記事・コラム 2022.07.01

神津仁の名論卓説

【2022年7月】体温生理学(II)

講師 神津 仁

神津内科クリニック

1950年:長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年:日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)、第一内科入局後
1980年:神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年:米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年:特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年:神津内科クリニック開業。

 冬になると、手の冷たい患者さんに「手袋をすると良いですよ。手には血管を開くスイッチがあって、手のひらを暖かくしておくと体が温まります。箱根駅伝の選手を見てごらんなさい、みんな最初は手袋をしているでしょう?そのうち体が熱くなってくると脱ぎ捨てている」と、外来で話をすることが多い。

(中日スポーツ2021年1月4日)

 この”手のひらのスイッチ”に関しては、どこかで小耳にはさんで、情報の真偽を確認してはいなかった。今回、体温生理学を深く学ぶことで、その背景にある興味深いメカニズムの一端を理解することが出来た。

AVAというしくみ

 「ヒトの皮膚血流調節は、他の動物とは異なり、積極的な血管拡張の『しくみ』を持っている。通常、交感神経が活動すると血管は収縮し、同様に皮膚血管も収縮するが、皮膚血管には『血管拡張神経』という異なる役割を持つ交感神経も分布している」と永島先生は説明している。

 入來先生の著書にも「皮膚血管を支配する交感神経線維は2種類ある。皮膚血管収縮神経線維cutaneous vasoconstrictor(CVC)と皮膚血管拡張神経線維cutaneous vasodilator(CVC)である」と記載されていた。しかし、一般的には交感神経は血管収縮に働く自律神経である。血管拡張性に働く交感神経繊維についてはあまり聞いたことがない。

 永島先生と入來先生が参照している平田耕造先生の原著を読むと、「皮膚血管拡張神経線維」という記載はなく、J. T. Shepherdの実験結果を引用して、「図6Aでは、下肢を温水に浸漬することにより、交感神経の血管収縮神経の活動が解除され(-VC)、手の血管(主にAVA)で拡張が起こった。しかし、この『受動的』な血管拡張は前腕ではごくわずかの範囲の血流のみに生じているに過ぎない」ため、「暑熱暴露時にAVAの存在しない皮膚の血流量増加は、皮膚交感神経収縮線維の活動低下によるものより、汗腺機能と密接に関係した能動的な血管拡張がほとんどである。これは汗腺を支配している交感神経から放出される伝達物質のVIP(血管作用性小腸ペプチド:vasoactive intestinal peptide)が、この能動的な血管拡張を引き起こしているものと考えられている」とある。つまり、血管を支配している交感神経の遮断に加えて、発汗作用を支配する交感神経の興奮によってAVAのシステムが機能的に働いているのだということだった。半身浴による発汗作用も同様なのだろう。

 ここまでは分かったが、とりあえずPubMedで検索してみると、この血管拡張性交感神経線維については、いろいろと議論があることが分かった。Joyner MJらによれば、この「血管拡張性交感神経」が存在するという証拠は、最近の研究によって疑問視されているという。

 

 our current thinking is that most ‘sympathetic dilator’ responses in human muscle are due to adrenaline or local cholinergic mechanisms acting to stimulate NO release from the vascular endothelium.(我々は現在のところ、ヒト筋肉におけるほとんどの「交感神経性拡張」作用は、血管内皮からのNO放出を刺激するアドレナリンまたは局所コリン作動性メカニズムによると考えている)

 

 皮膚と筋肉という研究対象の違いが、「cutaneous vasodilator」と「sympathetic dilator」という用語の違いに表れているのかどうか、詳しいことは分からないが、どちらにしても、コア温(体深部の体温で通常は37℃±0.3℃)の上昇が続くと、皮膚血管が強く拡張するという現象は、AVA(arterio-venous anastomosis)つまり動静脈吻合が大きな役割をしている。

 通常、動脈と静脈の間を連結する組織は毛細血管で、その血管径はおよそ5~10μmほどであることが知られている。しかし、AVAは、毛細血管と同様に動脈と静脈の間をつなぐものだが、その径は25~100μmにも及ぶ。また、毛細血管自体は、血液の流れが増えてもその径がほとんど変わらないのに対して、AVAは体温の変化に従って大きく径が変化する。AVAが拡張した状態では、血液は上の図のように表在皮膚の静脈に多く流れこむ。

 平田耕造先生が行った、一側ずつ手首のカフ加圧(250mmHg)をして、手血流量と手からの還流静脈血を30分間遮断する実験で分かったことは、①実験的にAVA血流を遮断すると、上肢からの熱放散量が著しく減少するため、全身の皮膚における余分な血管拡張と発汗量の余分な増加が生じる。②しかし、熱バランス的には十分な補償が出来なかったため、食道温は0.20℃も高値となった。③さらにAVA血流遮断により、代償性に拡張した血管床が大きすぎるため、血圧維持の観点から末梢血管抵抗が低下し、平均血圧の低下を招来した。

