記事・コラム 2023.09.01

神津仁の名論卓説

【2023年9月】健康に良いビール考(I)

講師 神津 仁

神津内科クリニック

1950年:長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年:日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)、第一内科入局後
1980年:神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年:米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年:特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年:神津内科クリニック開業。

「まずはビール!」
と、仲間と一緒に飲食店に行けば、誰かがそう店員に声を掛けるのが昭和の時代では当たり前のことだった。その頃の選択肢は限られていて、飲み物メニューには、ビール、日本酒、ジュース、サイダー、くらいしか載っていなかった。ワインリストなどあるはずもなく、日本酒も普段飲まれるものは二級酒という粗悪品だった。ビールは国産のキリン、アサヒ、サッポロの3銘柄がほとんどで、中華料理屋に行けば青島ビール、沖縄料理屋に行けばオリオンビールが飲めたが、「おっ、珍しいね」と興味本位で飲んでも、好みのビールには程遠い味だった。そのうちサントリービールが加わった。

 クラブ活動での大切な行事の一つに「納会」がある。私が所属していたヨット部では、現役部員、OBを含めて20〜30人が中華料理店などの宴会場を借りて、その年の活動報告、東医体の戦績、新入部員の紹介、次期幹部からの来年に向けての抱負の表明などが行われていた。宴会の最後にはOB一人一人からの訓示があり、部歌を高らかに合唱して一次会は終了になる。二次会がその後あって、ほとんどの部員はそれに参加する。一次会は現役部員にとっては緊張の場だ。OBの接待もあって、あまり飲み食いが出来ない。二次会になって緊張が解けると、そこで結構盛り上がって食も飲みも進む。二次会には居酒屋へ行くことが多く、「なんでも頼んでいいぞ、日本酒いくか?よし、まずはビールだな、ビール20本持ってきて」と始まる。

 長年納会に参加していると、現役部員たちの嗜好の変化が良くわかる。平成になる頃からか、二次会での「まずはビール」が聞かれなくなった。昔はメニューの端に数行しかなかった飲み物リストが、今では2ページにもわたって書かれている。国産ビールはもとより、外国産ビール、生ビール、ノンアルコールビール、ワイン、焼酎、日本酒、サワー、ハイボール、種々カクテル、と選択肢が滅茶苦茶に増えた。以前は先輩がビール、といえば「じゃ僕も」と、それ以外の選択肢はあまり考えずに済んだ。ビールが来て、みんなのグラスが満たされて「それじゃ、乾杯!」までの時間が短いから、会の進行もupテンポで快活だったように思う。それが今では「僕はカシスオレンジ」「じゃ僕はモスコミュール」「白ワイン」「ハイボール」「モヒート」等々のオーダーが入るので、乾杯までの時間がやたらと長くなった。「まずはビール」も、時短、効率化、という点では昭和の遺産として復活するのも悪く無い。

ビールという飲み物の再認識

 ビールというと、ビール腹をして赤ら顔の白人が、ジョッキを片手にビアホールで飲めや歌えの大騒ぎをするOctoberfestを想像してしまう。高尿酸血症、痛風の患者さんにはビールは厳禁、と指導するので、自分の中でもビールにあまり親近感を持っていなかった。

 最近、ビールの量り売りをする酒屋を見つけた。いつも通っている西太子堂駅のすぐ脇にその店はあって、外観がやや近寄りにくい暗い雰囲気を醸し出している。いつもは入ってみようという気にならなかったのだが、暑い日の午後、たまたまバイクに乗った帰り、何の気なしに目をやると、甕出し紹興酒の量り売りをやっている、というチラシが目に入った。値段は悪くない。暑い日には紹興酒に氷とレモンを入れてロックにして飲むのが私流で、中華料理店では良く頼むのだが、自宅に常時紹興酒があるわけではない。こんな近くで美味しい甕出し紹興酒が手に入れば御の字だ。そう思って入ってみた。

 外の暑さと違って、涼しい店内は薄暗く、二組のカップルが店内の椅子に座って静かに日本酒やビール飲んでいる。なるほど、昔の酒屋のように、酒を試飲しながらつまみを買って楽しんでいるのだ。店主に聞くと、日本酒は光を嫌うので店内を暗くしてあるとのこと。壁には珍しい日本酒や古酒がずらりと並び、冷蔵庫には缶ビールや地ビールを入れたBeer containerがいくつも並んでいる。これを見れば、かなりこだわりのある酒屋と分かる。

 この時は何も容器を持っていなかったので、後日一升瓶と圧力に耐えられる(炭酸水やコーラを入れる)ボトルを用意して買いに行った。その紹興酒が美味しかったことはいうまでもないが、量り売りしてもらった地ビールがまた美味かった。ここで、私の知識脳のスイッチが入った。今まであまり近づかなかった「ビール」について知りたくなった。

