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記事・コラム 2026.04.10

医者が知らない医療の話

【第103回】iPS細胞上清液・iPS細胞由来エクソソームの最新知見

講師 中川 泰一

中川クリニック

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。

 さて、前回iPS復活のお話だった。再生医療は日進月歩の進化で、従来治療法の無かった疾患に対して朗報ではある。しかしながら残念なことに、ご存知のような法的規制があって現実的には臨床応用への道は遠い。
 だが、心配ご無用。いまの流れとしては、研究面では「細胞そのもの」から「細胞が出すもの」へのシフトがかなり明確になってきている。特にiPS系では、上清液は広く効く可能性、エクソソームは製剤化しやすさ、という形で整理されつつあるのだ。

 最新の流れを一言でいうと、「iPS細胞そのものを入れる治療」よりも、「iPS細胞が分泌する成分」を使う「cell-free therapy」に注目がかなり集まっている。なかでも、上清液(conditioned medium, CM / secretome)とエクソソーム(exosomes、現在はより広くEVs=extracellular vesiclesとして扱うことが多い)が中心である。

 こう書くと、以前より美容クリニックなどで流行っている「幹細胞上清液液」「幹細胞由来エクソソーム」のことを連想されるかもしれない。正直、現在出回っている物は玉石混合でかなり怪しい物も見受けられる。もちろん、法的にはあくまで「実験用」であり、中には「人体には使用しないで下さい。」ときちんと書かれてある物もある。つまり、製造、販売側は一切の責任が無く、医師の裁量権で患者に投与していることになる。まあ、ありていに言うと、医師に全責任を被せているわけだ。

 皆さん、自覚してます?そもそも、上清液とは元来、細胞培養する為の培養液で人体に投与する前提で作られていない。これを、人体に投与しても害のないように調整した培養液を使用しているか?そもそも、培養する細胞を提供しているドナーの検査を含む条件などきちんとしているか?など製造に関わる根本的な情報は確認してます?私の知ってる限り販売業者(と言うよりブローカーのような人が多いが。)はこのあたりのことを全く把握していない。どこからか(結構、海外産も多いようだ。)仕入れて来て、販売しているだけだから、全く質問に答えられない。別に培養のプロトコールに関する事や、設備基準など聞いてるわけではない。極く基本的な情報がわかって無いのだ。「いやー、大丈夫と聞いております。」と言われてもなあー。信用できます?

更にエクソソームに関しては、上清液を超遠心して取り出すのだが、本当にエクソソームなのかハナハナ怪しい。詳しくは後述するが、現状では上清液が値崩れして来たので、名前をエクソソームに変えて、倍の値段で売ってるのが実情だと思っている。確かに上清液駅の中にもエクソソームは含まれているので嘘では無いのだが。もちろんキチンとしたところもあるかも知れないが、やはり信用ならない。だから厚労省から注意喚起出されたりしている訳で。

 かような理由で、私は全て完全に把握できる、オリジナルないし共同研究しているラボのものしか使わない。

 閑話休題。前置きが長くなったが、2024~2026年の文献と公的情報を見ると、研究の焦点は「効くか」だけでなく、「何が効いているのか、どう規格化するか、どう安全性を担保するか」に大きく移っている。
 なお厳密には、最近の国際的な流れでは「エクソソーム」という語を安易に使わず、「extracellular vesicles(EVs, 細胞外小胞)」と表記することが推奨される。とくに分離法だけで「これはエクソソームだ」と断定できない場合は、small EVsなどの表現の方が適切である。以下では臨床現場で通じやすいよう「エクソソーム」という語も用いるが、学術的にはEVの一亜群として理解してほしい。

 では、cell-free regenerative medicineとしての位置づけとして、iPS細胞上清液・iPS細胞由来エクソソームの最新知見について述べたいと思う。
 まずは、なぜいま「iPS細胞そのもの」ではなく、「上清液」や「エクソソーム」なのかだが、再生医療の初期には、iPS細胞やその分化細胞を「移植して欠損組織を置換する」という発想が中心であった。しかし臨床開発が進むにつれ、細胞移植には、1.腫瘍形成リスク、2.未分化細胞残存、3.異所性組織形成、4.免疫学的問題、5.製造・物流コスト、6.投与後挙動の不確実性といった課題があることが明確になって来た。とくにiPS細胞は多能性ゆえに魅力的である一方、品質管理の難しさと安全性評価のハードルが高い。こうした背景から、近年は「細胞が治しているのではなく、細胞が放出する分泌因子が主に効いているのではないか」という「パラクライン仮説」が強く支持され、「cell-free therapy」への関心が高まっている。

そして、このcell-free therapyの中核をなすのが、conditioned medium(CM, 上清液)/ secretomeと、そこに含まれるextracellular vesicles(EVs)である。上清液は、培養細胞が放出したサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、脂質メディエーター、代謝産物、可溶性タンパク質、酵素、EVなどを含む「分泌物の総体」である。一方、EVはその中の粒子成分であり、脂質二重膜に囲まれた小胞として、RNA、タンパク、脂質などを運搬しうる。最近の研究では、iPS由来製品においても、細胞そのものの移植から、secretome/EVを活用する方向へのシフトが明瞭である。