記事・コラム 2018.08.10

医者が知らない医療の話

【第11回】BRM(Biological Response Modifiers)療法

講師 中川 泰一

中川クリニック

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。

免疫療法はまず、ここから始まり、1980年代頃までこれが主流だった。
 BRM(Biological Response Modifiers)生体応答調節療法と呼び、生体に何らかの変化を起こすものを用いて免疫応答を強化する方法だ。

何のことか分かりにくいですよね? 要は「原理はわからないが、免疫を強化する物を用いた治療法」と言う意味だ。近年まで薬も世界中の「良く効く」薬草を探し出してその成分を分析すると言う手法を取っていた。免疫療法も同様に最初は「理屈」より「結果」から入って行ったのですね。

有名なところではキノコなどの菌糸類。1960年代になって菌糸類に抗癌作用があることが国立がんセンターなどから報告されてから注目が集まった。
 アガリクスなどはブームになった事を覚えている方もおられると思う。その他、カワラタケ由来のPSKが「クレスチン」、シイタケ由来の「レンチナン」、スエヒロタケ由来の「シゾフィラン」の3つは医薬品として承認された。
 しかしこれらは、臨床の場では動物実験ほどの効果が出なかった。そのため、現在では「抗癌剤の補助剤」と言う扱いであり、つまり他の抗癌剤と併用しなければならない。テガフールのプロドラッグの5-FUやウラシルとの合剤のUFTなどとだ。

一方、「健康食品」のメシマコブやアガリクス、霊芝(れいし)で「癌が治った!」と言う話は結構聞いた。勿論、過剰な宣伝の事もあるが、あながち全てが嘘とは限らない。
 ちゃんとした原料より作られている物はそれなりの効果が有ってもおかしくない。(勿論、紛い物も多かったわけだが。)実際、動物実験ではメシマコブなどは医薬品となったカワラタケより癌の増殖阻止率が高かったとのデーターもあるのだ。

菌糸類には癌治療に必須のビタミンDの前駆物質であるプロビタミンD2やマクロファージやNK細胞、Tリンパ球などを活性化する「βグルカン」が含まれている。

では、菌糸類の健康食品は癌に有効かと聞かれれば、「効果が出る場合がある。」と言うのが解答だろう。流石に臨床データーが無さすぎるが、前述したように無視するには事例が多い。
 特にアレルギーでもなければ大きな副作用はないし、お金に余裕があればこれらの健康食品を飲むのも悪くないだろう。勿論、それなりの値段はするがちゃんとした原料のものをね。

お金がもったいなければ、キノコ類を食べると言うのもアリだ。因みに動物実験ではあるが、一般的に食べられているキノコにも、「健康食品」に負けず劣らずの抗癌作用があるのだ。
 更に免疫を賦活するので癌以外にも色々な効果も望める。日頃から心掛けて食すのもアリだろう。ただ、注意点を一つだけ。効果のある「菌糸体」とはキノコの「根」の部分で一般的に思い浮かべる「傘」の部分ではないので、調理する時に切って捨ててしまわないようにね。

最後に、これらのキノコ類を抗がん作用の強い順に記すと、松茸、ナメコ、えのき茸、シイタケ、シメジ辺りだ。松茸以外は日常の食卓に登るでしょ。