都市伝説「ビール腹」

 ビールをゴクゴク飲んでソーセージ゙を食べ、ポテトチップスをパリパリ食べれば、それは太るに違いない。ではその責任を負うのはビールなのか?。

 ポテトチップスとソーセージには責任がありそうだが、ビールそのものはどうなのだろう。世界のビールを輸入して紹介し、多くの代理店を務める日本ビール株式会社のWebコラムにはこう書いてある。

 お酒好きな人のお腹がぽっこりと出ていると「ビール腹」なんてよく言いますが、実はビールそのもので太るということはありません。

 アルコール由来のカロリーは、脂肪として蓄積されにくい「エンプティ・カロリー」。体に蓄積されず、優先的に分解されてすぐに熱に変わります。お酒はアルコール度数が高くなればなるほどカロリーも高くなりますが、摂取してもすぐに消費されるので、直接“太る”ことにはつながらないのです。

 ではなぜ「ビールは太る」と言われるのでしょう? それはビールに、脂肪のもとになる糖質やたんぱく質といった栄養素が含まれているから。体にいいお酒と言われる半面、脂肪のもとになるカロリーも含まれているのです。

 とはいえ、ビールに含まれている糖質は350mlあたり約10g。ご飯1杯(150g)約55g、食パン1枚(60g)約28gに比べるとかなり低いことがわかります。決して「ビールは太る」と言われるような数字ではありませんね。

 だからといって油断してはいけません。エンプティ・カロリーは、体に蓄積しないカロリーですが、このカロリーが消費されている間、食事によって摂取したカロリーは消費待ちの状態。ですからお酒を飲めば飲むほど、ほかのカロリーは消費されず脂肪として蓄積されてしまうのです。

 もうおわかりの方もいらっしゃると思いますが「ビール腹」の原因は、ビールではなく食事やおつまみだったのです。お酒を飲みながら食事やおつまみを食べるということは、通常の食事よりも脂肪がつきやすくなってしまうということなのです。

 「最近ぽっこりお腹が気になる……」という人は、できるだけカロリーの低いおつまみにしてみてはいかがでしょう。糖質、脂質、濃い味、炭水化物は避け、豆類やナッツ、チーズといった糖質の低いものがおすすめです。キムチ、豆腐、枝豆、キュウリなども低カロリーです。

 またお酒を飲むと、体はアルコールを分解するために血液中の糖分を消費します。すると血糖値が下がり、脳が一時的に空腹だと勘違いしてしまいます。するとあの「〆のラーメン」が脳裏にチラついてしまうのです。しかし、そこはグッとこらえましょう。しばらくすると空腹感はなくなります。ガマンできない人は、飴を1個なめるとずいぶん違いますよ。

 Empty caloriesとは、「カロリーは高いが体に良い栄養がほとんど含まれていないということを意味する言葉である。しばしばカロリーが空(ゼロ もしくは 少ない)という意味だと勘違いされるがこれは間違いである。アルコールから摂取したカロリーは優先的に消費されるとされているが、その他のカロリーが消費されず後回しにされるだけなので、結果として肥満の原因となる。エンプティカロリーはジャンクフードやアルコール飲料に多く含まれている(Wikipedia)」と解説がある。

 実際には、ビールの栄養価はemptyではなく、ナイアシン(ニコチンアミド+ニコチン酸)、リボフラビン(VB2)、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、セレン、マグネシウム、シリコンなどが含まれ、他のアルコール度の高いアルコール飲料に比べると、様々な利点があり、健康に良い飲み物だということが再認識されてきたようだ。

ビールのグリセミック指数とグリセミック負荷

 Diewertje Sluikらが2016年にCambridge University Pressで行った報告によると、ビール(pilsner beer)のグリセミック指数(glycemic index=GI)は89(SD 5)とのこと。ビールのGIについては、いろいろと情報を探ってみたが、書かれている値がバラバラだった。GIが低いと書いている日本人医師もいるが、そのデータの出所が定かでない。Diewertje Sluikらの研究論文は、シドニー大学で 国際標準化機構 (ISO) の方法論に従い、参照食品としてブドウ糖を使用して実施されたものであり、参考として良いだろう。” In conclusion, beer is a high-GI food” と結論付けられている。

 しかし、ビールは炭水化物含有量が少ないため、そのグリセミック負荷は非常に低い。グリセミック負荷(Glycemic Load=GL)とは、GI値に炭水化物の重量をかけた値で、ハーバード大学公衆衛生学大学院の研究チームが考案した、血糖値を上昇させる程度をあらわす指標である。


GL値 = GI値×各食材に含まれる炭水化物量(g)÷100


 GLの低い食品については、2014年のアメリカ糖尿病学会(American Diabetes Association)の栄養に関する勧告で「低いグリセミック負荷の炭水化物が血糖値を少々制御する」として摂取を推奨し、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)は、グリセミック負荷の低い食品を「食後血糖の管理に有益である」と推奨している。それは糖尿病にも心血管疾患にも良い影響を与える。
 すなわち、ビールは人の健康に寄与する良い飲み物だといえる。ただし、我々医師が推奨する時には、「ビール」の前に「適量の」と付け加えることを忘れてはならない。

(次号に続く)

<資料>

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