療に使う心・血管修復パッチ「シンフォリウム」を開発した。帝人のグループ会社が12日から全国の医療機関に販売する。体の成長に合わせて最大2倍に伸び、再手術の必要性を減らせると期待される。福井経編は「培った技術で子どもの命を救いたい」とする。(荒田憲助)

ニット技術活用

 シンフォリウムは、体内に吸収される糸(吸収性 (し) )と吸収されない糸(非吸収性糸)を一緒に編み込み、ゼラチンの膜で覆ったシート状の製品。心臓や血管に用いると、ゼラチン膜と吸収性糸が徐々に溶けて細胞組織に置き換わるとともに、非吸収性糸の編み目の一部がほどけ、すべての方向に最大2倍に広がる仕組みだ。

 一般的に新生児の心臓はピンポン球ほどの大きさで、中学生の頃には大人と同程度まで成長する。シンフォリウムは心臓や血管の成長に応じて、パッチも大きくなる自在さを実現した。

 吸収性糸は、手術の縫合に用いる糸と同じ素材で、非吸収性糸は細胞が心臓や血管を修復する足場として機能するという。今回の編み方は福井経編のアイデアで、衣料用のニット生地などを長年作ってきた技術が生かされた。

 開発を主導した大阪医科薬科大の根本慎太郎教授(59)(小児心臓血管外科)によると、先天性心疾患は約100人に1人の新生児が持つとされる。しかし、従来使われたパッチは伸縮しないため、体の成長に合わせて交換する再手術が必要なケースもあり、患者や家族には重い負担になっていたという。

 根本教授は「体力の少ない子どもにとって、手術の数を減らせる意義は大きい。患者の命に関わる医療機器の開発に、覚悟を持って手を貸してくれた福井経編には感謝している。実績を重ねて信頼をつかみ、世界中で選ばれるパッチになってほしい」と語る。

小説のモチーフに

 福井経編は2012年、別の研究者から依頼され、絹を使った直径6ミリ以下の人工血管を完成。絹に特殊な加工を施して編み方を工夫し、伸縮性を高めていた。同年から新しいパッチの研究を始めた根本教授もその技術力を知り、協力を依頼。福井経編の高木義秀社長(70)は「子どもを救える技術が福井にあると示したい」と参加を決めた。

 14年には帝人も参入。編み目から血液が漏れ出すことを防ぎ、血管の組織などに置き換わるゼラチンを編んだ糸と一体化させることに成功するなど開発は加速した。

 福井経編の考案で2種類の糸を編む方法が採用され、人間より臓器の成長が速いとされる犬とブタを使った実験でも安全性を確認。19~22年の臨床試験では、0歳の赤ちゃんから成人までの30人以上に手術を実施し、手術後1年間でパッチの不具合による死亡事例や再手術が必要になる例はなかったという。23年7月に厚生労働省から製造販売の承認を受け、今年3月に公的医療保険が適用された。

 一連の開発は、医師や町工場の技術者が心臓の人工弁の開発に奮闘する池井戸潤さんの小説「下町ロケット2 ガウディ計画」のモチーフにもなった。

 12日に発売されるシンフォリウムは、英語の「シン」(共に)とラテン語の「フォリウム」(葉)を組み合わせ、「葉のように修復部分を守り、治療を受けた子どもとともに成長していくように」との願いを込めた。

 高木社長は「市場のニーズを把握し、新技術を生み出して製品を作るのがモットーで、今回の開発はその集大成だ」と強調。「今後もこのチームで研究を重ね、命を救う医療機器の発展に貢献していきたい」と意気込む。

2024.06.12 09:00:00

膵臓がん、薬品投与で光らせ1センチ以下で検出へ…国立がん研究センターなど早期発見へ治験開始

 国立がん研究センターなどの研究チームは11日、微小な 膵臓(すいぞう) がんを発見できる新しい画像診断技術を使った治験を始めたと発表した。従来の検査法では難しい0・3~1センチのがん検出を目指す。実用化されれば、初期に自覚症状がほとんどない膵臓がんの早期発見につながることが期待される。

 研究チームは、がん細胞の表面にあるたんぱく質にくっつきやすい性質を持つ新しい放射性医薬品を開発した。治験ではこれを 腹腔ふくくう 内に投与し、PET(陽電子放射断層撮影)検査で撮影すると、がん細胞が光って見える。マウスを使った実験では0・3センチ程度のがんが検出できたという。現状ではCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの検査方法では1センチ以下の検出は困難となっている。

 第1段階の治験は2025年9月までを予定しており、転移のない膵臓がんと診断された患者7~18人を対象とする。新しい放射性医薬品の安全性や投与量を調べる。

 同センター中央病院の肱岡範・肝胆膵内科医長は「小さい病変や転移を検出でき、正確なステージ(病期)を判断して、患者に適切な治療法を提案できることになる」と話している。

2024.06.11 15:43:53

心臓移植の断念は全国計16件、国立循環器病研究センターでも…患者数や手術数が特定施設に偏り

 東京大、京都大、東北大の3大学病院が、人員や病床の不足などを理由に、脳死者から提供された臓器の受け入れを断念していた問題で、2023年に全国の移植施設で心臓の断念例が計16件あったことが11日、日本心臓移植学会の緊急調査で分かった。内訳は東大15件と国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の1件。3大学以外での断念例が判明したのは初めてとなる。

