文部科学省は、人工知能(AI)や医療など先端技術の国際共同研究に加わる若手研究者チームを対象に、日本からの渡航費や研究集会の開催費などの支援に乗り出す。海外のトップ研究者との交流・人脈作りを後押しすることで有望な共同研究で成果を出し、低迷する日本の研究力の強化につなげる。
国立大への運営費交付金の削減などで、日本の研究者は自由に使える経費が少なく、国際学会に出席するための資金捻出にも苦慮している。実験器具の購入費や研究員の人件費支出を優先する研究室も多い。
新制度では、若手が主導し、先進7か国(G7)を中心とした米欧や豪州などと共同研究する活動を支援する。経済安全保障上、中露との研究は含めない。
具体的には渡航費や滞在費のほか、合宿形式で行う研究集会で使う会場の経費、国内に招く海外研究者への謝金などに使ってもらう。
支援対象は、AIやエネルギー、半導体、医療など計8分野に関する先端研究のチーム。すでに、国立研究開発法人の科学技術振興機構(JST)と日本医療研究開発機構(AMED)が52のチームを選んだ。
このうち大阪大のチームは米国と連携した次世代半導体の研究を進め、東京大のチームはフィンランドと共同でAIと通信を融合させた情報技術の研究を行う。
文科省は、2022年度に設けた基金501億円を財源に24年度から支援を本格化。5年間で1チーム最大5億円、現時点で28年度までに最大166億円を補助する。JST分が補助金の7割以上、AMED分が5割以上を交流や人脈作りに活用する。有望な国際共同研究への参画を促し、優れた成果を生む好循環を作る。
文科省の科学技術・学術政策研究所が昨年発表した統計によると、引用された回数がトップ10%に入る重要論文の数で、日本は過去最低の13位になるなど国際地位が低下。コロナ禍の渡航制限や経済的理由で若手が留学に消極的になり、国際共同研究が減ったことも要因だ。
日本と事情は違うが、米英も22年以降、同様の事業を打ち出した。米国は先端技術の中国への流出防止策を厳格化した一方、同盟国との研究交流を促す事業を開始。英国は20年の欧州連合(EU)離脱の影響で国際共同研究が縮小し、交流を強化する事業を始めた。
JSTの橋本和仁理事長は「今回の支援をきっかけに日本の研究者が国際頭脳循環のネットワークに入り、研究力を向上させるチャンスにすべきだ」と話す。