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記事・コラム 2026.04.07

プロフェッショナルインタビュー

第5回「私にとっては宝石のような2カ月間でした。」兵庫医科大学病院 脳神経外科 吉村紳一教授

話題沸騰!数々の人気番組に出演している医師たちが語る
「キャリア」「信念」「未来」そのすべてに迫るインタビュー!

どのようにしてスキルを高め、逆境を乗り越えてきたのか?
日常の葛藤、医師としての信条、そして描く未来のビジョンとは――。

【出演番組一部抜粋】
フジテレビ系番組 ラストドクター に出演。
講義/映像教材:シリーズ 脳血管内治療STANDARD(全10回)に出演。
CareNeTVに出演。
雑誌 家庭画報「米倉涼子さんの『気になる医学』」という連載内で、先生が登場。

今回のゲストは、兵庫医科大学病院の「吉村 紳一」先生です!
テーマは 第5回 「私にとっては宝石のような2カ月間でした。」をお話しいただきます。

プロフィール

名前
吉村(よしむら) 紳一(しんいち)
病院名
兵庫医科大学病院
所属
脳神経外科
資格
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医
  • 日本脳卒中学会専門医・指導医
  • 日本脳卒中外科学会技術指導医
  • 日本脳神経外傷学会指導医など。
経歴
  • 1963年岐阜県岐阜市で生まれる。
  • 1989年岐阜大学を卒業後、岐阜大学脳神経外科学教室に入局する。
  • 1992年国立循環器病研究センター病院に勤務する。
  • 1995年岐阜大学大学院に入学する。
  • 1999年岐阜大学大学院を修了し、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院脳卒中研究室に留学する。
  • 2000年スイス・チューリヒ大学脳神経外科に臨床研修員として留学する。
  • 2004年岐阜大学大学院医学系研究科助教授・臨床教授に就任する。
  • 2014年兵庫医科大学脳神経外科主任教授に就任する。
  • 2014年兵庫医科大学脳卒中センター長を兼任する。

─ 若手の外科離れについてのご意見をお聞かせください。

私の印象では、学生時代に外科に興味を持ってくれる人は少なくないんです。でも、最終的に外科に決めきれずに、進路を変えてしまう人が多いと感じています。実際、外科志望だったのに別の科を選んだ人に理由を聞いてみたことがあるのですが、「外科は忙しいし、手術のリスクもある。それなのに給料が変わらないから、割に合わないと言われた」と言うんですね。おそらく、親御さんや先輩からのアドバイスだと思います。

たしかに今の日本では、リスクを冒して手術をしても、一部の病院を除いて個人の報酬にはなかなか結びつきません。一方で海外に目を向けると、外科医は狭き門をくぐり抜けたエリートで、多くの病院で高い報酬を得ています。彼らに言わせれば「手術をすれば病院に大きなお金が入るんだから、それが給料に反映されるのは当然」ということなんです。

その点、美容クリニックなどは最初からしっかり報酬として還元されるようですから、そちらに進む人が増えるのも、仕方のないことかもしれません。だからこそ、日本でも手術を担当した医師に正当な報酬を支払う病院が増えていくべきだと思いますし、同時に私たちが外科の素晴らしさを若手にしっかり伝えていくことが大切だと思っています。

─ どのように伝えていくべきでしょうか。

私は国循で研修したとき、脳内科を2カ月ほどローテートさせていただいたことがあります。毎日、同じ疾患を外科とは別の角度から見ることができて、本当に「目から鱗」というか、私にとって宝物のような研修でした。その時にある先生が、「外科は、なんといっても『手術』という最終手段を持っているのが強いよ」と言ってくださったんです。実際、私が手術をして元気になった患者さんやご家族から「命の恩人です」と言っていただけることは少なくありません。若手医師の中にも「人の命を救う医者になりたい」という熱い志を持っている人は、今も一定数いるはずです。

ですから、私はこれからも脳外科の素晴らしさをアピールしていきたいです。うちの科に見学に来る学生には、「外科離れの今こそ、ライバルが少ないチャンスだよ!」なんて言っています(笑)。今後は、適切な報酬を支払う病院に優秀な外科医が集まって、それが当たり前になれば、外科離れもなくなっていくはずです。「外科離れが流行ったあの頃に飛び込んでおいて、本当に正解だったね」という時代が来ると信じています(笑)。

