脳死者から提供された臓器を移植する医療体制が 逼迫 する中、厚生労働省は18日、移植を待つ患者数や移植後の生存率などを移植施設ごとに公開する方針を表明した。臓器あっせん機関の日本臓器移植ネットワーク(JOT)などが構築を進めるデータベースを活用し、今年度中の公開を目指す。手術実績の多い移植施設に待機患者が集中する事態の緩和が期待される。
移植を希望する患者は現在、手術を受ける移植施設を原則1か所選ぶ。施設ごとの詳細なデータは公開されておらず、主治医の意見や移植手術の実績などを参考に決めるしかなかった。
脳死下の臓器提供件数の増加に伴い、東京大など有数の移植手術実績を持つ施設では待機患者が集中する一方、人員や病床の不足から、提供された臓器の受け入れを断念する事例が相次いでいる。施設別のデータが公開されることが、断念問題の解消につながる可能性がある。
今回の方針は、同日の参院厚労委員会で、大坪寛子健康・生活衛生局長が、日本維新の会の梅村聡参院議員の質問に対して答えた。
厚労省が公開にあたって活用するのは、JOTが国の補助金を受けて日本移植学会とともに構築中のデータベース「 TRACER 」。国内で行われる臓器移植に関する情報を一元化する。
公開はこのデータベースを基に、施設ごとに〈1〉臓器別の待機患者数〈2〉登録から移植までの平均待機期間〈3〉移植後の生存率の3項目を示すことを想定している。データベースは今年度中にも運用が始まる見通しで、大坪氏は「国民から信頼される移植医療の推進のために、施設ごとのデータ公表が重要だ」と答弁した。
JOTは、今後公開を検討する3項目について、臓器ごとにまとめた数のみを公表してきた。待機患者数は5月時点で、腎臓1万4194人、心臓842人、肺615人の順に多く、6臓器全体で1万6000人超にのぼっている。
データベースの構築に携わる日本移植学会前理事長の江川裕人・浜松ろうさい病院長は「移植施設別の(生存率などの)治療成績に大きな違いはないとみられる。各施設のデータが公開されることで、待機患者の一部の施設への偏りを解消することが期待できる。JOT、厚労省、学会が緊密に連携して進めていきたい」と話す。
また、厚労省は、この日の厚労委で、待機患者が、手術を受ける移植施設を複数登録できる仕組みを検討する方針も明らかにした。