記事・コラム 2023.07.01

神津仁の名論卓説

【2023年7月】肥満、肥満症(I)

講師 神津 仁

神津内科クリニック

1950年:長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年:日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)、第一内科入局後
1980年:神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年:米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年:特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年:神津内科クリニック開業。

 神津内科クリニックが2020年12月に今のmicro clinic(とても小さいが機能的なクリニック)に移転してから、2人のover weightの患者さん(一人は125kg、一人は145kgで、二人とも男性)に心苦しい思いをさせてしまっていた。こちらのクリニックに移ってから、狭い待合室を広く使うためにOllie chairという折りたたみの椅子をニューヨークから取り寄せて設置した(詳細は「名論卓説2020年10月号」)。その時に送ってもらった仕様書には、体重制限が114kgと書かれていたので、お二人には値段の安い鉄製の丸椅子に座って頂くことにした。

 今回この記事を書くのに再度確認してみたら、鉄製の丸椅子の耐荷重は110kgで、Ollie chairは136kgと書いてあった。今考えると125kgの方はOllie chairに座って頂いても良かったのだ。ただ、残念ながらその方は昨年関西に転勤されてしまった。

「健康的な肥満」などない

 Aさん(125kg)は2013年に睡眠時無呼吸症(SAS)で来院し、C-PAPの適応となって毎月来院してもらっていた。当初はSAS以外に過体重による障害は見られなかった。健診でも「正常範囲」といわれていたようで、「肥満でも健康です」と自信を持っていた。私も同じような目で肥満の方を見ていたので、肥満そのものが病気、という考えはなかった。

 世界中で、大人になったらタバコもお酒も許されるのだが、ある部分の人たちにとっては、タバコを吸うことでニコチン中毒という病気になり、飲酒することでアルコール中毒という病気になる。最近では、動物性脂肪の摂取が麻薬以上に依存性を形成することが分かって問題になっている。これらの病気を治すために、多くの医療者が動員されるようになったのは、ヒトの長い歴史の中でもつい最近のことである。

 私がAさんを診療していた2013年頃ようやく、今は肥満で健康上問題ない人達でも、次第に様々な障害が生じる。肥満は疾患として扱うべき、という考え方が出てきて、そうした海外論文や研究を目にするようになった。

 ミズーリ州医学会誌にDr. M. Javed Ashraf (Truman medical center/University of Missouri-Kansas City, Obesity and cardiology)が「There’s No Such Thing as “Healthy Obesity”(「健康的な肥満」などというものは存在しない)」という書簡を、2013年の論文を引いて投稿していたのもこの頃だった。

 投稿内容を簡略に紹介させてもらおう。

 過体重と肥満は、米国における罹患率と死亡の原因として最も急速に増加しているものだ。肥満は、心血管疾患の罹患率と死亡率の増加に関連する慢性代謝障害である。しかし、肥満が健康被害の増加と関連しているという事実にもかかわらず、近年、「健康な肥満」、「良性肥満」などと、混乱を招く矛盾した報告が散見される。残念ながら、これらの報告は、この憂慮すべき問題の深刻さを損なうものだ。

 キャロライン・クレイマー博士らは、2013年12月に『内科学年報』に掲載されたメタ分析で、肥満問題の悪化を強調した。彼らは、さまざまな体重の代謝的に不健康な人々と代謝的に「健康な」人々の両方において、肥満成人の間で心血管疾患の発生率と全死因死亡率が増加していることを報告し、「健康な肥満などというものは存在しない」と強調した。

(中略)

 「良性肥満」の概念は、代謝的に健康な肥満者を短期間で評価した報告から生まれた。著者らは、自分たちの結果はこの「良性肥満」の概念を支持していないと主張している。私は、肥満には「健康的な」パターンは存在しないことを明らかにするという、クレイマー博士とその同僚の素晴らしい研究に拍手を送りたい。実際、軽度の肥満を含む代謝的に不健康な成人は、心血管イベントや全死因死亡の相対リスクが最も高かった。また、同僚と私は、ミズーリ・メディシン誌に最近掲載された総説記事の中で、肥満だけでなく「正常体重肥満」(NWO)の人でも心血管リスクが増加していることを強調した。NWO成人では、動脈内のアテローム性動脈硬化プラークが増加しており、ウエスト対ヒップ比が正常または小さい成人よりも臨床転帰が悪化している。NWOの人は、代謝的に健康で正常体重の人に比べて、糖尿病や心血管疾患のリスクが高くなる。

 私は、臨床医がこのグループの NWO 患者にもっと注意を払うべきであることを強く提案する。なぜなら、彼ら、彼女らは自分自身を健康であると認識している可能性が高いからだ。代謝状態に関係なく、誰かが肥満または正常体重肥満(NWO)であれば、その人は危険にさらされていると考えるべきだ。クレイマーらのデータ、メタ分析は、肥満はどのようなレベルや重症度であっても、良性の状態ではなく、決して「健康」ではないという事実をさらに強調している。

米国における肥満をめぐる組織とその活動

 疾病の病態に対して、どんな社会的な枠組みが作られてきたのかは、学会あるいは団体という組織を見ると分かりやすい。アメリカには、米国肥満協会(The American Obesity Association =AOA)と米国肥満学会(The Obesity Society)がある。

 米国肥満協会は、デラウェア州に本拠を置く非営利団体で、1995年に設立されている。会員は、専門会員と一般会員および企業会員を含んでいる。活動方針として、肥満を病気として位置づけ、米国の風土病ともいえる肥満を社会問題として取り上げ、様々なアクションを起こしていくことだという。