─ 初期研修医へのご指導はどのようにしていらっしゃいますか。

私たちの頃は初期研修制度がなかったので、卒業したらすぐに入局していました。それに比べると、今は研修中にいろんな科を見てから決められるので、すごく良いですよね。初期研修医には、「人生は一度きり。自分のやりたいことにチャレンジしよう!」と勧めています。昔は一度入局すると科を変えにくい雰囲気がありましたが、今はそんなことありません(笑)。医師人生は長いですから、数年やってみて「自分には合わないな」と思えば、そこから変えたっていいんです。

そういえば最近、当科には男性よりも女子学生のほうが見学に多く来てくれるんですよ。これは本当にいい傾向ですね。女性にもぜひ、脳神経外科にチャレンジしてほしい。海外では女性の脳外科医がすごく多くて、国によっては過半数というところもあります。日本でも女子学生が増えているわけですから、女性も希望通りの分野に進んでほしいと思います。

ある学生さんが「出産などで一度リタイアすることを考えて、美容外科にしようか迷っている」と言っていましたが、脳外科だって数年間のブランクくらい全く問題ありません。その程度なら、努力ですぐに取り返せます。私たちも、それが当たり前にできるようなシステムを作っていかないといけませんね。

厳しい競争を勝ち抜いて医師になったんですから、「本当はこれをやってみたかった」という道に進みましょう。実は私も、若い頃は美容外科に興味を持って見学に行ったことがあるんですよ。でも結局、「人の命を救いたい」という思いが勝って脳外科に決めました。皆さんも初期研修でいろんな科を見て、魅力を感じるところに、ぜひチャレンジしてみてください。

─ 専攻医に関してはいかがですか。

後期研修からは、いよいよプロの世界に一歩踏み込むことになります。私のようにバックグラウンドがない地方大学出身者が振り返って思うのは、「逃げずに真正面から取り組むことが大切」ということです。大学病院は人が多いし競争も厳しそうだから、精神的に一番「怖い」場所に見えるでしょう(笑)。でも、大学病院こそが一番の「真正面」なんです。

プロになる以上、患者さんやご家族から選ばれる存在にならないといけません。今はネットやSNSで、誰でも簡単に経歴をチェックできる時代です。どこでどんなキャリアを積んできたかは、確実に見られます。だからこそ、その領域のど真ん中である大学病院や大きなセンターで、一度は勝負してみてはどうでしょうか。

プロフェッショナルとして生きていくのに、生ぬるい環境では難しい。私の若い時のように仕事場に泊まり込めとは言いませんが(笑)、一つのことに全集中する時期は必要です。野球でもテニスでも、大勢の中で頭一つ抜けるには、オフの日にも自主トレーニングをするような自分磨きが欠かせません。当科の若手とは個別に面談をして、「何がやりたいのか」を聞き、その道で伸びるために今何をすべきかを一緒に考えるようにしています。

留学生たちと

─ 脳神経外科の面白さや遣り甲斐はどういったところにありますか。

やはり、患者さんの命を救える「最終手段」を自分が持っている、ということですね。今でも手術が成功した時は、最高にやりがいを感じる瞬間の一つです。それに、脳は唯一無二の代えが利かない臓器です。他の臓器は移植できますが、脳だけは移植できません。もし移植したら、別の人になってしまいますから。しかも、脳の働きについては、まだ分かっていないことがたくさんあります。最も高機能なのに未知の部分が多いというのは、科学的にも非常に興味深いですよね。

脳外科の手術も年々進化していますが、まだまだゴールではありません。技術的にも2、3年でマスターできるような簡単なものではないので、10年以上積み上げてきた人が、若手に簡単に追い越されることもありません。経験を積めば積むほど、知識も技術も深まり、それを患者さんに還元できます。世界的にリスペクトされている分野ですし、本当にやりがいがあります。私は脳神経外科を選んで本当に良かったと思っていますし、生まれ変わってもまた脳外科医になりたいです。

