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2024.06.24 09:36:00

がんの男児の精巣保存、成人後の不妊治療に備え技術開発へ…日米チーム「精巣バンク」計画

 がん治療を受ける男児の精巣の一部を凍結して長期保存し、成人後に正常な精子を作れるようにする不妊治療技術の開発に、大阪大など日米共同研究チームが着手した。将来の実用化を見据え、男児の精巣の一部を採取する「精巣バンク」の運用を、来年にもスタートさせる計画だ。

 がんで放射線照射や抗がん剤の投与を受けると、治療が成功しても不妊になるケースが多い。成人は治療前に卵子や精子を凍結温存する技術があり、女児は凍結した卵巣を成人後に体に戻し出産した事例の報告があるが、精巣が未成熟な男児の治療法はない。

 大阪大の伊川正人教授(生殖医学)らの研究チームは、未成熟な精巣を体外で培養し、精子を作る研究を始めた。同大はマウスで子どもを産ませることに成功しており、サルなどの動物で研究を進める。同大の林克彦教授らがiPS細胞から精子を取り囲む細胞を作り、体外で精巣の環境を再現して、人間の精子を成熟させる技術を確立する。

 米ペンシルベニア大は人工的に成熟させた精子に異常が起きないかを調べ、米ベイラー医科大は精子を正常に育てる薬剤を探し、不妊治療の安全性を高める。国内チームはAMED(日本医療研究開発機構)、米国チームはNIH(米国立衛生研究所)の支援を受けて研究を進める。

 現在の男児患者が成長して適齢期となる20年後をめどに、育てた精子を体外受精させたり、精巣の細胞を移植したりする不妊治療の実用化をめざす。男児の精巣バンクには複数の国公立大が参加を検討している。

 国立がん研究センターによると、0~14歳の男児は年間約1000人が小児がんと診断されている。精巣バンクの登録は年間10人程度から始める計画だ。

  がん患者への生殖補助医療に詳しい吉村泰典・慶応大名誉教授の話 「小児がん患者の生存率が大きく向上し、将来の不妊治療へのニーズが高まっている。実験動物とは精子が成熟する仕組みが異なるなど課題はあるが、10年以上先なら実現する可能性は高く、患者や家族の大きな希望になる」

2024.06.21 15:05:38

蚊の「食欲」促す血中成分を特定、被害防ぐ薬開発の可能性も…理化学研究所などのチーム

 デング熱などを媒介するネッタイシマカが「腹八分目」で血を吸う行動をやめるメカニズムを解明したと、理化学研究所と東京慈恵会医科大のチームが発表した。針を刺すことで血液中に生じる物質が、蚊に満腹感をもたらしているという。蚊の被害を防ぐ薬の開発に役立つ可能性があり、論文が21日、科学誌セル・リポーツに掲載される。

 ネッタイシマカは東南アジアや南米などに生息するヤブ蚊の一種で、デング熱やジカ熱などのウイルスを媒介する。

 人や動物の血液に含まれるATPという物質が蚊の「食欲」を促していることはわかっていたが、腹部が吸った血で満たされる前に逃げることが多く、何をきっかけに「食事」をやめるのかは分かっていなかった。

 理研の佐久間知佐子・上級研究員らは、ネッタイシマカが好むATPの溶液に、血液から赤血球などを取り除いた上澄みだけを加えると、あまり吸わなくなることを発見。上澄みの中に、蚊に満腹感をもたらす物質があると推定して成分を絞り込んだ結果、「フィブリノペプチドA」という物質が関わっていることを突き止めた。

 この物質は、血液の凝固に欠かせないフィブリノーゲンというたんぱく質から作られる。蚊が血管に針を刺した刺激で血液の凝固反応が進んでこの物質が増え、蚊の体内にある程度蓄積すると血を吸う行動を終えることがわかった。

 ネッタイシマカと同じヤブ蚊の仲間で、国内に多いヒトスジシマカなども、同じ仕組みを持っているとみられ、佐久間上級研究員は「蚊の体内でどのような反応が起きて満腹と感じているかが分かれば、吸血を抑える薬を作れるかもしれない」と話す。

 蚊の感染症対策に詳しい愛媛大の渡辺幸三教授(熱帯疫学)は「独創的な研究成果だ。血を吸うのはメスの蚊で、卵が成熟する栄養となる。蚊の吸血行動を抑えることは個体数を減らすことにもつながるだろう」としている。

2024.06.19 12:09:03

移植待機者数や術後生存率、年度内にも病院別に公開へ…患者の特定施設への集中緩和に期待

 脳死者から提供された臓器を移植する医療体制が 逼迫(ひっぱく) する中、厚生労働省は18日、移植を待つ患者数や移植後の生存率などを移植施設ごとに公開する方針を表明した。臓器あっせん機関の日本臓器移植ネットワーク(JOT)などが構築を進めるデータベースを活用し、今年度中の公開を目指す。手術実績の多い移植施設に待機患者が集中する事態の緩和が期待される。

 移植を希望する患者は現在、手術を受ける移植施設を原則1か所選ぶ。施設ごとの詳細なデータは公開されておらず、主治医の意見や移植手術の実績などを参考に決めるしかなかった。

 脳死下の臓器提供件数の増加に伴い、東京大など有数の移植手術実績を持つ施設では待機患者が集中する一方、人員や病床の不足から、提供された臓器の受け入れを断念する事例が相次いでいる。施設別のデータが公開されることが、断念問題の解消につながる可能性がある。

