マクロファージスペクトラムとTreg制御の関係

従来のM1/M2二分類は、マクロファージの極端な両端を定義するにすぎず、実際にはその中間に多様な機能的状態を持つマクロファージのスペクトラム(連続体)が存在する。これらは病態・組織環境・代謝状態などに応じて再プログラムされる柔軟性を持ち、その一部はTreg誘導促進型、一部はTreg抑制型の性質を有する。
たとえば、M1/M2の中間型であるM2b型は、IL-10とTNF-αを同時に分泌することで、部分的な免疫抑制と炎症誘導のハイブリッド的性質を持つ。このようなマクロファージは、がん環境下ではTregの誘導に関与する一方で、適切な刺激下では逆にTregの制御を解除する方向にも働く可能性がある。
このようなマクロファージスペクトラムの多様性こそが、癌免疫療法における精密な免疫制御のターゲットとなり得る。すなわち、特定の段階にあるマクロファージを操作することで、Treg制御を最適化し、免疫抑制的な腫瘍環境を可逆的にリプログラムできると考えられる。
がん免疫におけるマクロファージ(TAM)とTregの相互作用

腫瘍微小環境(TME)には多数の免疫細胞が浸潤しているが、腫瘍関連マクロファージ(TAM)はがんの進行や免疫逃避に深く関与する。腫瘍初期にはM1様マクロファージが腫瘍細胞を攻撃し、抗原提示を通じてエフェクターT細胞やNK細胞を誘導することで抗腫瘍免疫を活性化する。
しかし、腫瘍細胞はサイトカイン環境を操作し、マクロファージをM2様の免疫抑制型に偏向させる。TAMはIL-10、TGF-β、PGE2などの免疫抑制性サイトカインを分泌し、CD8+ T細胞やNK細胞の機能を阻害するとともに、Treg細胞の分化と局所への集積を促進する。特に、M2b型TAMが分泌するCCL1はCCR8陽性のTregを腫瘍内へ引き寄せる役割を担い、TAM自身も高いIL-10産生能を持つ。
また、TAMはPD-L1、IDO、アルギナーゼなどの免疫抑制分子を発現し、T細胞のアポトーシスや疲弊を誘導する。TregはTAMの代謝適応や生存にも影響を与え、低酸素・高乳酸環境におけるミトコンドリア機能維持に関与することが示唆されている。すなわち、TAMとTregは互いに免疫抑制的なループを形成しており、がん免疫からの逃避を助長している。
このように、マクロファージが癌の成長を助長している一面が指摘されているが、以下のようにその役割が変化し、癌に対する免疫作用を発現させる。
マクロファージによるTreg教育とがん抑制の関係

マクロファージはがん免疫において二面的な役割を果たすが、そのうちの一つにTreg細胞の機能再教育を介した抗腫瘍作用がある。炎症環境において、M1様マクロファージが分泌するIL-6やIL-12は、Tregの免疫抑制機能を低下させたり、炎症誘導型T細胞への再分化を誘導したりすることが知られている。このプロセスは「Tregの再教育」として捉えられ、がん微小環境(TME)において抑制的なTregの影響力を弱め、CD8+ T細胞などのエフェクター細胞の活性を回復させる方向に働く。
この働きによって、マクロファージは単独で腫瘍細胞を排除するのではなく、Treg細胞の免疫制御機能に対して介入し、免疫抑制環境から免疫活性化環境への転換を引き起こす。これは特に初期の腫瘍形成段階や、免疫チェックポイント阻害薬と併用する戦略において重要な役割を果たすと考えられている。
要するに、マクロファージは単なる異物処理細胞にとどまらず、制御性T細胞(Treg)の誘導・成熟・機能維持に深く関与する調節性免疫細胞である。マクロファージが分泌するIL-10、TGF-βなどのサイトカインは、ナイーブT細胞のTregへの分化を促進すると同時に、既存のTregの安定性と抑制機能の維持に寄与する。また、マクロファージは抗原提示能を通じてTregの活性化や局所的な機能の発揮を促進する。
炎症環境下では、マクロファージの活性化様式がTregの性質に可逆的な影響を与えることが知られている。M2様マクロファージは免疫寛容に寄与し、Tregの誘導に有利な環境を提供する。一方、M1様マクロファージはIL-6やIL-12などの炎症性サイトカインを通じてTregの抑制機能を再プログラムし、状況に応じて抑制的T細胞を炎症促進型へと転換させることもある。
このように、マクロファージとTregは静的な役割分担にとどまらず、病態や組織環境に応じて互いに可塑的に変化しながら、免疫恒常性と炎症応答の間のバランスを動的に調節している。マクロファージによるTregの“教育”は、免疫のアクセルとブレーキを同時に制御する高度なフィードバック機構の一端を担っていると考えられる。
以上がマクロファージの活性化による「免疫調整療法」の原理になるわけだ。