学びは生涯
古稀を迎えてから、高齢者のバイク仲間と親交を深めたいと思って「古稀 rider」というFacebookを立ち上げた。休みの日にバイクに乗ると、Facebook仲間を増やすために、parking areaで休んでいるriderで、高齢と思われる方を探した。しかし、この人は高齢のバイク乗りでは、と思っても、実際には老けて見える壮年の方もいるので、なかなか声を掛けづらい。
以前モーターボートに乗っていた時に、桟橋に舫で1日のんびりウィスキーを飲んでいる方がいた。移転したハーバーでは新参者だった私は、いろいろと情報をもらいたくて、周りの船にお土産の焼酎を持って話を伺いに行った。
「このバースは最悪。波が後ろから来るから船を着けづらいんだ。だから料金を安くしてるんだが、大体みんなここに来ると船を壊して退散していくよ。俺は長くここにいるからもう慣れたけどね」
そんな話をしてくれて、「何かあったら何でも聞いてくれ」と、1枚の名刺をくれた。名刺、といっても、名刺判の大きさの厚紙に、船の写真が印刷してあって、「○○丸、オーナー△△」と書いてあった。住所も電話番号もないそれは、なんとも粋な自己紹介だった。
そこで、私もそれを真似て「古稀ライダー」の名刺を作ってみた。
仕事から離れた趣味の範囲なので、医師、内科医、神経内科開業医、などという肩書はあえて載せていない。この名刺の裏面のQR codeを読み込むと、「古稀ライダー」のFacebook pageに飛ぶことが出来るようにした。そこで私に興味を持ってもらえれば、お互いにお仲間としてやり取りが出来る、そう考えたからだ。
バイクに乗り始めた時は、第三京浜を保土ヶ谷PAまで行くのが冒険だった。保土ヶ谷PAにはバイクの駐車場があり、いろいろなバイク乗りが集まる。数人の仲間が落ち合って談笑したり、タバコを燻らせ、ベンダーマシンで買ったコーヒーをゆっくりと飲んだりしている。時にはハーレーダビッドソンの集団に出くわすこともある。私はといえば、売店で横浜名物の焼売や肉まん、ごぼう煎餅をお土産に買って帰る。古稀ライダーの名刺は常に持ち歩いていたが、周りのバイク乗り達に声をかけるチャンスはなかった。
Old riders
なかなか保土ヶ谷PAのお仲間になれずに数年が経った頃、あるold riderが私のバイクを珍しそうに見にきた。人の良さそうな方だったので、思わず「おはようございます」と声をかけた。それがKさんだった。
「きれいに乗ってますよね、800ccくらいあるかな?」
「いえ400ccです。YAMAHAのDrag Starです」
「我々はもう年だから、250で十分です」
「失礼ですが、おいくつですか?」
「81です」
「そうですか、すごいですね、そのお年まで現役で」
「若い頃はね、750ccとか乗ってましたけどね」
Kさんと話が弾んでいると、もう一人のOld bikerが近寄ってきた。
「Wさんは、私より1か月年上なんですよ」とKさんが紹介してくれた。
「いやいや、この保土ヶ谷PAで一番のバイク乗りは84歳だったんですが、先日亡くなってね、我々が一番上になっちゃったんですよ」と、ヘルメットからサファリハットに替えた、ダンディなWさんが話してくれた
お二人が私と話をしていると、近くにいた中年のbikerが、
「WさんとKさんは我々の目標なんですよ、いつまで元気でバイクに乗れるか、って考えると、お二人を見ると安心するんですね」と微笑みながらつぶやいた。
そうなんだね、ゴツイバイクに乗っていても、体力、気力がいつまで続くか、と気になるのだ。ちなみに、KさんはKAWASAKIのNinja 250cc、Wさんの愛車はBMW1000ccだったが、今はHonda 250ccに乗っている。
アマチュア無線
Wさんは若い頃、仕事で全国を飛び回っていて、各地の城を見るのが趣味になったのだそうだ。リタイアしてからも、大型バイクに乗って各地のビジネスホテルに泊まりながらお城見学を続けたという。
保土ヶ谷PAや都筑PAで何回かお会いするうちに、
「神津さん、アマチュア無線技士の免許を是非取ってください。世界が広がりますよ」と、勧められるようになった。今はDT-01というDaytonaのインカムを持っているので、ツーリング仲間が出来たらそれで楽しもうと思っていたが。
「インカムとは違って、特にロングツーリングで信号や交通状況等で、万が一お互いが離れて迷った時など、アマチュア無線なら、繋がりやすいので助かりますよ。私も、仲間4,5台でツーリングした時に、無線のおかげで何度か助かりました」と、Wさんは、大型自動二輪の免許の次は、4級アマチュア無線技士を取ってください、と強く私に勧めてくれた。
勧められると断れない、という性格もあり、「私は40代で4級を取りましたが、超簡単ですから」という甘い言葉に乗せられて、というか、それなら73歳で挑戦してみよう、という気持ちも湧いて、まずどのようにして勉強して試験を受けるのか、インターネット上で検索してみた。
このQCQ Planningという会社の講習会情報がまとまっていたので、見て見ると、e-learningが出来るらしい。講習会に足を運ぶのは大変なので、自宅で講義が受けられればそれに越したことはない。早速メールを送って、受講案内を取り寄せた。その返事が以下だ。一部割愛して載せさせていただく。