 読売新聞の1月1日の報道を受けて実施した日本移植学会の実態調査は、3大学のみが対象で、心臓、肺、肝臓で計62件の報告があった。

 今回の緊急調査は、心臓移植を手がける全施設(11か所)に、23年に施設側の事情で臓器の受け入れを断念したケースを尋ねた。

 その結果、東大と同センターから計16件の報告があった。東大は、日本移植学会の調査では10件と回答していたが5件増えた。

 16件の断念の理由として、手術を執刀する移植医や看護師らスタッフの不足のほか、手術後の患者が入る集中治療室(ICU)の満床などの回答があった。

 日本心臓移植学会によると、2施設が見送った心臓は、別の施設に登録されているあっせん順位の低い患者に移植されたという。

 断念例が相次ぐ背景には、脳死者からの臓器提供件数が増える中、待機患者が多い移植施設に、臓器の受け入れ要請が集中している現状がある。

 同学会は11日午後、記者会見を開き、緊急調査の詳細を公表する。同学会の澤芳樹代表理事は読売新聞の取材に対し、「移植を待つ患者数や手術数が、施設間で偏っていることが問題だ。学会も対策を講じたい」としている。

 日本臓器移植ネットワーク(JOT)の公開データを基に、読売新聞が行った集計によると、昨年、国内では115件の心臓移植手術が行われた。同センターは最多の32件を実施し、東大の25件が続いた。

 武見厚生労働相は11日午前の閣議後記者会見で、臓器受け入れの断念問題について「JOTから全ての移植実施施設の実態について辞退の件数や原因の報告をさせる。その内容を踏まえて移植医療の推進に取り組む」と話した。

2024.06.07 20:19:05

胎児の心臓の異常をAIで検知…先天性の心臓病発見のための支援システム、月内にも実証実験

 先天性の心臓病をいち早く発見するため、AI(人工知能)を使って胎児の心臓の異常を検知する超音波検査の支援システムを、理化学研究所(理研)や国立がん研究センターなどの研究グループが開発した。グループは、システムの精度を確かめる実証実験を、東京都と広島県の7医療機関で月内にも始める見通しで、早期の実用化を目指す。

 赤ちゃんは100人に1人の割合で、先天的に心臓病を抱えて生まれる。成長によって回復する場合もあるが、心不全を起こすような重症の場合は、出産直後に手術ができないと命に関わる。

 このため、胎児期に超音波検査で異常を見つける必要があるが、胎児の心臓は2センチ程度(妊娠中期)と小さく、動きも速いため、正確に診断できる専門医は限られている。出生前に診断できているのは4~5割にとどまっているという報告もある。

 そこで、研究グループは、胎児の正常な心臓の超音波検査画像、約1万2000枚をAIに学習させ、心臓と血管の18か所について、位置や形が正常であるかを検出する技術を開発した。あるべき位置や形でない場合は異常として扱う。最終的には医師が診断する。

 実証実験は、6月から昭和大江東豊洲病院(東京都)など計七つの病院や医院で、妊娠18~36週の妊婦350人を対象に行う。各施設50人ずつ行うことで、医療機関の規模や医師の熟練度により、支援システムの精度や性能に差が出ないかなどを検証する。

 先天性の心臓病には、心臓の壁に穴が開いたり、血管が狭まったりする「ファロー 四徴症しちょうしょう 」や、重要な血管の位置が逆転して血液中の酸素が不足する「大血管転位症」などがある。

 研究を主導する、理研革新知能統合研究センターの小松正明氏(産婦人科医)は「早期発見で助けられる命がある。新しい技術を使った実験結果を反映させることで精度を一層高め、より良い治療につなげていきたい」と話している。

2024.06.07 20:14:34

iPSから免疫抑える「Tレグ」に近い細胞…京大チーム成功、関節リウマチなど治療期待

 人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、免疫反応を抑える「制御性T細胞(Tレグ)」に近い細胞を作り出すことに世界で初めて成功したと、京都大などの研究チームが発表した。自己免疫疾患などの治療に生かせる可能性があり、論文が7日、科学誌「セル・ステムセル」に掲載される。

 ウイルスや細菌から体を守る免疫反応は、過剰になると自身の体を攻撃し、関節リウマチなどの自己免疫疾患や、白血病治療の骨髄移植後に起きる合併症などの原因となる。

 こうした過剰な反応にブレーキをかけるのがTレグで、坂口志文・大阪大栄誉教授が詳細を明らかにし、ノーベル賞級の成果と評価されている。患者の体からTレグを取り出して治療に使う研究も進むが、Tレグは培養してもほとんど増えず、数を確保できないことが課題だった。

 京都大iPS細胞研究所の金子新教授らは、人のiPS細胞から免疫細胞を作製。さらに4種類の薬を加えて1~2週間培養し、Tレグの特徴を持つ細胞を作ることに成功した。

 この細胞を免疫細胞と一緒に培養したり、マウスに投与したりする実験を行った結果、過剰な免疫反応を抑える効果が確認された。

 iPS細胞は増殖しやすく、治療に必要な大量のTレグを作り出せる可能性が開けたという。

  三上 統久(のりひさ) ・大阪大特任准教授(免疫学)の話 「今回の成果で、患者自身のTレグだけでなく、健康な他人のTレグを活用する道が示された。コスト削減などが見込める反面、安全性や有効性を慎重に確認していく必要がある」

19

投稿はありません