記事・コラム 2024.06.27

OUI Inc.清水映輔CEO インタビュー 世界の失明を半分にする

第3回  バージョンアップする

講師 清水映輔

OUI Inc.

1987年に神奈川県横浜市で生まれる。2013年に慶應義塾大学を卒業後、東京医療センターで初期研修を行う。2015年に慶應義塾大学眼科学教室に入局し、慶應義塾大学病院で後期研修を行う。2016年に東京歯科大学市川総合病院眼科で後期研修を行う。2016年に株式会社OUIを創業し、代表取締役に就任する。2019年に慶應義塾大学眼科学教室特任助教に就任する。2019年に横浜けいあい眼科和田町院を開業する。2020年に慶應義塾大学眼科学教室特任講師に就任する。

 

日本眼科学会専門医、難病指定医、身体障害者指定医など。

日本角膜学会、日本眼科アレルギー学会、Fight for vision、日本抗加齢医学会、ARVO (The Association for Research in Vision and Ophthalmology)、日本アレルギー学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本眼科AI学会、ドライアイ研究会、日本シェーグレン症候群学会、Kyoto Cornea Clubにも所属する。

 

2018 年にARVO/Alcon Early Career Clinician-Scientist Research Award、2020年に日本眼科アレルギー学会優秀賞、第14回日本シェーグレン症候群学会奨励賞、国際失明予防協会The Eye Health Heroes award、2022年に第76回日本臨床眼科学会学術展示優秀賞、第5回ジャパンSDGsアワードSDGs推進副本部長(外務大臣)賞、2023年に日本弱視斜視学会国内学会若手支援プログラム賞、令和5年度全国発明表彰未来創造発明賞などを受賞する。

第3回 バージョンアップする

― スマートアイカメラは何回かバージョンアップされたのですか。

清水:多少はしています。現在のものと初期のものとの大きな違いは専用アプリケーションによって画像をファイリングする機能がついたことです。これで遠隔診療が可能になりました。さらに、今後は集まってきたデータをもとにAIの自動診断のようなことができるのではないかと検討しているところです。特にドライアイ診断を可能にしていきたいと考えています。

― 遠隔診療は活発にされていますか。

清水:めちゃめちゃやっていますね(笑)。スマートアイカメラは遠隔診療にあたっては非常に重要なものです。グレーゾーン解消制度によって、コメディカルスタッフが撮影することができるようになりましたし、医師が遠隔で判断を下すことで、遠隔診療が可能になりました。

― 患者さんからの反応はいかがですか。

清水:私たちは現地にいませんので、患者さんの反応はよく分からないのですが、ユーザーである眼科ではない診療科の先生方やへき地にいらっしゃる先生方からは高い評価をいただいています。特に海外の先生方は現物を見るまでもなく、オンラインで「こういうものがありますよ」と伝えるだけで、「使いたい」と言ってくださいます。今は世界60カ国ほどで共同研究をしたりしています。実証も終わっており、海外でも200台以上のスマートアイカメラが世界にあるという販売実績となっています。

― 先生は言葉の壁がないことも強みですね。

清水:そうですね。英語は普通に話せます。小学生の頃に2年間ほどアメリカに住んでいましたが、話せるようになったのは社会人になってからです。英語の上達にあたっては使うことが一番ですね。私はアイスホッケーでカナダに行ったりすることもありましたし、現在も東京カナディアンズホッケークラブに所属しており、海外の方々が日本でアイスホッケーをできるような環境になるようサポートするチームの運営メンバーでもあります。

― 海外での医療支援をしたくても、言葉の壁を不安に感じていらっしゃる先生方もいらっしゃるようです。

清水:不安な方は今、英語を使っていらっしゃらないだけですよ(笑)。語学は頑張れば、誰でもできるようになります。私どもの会社にロシアとウクライナのミックスルーツの女性がいます。医師ではなく、ビジネスサイドのスタッフなのですが、2年前に日本に来たときは全く英語が話せなかったのに、今は普通に英語でコミュニケーションを取っています。彼女はロシア語やウクライナ語はもちろん、日本語もN1を取得していますし、韓国語も話せますので、やろうと思えば、話せるようになるものです。

― 先生は大学院にも進まれているのですね。

清水:大学院では腸内細菌の研究をしたのですが、結果的にはドライアイに関わるような腸内細菌の研究ができました。

― やはり研究は必要なものでしょうか。

清水:とても大事だと思います。私が基礎研究を始めたきっかけはどのようなことだったのか、今ではあまり覚えていないのですが、ただ研究をしたことが良かったと実感していることがあります。眼科医は目薬を出しますが、目薬がどのようにして効くのかということにはブラックボックスなところがあるんです。それが「こういう理論なのだ」ということを頭の中で少し整理できるようになったので、患者さんへの説明の際に役に立っています。

― 若い先生方にも大学院を勧められますか。

清水:何をしたいかによりますね。何をしたいのかという目的によってはお勧めです。

― ドライアイを専門にされたのはどうしてですか。

清水:慶應の眼科にはCCB(Colonial Cell Biology)というグループがあり、それは角膜という大きな分野の一つなんです。その中のサブグループにドライアイがあったことがきっかけです。血液内科の患者さんが白血病などで造血幹細胞移植を受けられたあと、白血病は治っても、副作用として重症のドライアイが残ることがあります。「抗がん剤で治りました」という話はよく聞きますが、その予後では意外とほかのことで苦しんでいるものなんですね。特に問題なのが移植片対宿主病 (GVHD) という合併症です。このGVHDは眼を含む全身の諸臓器に重篤な炎症や線維化をきたし、ADLや生命予後に関わるものです。そこで、細菌叢を変化させ、免疫抑制を行うことでGVHDを治療したり、あるいは移植前から細菌叢を変化させ、GVHDの予防ができるのではないかと考えました。他科と連携し、患者さんが苦しまれていることの手助けになれることに興味を持ったという感じですね。

― 現在は週に何回ぐらい臨床をされていますか。

清水:私どもの横浜けいあい眼科和田町院のほか、南青山アイクリニック東京でもレーザー屈折矯正手術などをしていますので、週に3回か4回は臨床の現場にいます。私には「眼科医は手術をしてなんぼ」だという思いがありますが、病院に所属しているわけではないので、入院が必要な手術にはなかなか対応できない状況です。しかし眼科医としては手術ができた方がいいので、南青山での勤務を6年ほど続けています。手術をすることで、海外の先生方を含めた多くの先生方との共通言語が増えますので、これからも手術を続けていきたいという意志を持っています。