神津 仁 様。
「養成課程eラーニング」受講のお申し込み、まことに有難うございました。
お申し込み内容を確認させていただき、
通常、土日・祝日を除いて1~2営業日中に、
今後の手続きのご案内をEメールにてお送りさせていただきます。★☆★ お客様のお申込み内容は以下の通りです ★☆★
養成課程eラーニング
第四級アマチュア無線技士標準コース===========================
【 受講コース 】 養成課程eラーニング 第四級アマチュア無線技士 標準コース<ELG-N23002>
【 教科書 】 持っていない
【 認知経路 】 Googleで検索/Googleの広告
【 店名 】
【 その他内容 】 東京都
【 お名前(漢字) 】 神津 仁
【 お名前(カナ) 】 コウヅヒトシ
【 性別 】 男性
【 住所-市区町村番地 】 世田谷区若林5-4-7
【 電波法令違反の有無 】 なし
【 身分証明書 】 持っている
その後数日して、U-パックで資料が送られてきた。ここまでのQCQ-Planningの対応はとても良く、受講者に不安なくオリエンテーションがスムーズに進められている印象を強く持った。医療系のe-Learningも、このレベルでやってもらえたら、6カ月に1回生涯教育として受講するという気にもなるのではないかと思った。
医師の学びは生涯
生涯教育については、第25回日本医学会総会で講演させてもらったことがある。当時の日本では、インターネットホームページを学術団体が持ち、生涯教育のために活用するという基盤は菲薄だった。今でも十分とはいえないが、欧米ではすでに当たり前に活用されているこのシステムが、どうして日本に定着しないのか分からない。知識はpowerであるから、それを象牙の塔の中で権力として維持したい学会や大学が手放さないのかもしれない。医学、医療の知識は、情報の非対称性(information asymmetry)を超えて、医療者が等しく持つべきものだ。その為には、学会や大学という情報を抱える側から、患者の近くにいて、時間的空間的にも最新の情報や研究成果に触れにくい地域開業医に、適切なタイミングと査読や識者の目を通して得られたものを、第三者機関がきちんと届けることが重要になる。
米国のACCMEはもう数十年の歴史を持つが、臨床医のほとんどがこれを利用している。そのホームページには、以下のようにその理由が記されているGoogle翻訳を使って日本語にした)。
医学と科学の分野は決して進歩を止めることがなく、医師も同様です。
志望する医師は医学部で4年間、研修医として3~5 年間の研修を行います。医師は残りのキャリアを通じて、診療の改善を推進し、患者のケア、健康、ウェルネスを最適化するのに役立つサポートシステムの1つとして認定CMEを頼りにします。
認定CMEはあらゆる医療専門分野に対応し、医療の改善に重要なあらゆるトピックをカバーしています。医師が臨床ケア、研究、医療管理、経営陣のリーダーシップ、またはその他の医療分野で働いているかどうかに関係なく、認定CMEは医師のニーズに関連し、実践に基づいた効果的なものになるように設計されています。
認定CMEに参加することは、医師が免許の維持、認定の維持、資格認定、専門学会の会員、その他の専門的特権の要件を満たすのに役立ちます。
医師は、商業的な影響を受けることなく学び、教えるための保護されたスペースを提供してくれる認定CMEを信頼できます。
臨床医には、ベストプラクティスと証拠に基づいて、安全で効果的、費用対効果の高い、心のこもったケアを提供することが期待されています。認定 CME はそれを実現するのに役立ちます。
ACCME(The Accreditation Council for Continuing Medical Education)は、1981年に設立された非営利法人だ。イリノイ州シカゴに本部があり、CME(continuous medical education)の実施に際し、他の組織からの利益相反を受けず、商業的偏見がなく、医療の改善を促進するように設計された組織だ。それを保証するための基準を、責任をもって設定している。「Our goal is to leverage the power of education to improve clinician performance and patient care(私たちの目標は、教育の力を活用して、臨床医のパフォーマンスと患者ケアを向上させることです)」と表明する、倫理観と機能性を持った特定の組織がないことが日本の医療教育、特に生涯教育における問題点なのではないかと思う。私が日本医学会総会で講演したのが1999年のことだから、すでに四半世紀が過ぎたが、まだ日本ではACCMEに並ぶ組織が作られていない。
<資料>
1) QCQ planning:https://www.qcq.co.jp/34ama/seminar.html
2) インターネットによる生涯教育:第25回日本医学会総会(東京),4月3日,1999.
3) ACCME:https://www.accme.org/