─ 逆に脳神経外科の難しさはどこにありますか。

先ほどもお話しした通り、手術をマスターするのには時間がかかります。標準的な専門医レベルになるだけでも、4年はしっかり研修を積む必要があります。また、疾患そのものを深く理解することも、それ以上に重要です。私は若い頃から母校の医局で鍛えられ、国循や海外でもトレーニングを積めたので、本当に運が良かったと思っています。ですから、うちのスタッフには、若いうちからどんどん執刀のチャンスを与えますし、国内外への留学も積極的に勧めています。

脳外科の手術は「すごく難しい」と思われがちですが、決して特別な才能がないとできないものではありません。一定の修練をつめば、数年で必ずできるようになります。このため、当科では「バイパスクラブ」という会を定期的に開いています。オンラインで、みんなが顕微鏡下で血管モデルを縫合する動画を見せ合って、「いいね!」と褒め合ったり(笑)、修正すべき点を指摘し合ったりするんです。半年も続けると見違えるように上達します。そして一定のレベルに達した人には、実際に手術を担当してもらうようにしています。

─ そういったご指導をされているのですね。

もちろん、世の中にはトレーニングしなくても綺麗な手術ができる天才肌の人もいますが、私はそうではありませんでした。前回はさらっと紹介しましたが、実はチューリヒ大学ではじめて血管モデルを吻合したときは、手は震えるし、針の運びも良くなくて、指導者のフリック先生からは「こんな技術じゃ、ヒトの手術は無理だ」と言われました。ショックでしたが、毎日ラボに通い詰めて練習していたら、自分でも少しずつ上手くなっていくのが実感できたんです。そして、半年後には「指導を手伝え」と言ってもらえるようになりました。

これって、スポーツを習得する感覚に近いんですよ。テニスだって、最初はラケットを振っても空振りしたり変な方向に飛んだりしますよね。でも、毎日素振りをして一生懸命練習するうちに、だんだんまともに打てるようになって、そのうち体が勝手に動くようになる。手術の修練もまさにそんな感じでなんです。

脳外科の手術も、天才にしかできないことをやっているわけではありません。トレーニングさえ積めば、必ずできるようになります。ですから、良い師匠について、一定期間しっかり腰を据えて練習することが大切。目先のことにとらわれず、長い医師人生を考えて、自分磨きに時間とお金を投資するという考え方を持ってほしいなと思います。

─ これから脳神経外科はどのような進化をしていくと思われますか。

脳外科は幅が広い診療科です。診断から治療、リハビリまで担当しますし、対象も脳血管障害、脳腫瘍、脊椎・脊髄、さらにはパーキンソン病の震えやてんかんに対する機能神経外科手術も増えていて、それぞれが着実に進歩しています。高齢化がさらに進めば、より体に負担の少ない「低侵襲治療」が求められます。ですから、外科手術だけでなく、内視鏡やカテーテル治療もできるように、守備範囲を広げておくことが大切です。私はいつもスタッフに「二刀流、三刀流を目指せ!」と言っています。そうすれば、どんな患者さんが来ても対応できますし、仕事がなくなって困るなんてことはまずありません。

最近、「AI が導入されると診断の仕事は激減するが、難易度の高い手術は残る」という話を耳にしました。今年の入局にはすでにその影響が出ていて、外科志向が高まっていると聞きます。脳の手術は極めて細かく、組織もデリケート。ロボットがすべて単独でこなせるようになるのは、まだずっと先のことでしょう。そういう意味でも、脳神経外科は当面安泰だと確信しています。

─ 若手医師にメッセージをお願いします。

このインタビューを読んでいるのは、初期研修医の方が多いと聞いていますが、皆さんは本当に良い選択をされたと思います。医師ほど、人に直接感謝される職業はなかなかありませんから。ただ、医師を続ける以上、生涯勉強が欠かせません。そして、一度きりの人生ですから、自分が本当にやりたいことに挑戦してください。私自身もそうでしたが、やりたいことを仕事にしていると、医師人生は本当に楽しく、充実したものになります。もし、最初に選んだ道が合わないと感じたら、新しい道にチャレンジすればいいんです。私の仲間にも、専門を変えてハッピーになった人はたくさんいます。皆さんの挑戦を、私も心から応援したいと思います。

兵庫医科大学 現在のメンバーたちと