記事・コラム 2019.04.10

医者が知らない医療の話

【第19回】アルツハイマー病とマクロファージ

講師 中川 泰一

中川クリニック

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。

ここで、アルツハイマー病について少しまとめてみよう。 アルツハイマー病の病理的特徴としては

  1. Aβ(アミロイドベータ)タンパク質の蓄積 (老人斑の形成)
  2. タウタンパク質のリン酸化による蓄積 (神経原線維変化)
  3. 神経細胞の脱落 (脳萎縮)

が挙げられる。

Aβタンパク質は神経細胞にとって毒性を持つため、特に蓄積したAβタンパク質の周囲に活性化したミクログリアが多く観察される。一般的にアルツハイマーの脳では、ミクログリアが活性化している。

つまりミクログリアは貪食能を持っているため、蓄積したAβタンパク質を貪食作用によって取り除いていると考えられている。実際、ミクログリアの細胞内にAβタンパク質が取り込まれていることが観察されている。

更に、ミクログリアによる貪食作用を起こすために重要な遺伝子であるTREM2に変異があるとアルツハイマーになるリスクが高まると言われている。

またアルツハイマーの脳では、炎症を引き起こす遺伝子の発現量が増加し、炎症性サイトカインの量が増えており、ミクログリアの活性化によって脳が炎症状態に陥っていると考えられる。

まあ、要するにアルツハイマー病の原因はAβ(アミロイドベータ)タンパク質の蓄積であるとした「アミロイド仮説」が唱えられており、ミクログリアがその処理をしているが、それが追いつかなくなり病気が進行していくという考え方だ。

治療薬も「いかにしてAβタンパク質を取り除くか」に重点が置かれてきた。しかし、これらの治療薬がほとんど役に立ってないのは、よくご存知のはずで、アルツハイマー病は不治の病となっている。

ところが最近の説では、Aβタンパク質はアルツハイマー病の主な原因である
1. 炎症 2. 栄養不足 3. 毒素に対する生体防御反応としてAβタンパク質で脳を守っているというのだ。まさに原因と結果の逆転だ。
ミクログリアすなわちマクロファージの関与は脳内だけに留まらない。

近年アルツハイマー病の3つのサブタイプが存在するとされているのはご存知だろうか?まさにアルツハイマー病のリスクによって
1型アルツハイマー病(炎症性)、
2型アルツハイマー病(萎縮性)、
3型アルツハイマー病(毒物性)
更に1型と2型が重なった1.5型アルツハイマー病(糖毒性)というものだ。

この中で特に炎症についてはいろいろな原因があるが、近年指摘されているのが、腸のLeaky Gut Syndrome(リーキーガット症候群)だ。以前触れたことがあるが、腸管を覆う細胞が密着結合でもれなく繋がっているのだが、これらは慢性のストレスの他、化学物質や防腐剤、アルコールや砂糖、グルテンによる過敏症更にアスピリンやアセトアミノフェンなどの身近な薬剤によっても破壊さる。そして、腸管の結合が緩むと単糖分子(グルコースや果糖など)やビタミン類が血液中に入ってしまう。更に大きな未消化の断片が血液中に入ると免疫系によって異物として処理され、結果として炎症が引き起こされる。更に各種の自己抗体が出来、最悪の場合自己免疫疾患を誘発してしまう。これが、慢性疲労症候群などの原因不明の病態の原因である事が多いというのだが、この1型アルツハイマー病でも大きな原因の一つと言われている。

ちなみにこの慢性炎症は肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症にも大きく関わっている事が指摘されている。
 ほら、体全体何処に行っても、マクロファージが関与しているでしょ。