講師 中川 泰一

中川クリニック

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。

最近、知り合いの息子さんが開業した。整形外科での開業だが、色々とアドバイスして欲しいと言われるのでお会いしてみた。幸運なことに良い継承物件があったそうで、患者さんも40~50人付いているらしい。開業されてる方はおわかりかと思うが、設備の初期投資や患者さんが付くまでの立ち上げに係る運転経費などを考えると、相当お得に開業されたと思う。しかし、現実には1日あたり12万円ほどの赤字だという。これをなんとかしたいとおっしゃるのだ。整形外科はリハビリ施設がスペースや機材、スタッフの人件費など結構係る割に、リハビリの単価が安い。多少患者さんが付いていても、ほとんどがリハビリの人だから売り上げ的には大したことない。ホント保険診療って何科によらず単価低すぎると思いませんか?また、今度の改訂でいっそう儲からなくなった科も多い。そのクセ、経費のかかることばかりさせる。マイナンバーとか1円の足しにもならないのに、多大な費用がかかる。当初は補助が出ていたが、すぐに絞られた。それも初期の機材導入だけで、余計な事務経費などの維持費は出ない。

皆さん。普通このように政策的に絞められている場合、政府の意図としてどう誘導しようとしてるか分かりますか?そう!「保険診療やめろ!」ということですよ。勿論、表立ってそんな事言う政治家や役人は居ませんよ。あくまで「国民皆保険制度の維持」を謳ってますが、もうとっくに制度破綻してるのは現場の皆さんには良くお分かりでしょ?

隣の韓国みたいに医師が全国的にストしますか?あれは過激すぎるとお思いですか?ところが、日本だってかつては全国一斉ストしてましたよね。ご存知ない?武見医師会長(今の武見厚労大臣の親父さん)の時代、昭和40年代。うちの親父も医者してたから良く覚えてますよ。国民皆保険制度が発足してまだ日が浅い時代だったし、全国的に医師不足で医療機関を増やすために色々と優遇措置が講じられていた時代だったからだと思うけど。主な医療法人だって、大体この時代に設立されたものが多いでしょ。でも、国民皆保険制度も60年を越え、ほぼ100%の医療機関がこの制度下で運営されている現状では身動き取れなくなってしまってますよね。確かに今の時代的にそんな過激な行動やらないでしょうけど。医師会もあの当時の様な力も無いし。むしろ、医師会の執行部の方は保険診療で経営潤ってる方々で自由診療反対ですからね。特に地方の病院なんかは地域の独占企業で院長は地方の名士ですから。訳の分からない自由競争なんかより、今の安定した社会主義的な保険制度支持に決まってますもんね。昔、震災の時、被災地に仮設住宅などの訪問診療用のクリニック出したことがあるけど、その時の医師会ってかなり高飛車だった。よそ者だったから特にそうなのかもしれないが、事務局長レベルで結構偉そうな態度されましたよ。地元の先生方はほっといても地元の患者が安定して通ってくるから、地元以外から来ている仮設住宅の住民なんかへの訪問診療なんか全く関心が無かったですよ。

大体、医師になりたての研修医でも教授が見ても診察料は一緒。銀座の真ん中のクリニックでも、地方のクリニックでも料金一緒って、他の業界では考えられないですよね。流石、ソ連の最後の書記長ゴルバチョフ氏に「日本は世界一成功した社会主義国」って言われただけのことはありますよ。褒められたのか皮肉言われたのか分からないけど、この頃は国民の8割が「自分が中流」と思ってた時代だからね。今や中流層が崩壊したのに、医療の世界だけ「社会主義」でやってるんだから。

否、ごく一部に自由主義がある。言わずと知れた「自由診療」だ。自由診療でやってるのは99.9%美容関係だ。

某大手の美容外科に入った研修終わりたての後輩と待ち合わせた時の事だ。ちょっと遅れてきて「すいません。車が駐めれなかったんです。」「駐めれないって、お前フェラーリでも乗ってんのか?ハハハ。」「イエ、僕ランボルギーニなんです。」「…あ、そう…」。
一方、私が大学病院時代、肝臓学会の重鎮で当時地方の国立大の講師されていて、その後東京の某大学の教授になって退官された先生がたまたま知り合いのクリニックでバイトされてると聞いた。そこで何十年ぶりかに食事したんだけど、確かに「中川、まだそんな研究やってんのか?偉いな。」と褒めていただいたんだが、「年金が少なくて…」みたいな愚痴が出る。なんかおかしくないか?。

結局のところ、大雑把に言って「保険診療は儲からず、自由診療は儲かる。」と言うところか。勿論保険で儲かってる所もあるし、美容外科だって結構潰れている。ただ、保険診療に自由診療を取り入れないとだんだん経営的に苦しくなって来ると言うのは確かだ。特に都市部の医療機関はだ。誤解のない様に言っておくが、混合診療とは違う。同一の疾患を保険と自由診療で診る事を混合診療という。現実的には行政からは「カルテを分ける様に」と言われる。混合診療は医師会の反対で中々実現でいない様だが、保険医療機関でも自由診療は行える。

ウチは保険診療も自由診療もしてるが、時間と労力は保険診療の方が多く取られてるけど、売り上げは圧倒的に自由診療分が多い。しかも、美容以外の自由診療と言う全体の割合から言うと非常に稀な形態の営業だ。
正確に言うと、免疫や再生医療などをやってる関係上、いわゆる難病から生活習慣病、美容まで幅広くやってるから、美容関係を全くやってない訳ではない。あまり力かけてないので、それはそれとして「経営上どうなんだ?」と言うことはあるけど。ただ、それが故にウチのコンテンツは内科や、整形外科をはじめ色々な科にも受け入れ易い。

先の整形外科の先生にもウチの点滴のメニューを導入してもらうことにした。さて、皆さんも真剣に考えるときかも知れませんよ。