 米国社会保障局(Social Security Administration=SSA)と米国国税庁(Internal Revenue Service=IRS)に肥満を病気と認識させ、肥満治療費を医療費控除の対象にすることをIRSに認めさせた。ある意味政治的な活動を目的としている団体のようだ。

 米国肥満学会(TOS)は1982年に設立され、肥満の科学、治療、予防に焦点を当てた、主として肥満に関する専門家を会員とした団体だ。世界中で約2,800人のメンバーがいて、基礎・臨床研究者、臨床医および医療提供者、教育者、若い研究者、学生などで構成されている。メンバー間のネットワーキング、研究助成金の支援、雑誌の発行、肥満関連の教育機会を設けるなどが主要な活動だ。どちらかというと、AOAより学術団体としての色が濃い。

 2022年に全米の肥満関連6団体が集まり、共同合意表明をしているが、そのリーダーシップをTOSが執っていたようだ。

「疾患としての肥満に関するコンセンサスステートメント」

肥満は、過剰な脂肪の蓄積または分布を特徴とする非常に蔓延している慢性疾患であり、健康にリスクをもたらし、生涯にわたるケアを必要とします。事実上、体内のすべてのシステムが肥満の影響を受けます。肥満に関連する主な慢性疾患には、糖尿病、心臓病、がんなどがあります。

BMI (体重 kg / 身長メートル 2) は、肥満のスクリーニングに使用されますが、臨床判断に影響を与えるものではありません。BMIは体脂肪の尺度ではありません。社会的決定要因、人種、民族、年齢によって、特定の BMI に関連するリスクが変化する可能性があります。

肥満の人に向けられた差別や偏見は、健康状態の悪化の一因となり、治療に支障をきたします。

肥満のあるすべての人は、科学的根拠に基づいた治療を受けられるべきです。

日本における肥満をめぐる組織とその活動

 日本には主な組織団体として、日本肥満学会(Japan society for the study of obesity=JASSO)と、日本肥満治療学会(Japanese Society for Treatment of Obesity=JSTO)がある。

 日本の団体の常として、官僚主導のtop down型組織作りが多いが、日本肥満学会も1977年に開始された文部省(現.文部科学省)の総合研究班会議に端を発する。その後肥満に関する問題の究明及び解決のための研究発表、情報交換、啓発を目的として、1980年に肥満研究会となり、1984年に国際肥満学会議の日本での開催の要望を受け、日本肥満学会となった。

 世田谷区淡島に以前あった、国立小児病院が全く同じ経緯で作られている。日本で世界小児科学会が開催されることが決まって、その当時日本には小児専門病院がなかったため、1964年に急遽世田谷区にあった元陸軍病院の国立世田谷病院を国立小児病院と看板を変えて対処したという。11th International Congress of Pediatrics が開催されたのは1965年のことだった。

 1964年の東京オリンピックの際に、日本で初めて江の島にヨットクラブが出来た。オリンピックのヨットレースはその国のヨットクラブが主催(ホスト)する、ということになっているのだが、当時日本中に世界のヨットマンを迎えることの出来るヨットクラブはなかった。江の島でレースが行われる、それでは江の島にヨットクラブを作ればよい、ということで、江の島ヨットクラブが出来た。ヨット関係者の間では良く知られた事実だ。

 2012年5月に日本肥満学会は任意団体から一般社団法人に移行する。そのミッションは「肥満の健康障害に対する国際的な学問的関心の高まりのなか、単なる『肥満』と『肥満症』の概念を明確に定義し、2006年には『肥満症治療ガイドライン2006』を、2011年には『肥満症診断基準2011』を発表しました。本会の最近の活動は、肥満症に対する基礎的及び臨床的研究の一層の充実を図るとともに、肥満・肥満症に対する正しい理解を一般医師、メディカルスタッフ関係者、一般市民に普及するため、広報・啓発活動にも力を入れています」とある。

 日本肥満治療学会は、2007年に「肥満・栄養障害研究会」から発展して「日本肥満症治療学会」となった。特に、合併症が顕著で治療抵抗性である高度な肥満患者(morbid obesity)に焦点をあてている。その主たる目的は、肥満外科手術を含めた統合的な肥満症治療の確立であり、内科医・外科医・精神科医・看護師・管理栄養士・薬剤師・理学療法士・ソーシャルワーカーなどの多職種が参加する。チーム医療を目指すが、そのリーダーシップを執るのは外科医のようだ。

 米国と日本の肥満者を比べると、圧倒的に肥満度は米国人が勝る。WHOがBMIによるObesityのClass分けをしているが、ClassⅠがBMI30~34.99だ。日本でいうと「肥満(2度)」にあたる。私が自治体(世田谷区)の健診をしていて、肥満2度の住民はほとんどいない。

 肥満と一口にいっても、いろいろな要素を考慮しないといけないようだ。
次回はBMIに疑いを持ち始めた世界の動向とEOSS-Staging Toolについて述べたいと思っている。

(次回に続く)

<資料>

  1. 神津仁の名論卓説2020年10月号https://www.e-doctor.ne.jp/c/kozu/2010/
  2. M. Javed Ashraf, MD, MPH: There’s No Such Thing as “Healthy Obesity”https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6179534/
  3. American Obesity Associationhttps://www.omicsonline.org/societies/american-obesity-association-aoa/
  4. The Obesity Societyhttps://www.obesity.org/
  5. 日本肥満学会http://www.jasso.or.jp/
  6. < The 8th Asia-Oceania Conference on Obesity (AOCO 2015)>http://www.jasso.or.jp/data/data/pdf/nagoya2015.pdf
  7. 日本肥満治療学会http://plaza.umin.ne.jp/~jsto/about/
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