 今回の方針は、同日の参院厚労委員会で、大坪寛子健康・生活衛生局長が、日本維新の会の梅村聡参院議員の質問に対して答えた。

 厚労省が公開にあたって活用するのは、JOTが国の補助金を受けて日本移植学会とともに構築中のデータベース「 TRACER(トレーサー) 」。国内で行われる臓器移植に関する情報を一元化する。

 公開はこのデータベースを基に、施設ごとに〈1〉臓器別の待機患者数〈2〉登録から移植までの平均待機期間〈3〉移植後の生存率の3項目を示すことを想定している。データベースは今年度中にも運用が始まる見通しで、大坪氏は「国民から信頼される移植医療の推進のために、施設ごとのデータ公表が重要だ」と答弁した。

 JOTは、今後公開を検討する3項目について、臓器ごとにまとめた数のみを公表してきた。待機患者数は5月時点で、腎臓1万4194人、心臓842人、肺615人の順に多く、6臓器全体で1万6000人超にのぼっている。

 データベースの構築に携わる日本移植学会前理事長の江川裕人・浜松ろうさい病院長は「移植施設別の(生存率などの)治療成績に大きな違いはないとみられる。各施設のデータが公開されることで、待機患者の一部の施設への偏りを解消することが期待できる。JOT、厚労省、学会が緊密に連携して進めていきたい」と話す。

 また、厚労省は、この日の厚労委で、待機患者が、手術を受ける移植施設を複数登録できる仕組みを検討する方針も明らかにした。

2024.06.19 07:09:00

「日本版DBS」法成立、性犯罪歴を最長20年確認可能に…2026年度をめどに施行

 子どもと接する職場で働く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法」は19日、参院本会議で可決、成立した。性犯罪歴の有無を刑の終了から最長20年確認することが可能となり、就労を制限できるようになる。2026年度をめどに施行される。

 日本版DBS制度は、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴について、事業者がこども家庭庁を通じて法務省に照会できる仕組み。現職者も照会の対象となり、犯歴が確認された場合、事業者は配置転換などを講じなければならず、解雇も許容される。

 同法では、行政に監督・認可などの権限がある学校や保育所などに対して、性犯罪歴の確認を義務づける。一方、学習塾や放課後児童クラブなどは日本版DBS制度の参加を任意とし、希望して国から認定されれば確認の義務を負う。

 対象となる性犯罪は、不同意わいせつ罪などの刑法犯のほか、痴漢や盗撮といった自治体の条例違反も含まれる。照会期間は拘禁刑(懲役と禁錮両刑を2025年に一元化)が刑を終えてから20年、罰金刑以下は10年とした。

 性犯罪歴がない人でも、子どもや保護者からの訴えから、性加害の「おそれ」があると認められれば、配置転換などの措置を講じなければならない。「おそれ」の判断が 恣意しい 的に行われる可能性があることから、こども家庭庁は今後ガイドラインを作成し、判断の基準を示すこととしている。

2024.06.18 15:37:35

【独自】脳死疑い患者は年1万人、実際の「判定」は132人どまり…臓器提供者増やせる可能性

厚労省が初推計

 脳卒中や不慮の事故などが招く脳死の可能性がある患者が、2023年の1年間に、国内で少なくとも約1万人にのぼったとする初の推計結果を、厚生労働省の研究班がまとめた。同年、臓器提供のために脳死と判定されたのは132人にとどまっている。研究班は、医師らが家族に臓器提供の選択肢を示すことが増えれば、提供者(ドナー)を相当数増やせる可能性があるとしている。

 研究班は日本医大(東京)などの医師らで構成、脳死判定を行える大学病院や救急病院など895か所に昨年8月、調査を実施した。

 調査では、同月3日からの1週間に〈1〉意識不明で瞳孔が開いている〈2〉適切な治療をしても病状の回復が見られない――など脳死の可能性を示す4項目を満たす患者数を尋ねた。有効回答があった601か所(67%)では計184人いた。

 この結果を踏まえ、回答施設だけでも脳死の可能性がある患者は年間9568人いると推計した。

 脳死判定は、臓器移植法に基づき行われる。患者の家族の承諾が必要だが、医師が家族に臓器提供の選択肢を示すことは少ない。

 背景には、救命に尽くしている医療者は時間的な余裕がないほか、回復が難しい事実の告知に心理的な抵抗を感じることがある。法的脳死判定の前に必要な検査をしても、医療機関に追加の診療報酬が支払われないことも指摘されている。

 脳死ドナーになるには、臓器に問題がない、がんや感染症でないなどの医学的条件もある。年齢も、肺や腎臓は70歳以下など臓器ごとの目安がある。研究班代表の横堀将司・日本医大教授(救急医学)は「今回推計された脳死の可能性がある人がみなドナーになれるわけではないが、取り組み次第で、脳死下の臓器提供件数を増やし、より多くの命を救える可能性が示された」と話している。

 脳死ドナーからの臓器提供を巡っては、東京大など移植手術の実績が上位にある病院で、人員や病床の不足などから、提供された臓器の受け入れを断念する事例が問題になっている。横堀教授は「脳死判定までの様々なハードルを下げる対策と合わせ、移植医療の 逼迫ひっぱく を防ぐ体制作りが必要だ」と指摘した。

  ◆脳死 =脳全体の機能が失われ、治療で回復する可能性がない状態。脳卒中や、交通事故による頭部損傷などが原因となり、多くは数日以内に心停止に至る。1997年10月に臓器移植法が施行され、脳死となった人からの心臓、肺、肝臓、腎臓、 膵臓すいぞう 、小腸、眼球の提供が認められた。

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