 つまり、AVA血流量が充分に確保されれば、四肢末梢部(手・腕や足・下腿)からの蒸散性および、非蒸散性の熱放散量が十分に高く維持され、全身における他部位の皮膚からの発汗量、皮膚血流量の増加を抑制出来る上に、体温を低く保つことが出来る。同時にAVA血流量は血圧維持機能にも貢献している。
 そう、これが”手のひらのスイッチ”なのだと分かった。体温生理学は面白い。

発熱とは

 今回読んだ本には「わかりやすい」「なぜ?」がわかる、というサブタイトルが付いているのだが、冒頭に示したAVAの話からして、いったいこの本を読んでどのくらいの人が「わかりやすい」と感じるだろうか?と疑問に思うほど、実際には相当の基礎知識、基礎医学力が必要だ。そこで、とりあえず私が理解可能な部分、体温生理学を学ぶ上で重要だと感じた部分を抜粋し、継ぎ接ぎしながら読者にプレゼンテーションを試みたいと思う。詳細をしっかりと読み解きたい場合には、巻末の資料をあたって頂ければと思う。

 まず、発熱とは、というところから入っていこう。発熱の定義は実は暖味で、一般的には平熱より1℃以上高い温度とされている。感染症や炎症性の病気があると、体温の設定温度が上昇し、これが発熱の基本となる「メカニズム」であると考えられている。

 上の図左上の四角の枠の中に示されているように、リポ多糖、RNAウイルス由来2本鎖RNA、ペプチドグリカンが体内に入ると、それをマクロファージが検知し、炎症性サイトカイン、インターロイキン1α(IL-1α)、IL-1β、IL-6、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターフェロンが細胞外に放出される。すると、一部がプロスタグランジンE2(PGE2)を脳内で産生し、体温中枢(視索前野)を刺激。この時の特徴的な体温調節の反応として、悪寒が起き、それに対してからだを温めようとする行動、衣服を着込んだり、布団に包まったりする事が起こる。これは、私がワクチン接種後の副反応に対してとった行動と全く一緒だ。

(厚労省HPより)

 最終的に、交感神経の興奮が起き、褐色脂肪での熱産生および皮膚血管の収縮を引き起こす。

 その間のルートとして, 視索前野と淡蒼縫線核の「脱抑制」がカギとなることが報告されており、その2つの領域をつなぐ神経は、通常は淡蒼縫線核が活動しないよう抑制がかかっている。しかしPGE2によって視索前野の神経が興奮すると、その抑制が外れることになり、淡蒼縫線核の活動が高まる。その後、脊髄にある中間外側核を介して交感神経の活動が高まる。この一連の発熱メカニズムは、生命を維持するために深部体温を通常より上げて、免疫活動を高めている。

発熱のメリット

 感染時の発熱が、実際にどれくらいのメリットがあるのか、変温動物であるトカゲで調べた研究がScienceに載っている。the bacterium Aeromonas hydrophilaを注射で投与し、異なる環境温度で飼育することで、深部体温を34℃から42℃まで段階的に変えた時、どの温度で最も感染時の生存日数が長いか比べたものだ。

 結果は上の図の如く、感染3日目の生存率は34℃でほぼ0%、36℃で約25%、38℃で約40%、40℃で約70%、そして42℃でほぼ100%だった。体温が38℃を超えると飛躍的に生き延びるのだ。種によって絶対的な体温の意味合いは異なるだろうが、晴乳類でもこのような関係性が考えられている。

 インフルエンザ感染時の解熱剤の利用は、人類全体の致死率を5%上げ、集中治療室での重症患者の症状悪化にかかわると報告されているのだから、私が「つらくなければ、解熱剤は飲まない方が良いですね。つらくて食欲がなくなって体力が消耗するようなら、38.5℃以上で服薬しても良いですよ」と話をする意味を分かって頂けるのではないだろうか。

(8月号に続く)

<資料>
1) 永島計編集:体温の「なぜ?」がわかる生理学~からだで感じる・考える・理解する~, 杏林書院, 2021.
2) 入來正躬著:体温生理学テキスト~わかりやすい体温のおはなし~, 文光堂, 2003.
3) Hirata K, Nagasaka T, Noda Y:Venous return from distal regions affects heat loss from the arms and legs during exercise-induced thermal loads : Eur J Appl Physiol Occup Physiol, 58: 865-872, 1989.
4) 平田耕造:解説「皮膚血流調節の温熱生理学」繊維製品消費科学, 36: 12–17. 1995. I. 皮膚血流調節の温熱生理学 (jst.go.jp)
5) 平田耕造:動静脈吻合(AVA)血流と四肢からの熱放散調節.日本生気象学会雑誌,53:3-12. 2016 https://doi.org/10.11227/seikisho.53.3
6) Joyner MJ, Dietz NM:Sympathetic vasodilation in human muscle. Acta Physiol Scand. Mar;177(3):329-36, 2003.
7) Joyner MJ, Halliwill JR.:Sympathetic vasodilatation in human limbs. J Physiol. Aug 1;526, 2000.
8) Kluger MJ. Ringler DH, Anver MR:Fever and survival. Science, 188:166-168, 1975.
9) Wu J, Bostrom P, Sparks L, et al.:Beige adiposcytes are a distinct type of thermogenic fat cell in mouse and human. Cell. 150;366-376, 2021.

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