講師 神津 仁
神津内科クリニック
1950年:長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年:日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)、第一内科入局後
1980年:神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年:米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年:特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年:神津内科クリニック開業。
目次
トリビア(trivia)とは、Wikipediaを引くと「一説に、ラテン語で『三叉路』3(tres)+ 道(via)を意味する言葉で、古代ローマの都市において三叉路が多かったことから、『どこにでもある場所』『ありふれた場所』を指すようになり、さらに転じて、くだらないこと、瑣末なことを意味するようになったという。また、中世の教養科目(リベラル・アーツ)のうち基本となる3つ(文法・修辞学・弁証法)のことをtrivium(三学、複数形でtrivia)と呼んだため、そこから『初歩的でつまらない』という意味が生じたともいう」とある。私がここで使っているのは「雑学的な事柄や知識、豆知識」という意味だが、ありふれたものが、実はとても興味深いものであったりする。
陳皮
今私の中でブームなのが陳皮だ。神経質な患者さんの不定愁訴によく抑肝散加陳皮半夏を処方しているが、最近は漢方薬が世界的な社会情勢の変化に伴って品薄状態になった。特に、感染症関連の漢方薬は軒並み遅配、欠品で調剤薬局でも薬が処方通りに出せなくなった。ちなみに、こちらも良く使う六君子湯や香蘇散にも含まれている。
きっかけは忘れてしまったが、漢方薬はもともと自然にある草木の葉や実、根を薬にしているのだから、自分で作れるものがないかと考えていた。以前から、温州みかんの皮を乾燥させて粉末にしたものが陳皮として使われていることは知っていた。ネットで色々と調べてみると多くの薬効があり、しかもアンチエイジング、美肌効果から始まって、血流改善、冷えによく、脱毛予防、精神安定化作用などがあり、肝臓にも胃腸にも良くて、せき痰を抑え、むくみを改善するとなれば、この冬に是非作ってみようと思わずにいられなかった。
意外と簡単に
まずは食べた後の温州みかんの皮のヘタを取って水洗いし、激落ちくんを使って汚れとワックスを取り除いたら、ネットに入れて天日に晒す。最初は手探りだったので、ニンニクの入っていたネットにそのまま入れて干していたが、丸めた皮にカビが生えてしまった。全体が均等に乾燥するにはどうすれば良いかと考えて、魚の干物を作る網を購入した。
洗ったばかりの皮を下の段に、日を追うごとに上の段に移動させて、一番上の段で1週間乾燥させた。日中は外に、日が陰ったら室内に入れて大事に干した。朝起きて、暖房をつけて、シャワーを浴びて、と診療するまでにいろいろなルーチン作業があるのだが、その中に「陳皮を干す」という作業が加わった。午後の診療が4時からなので、診療の始まる前にこのネットを取り入れて室内の所定のフックにかける、という作業もある。自宅開業はメリットもデメリットもあるが、今回のこの陳皮生産作業は勤務医ではできない。
乾燥が終わったらミキサーで粉末にする。この粉末の色がとても綺麗で驚いた。外の皮だけでなく、内側の白い繊維を一緒にするからだろうが、ガラスの器に移すと「映え」がすごい。もちろん、香りもとても良い。おそらく使ったミカンがブランドもので美味しいものだったからだろう。陳皮茶にしても大変香りが高く美味しいものに仕上がった。これを独り占めにするのはもったいないので、小さな試験管に入れてスタッフに分けてあげた。もちろん大喜びだった。
陳皮の薬効
陳皮茶はもちろんだが、陳皮パウダーをサラダに使ったり、オムレツを作る際にペッコリーノ・ロマーノの摺り下ろしと一緒に使ってみたが、どれも食材を邪魔しないで味を深める良い働きをする。医食同源の考え方からすれば、生姜やシナモンに匹敵するgood playerだ。
ネット上に多くの情報が載っているが、陳皮に関しては「わかさ生活」という会社が運営する健康情報サイトが詳しい。巻末の資料をクリックして頂ければと思うが、以下抜粋させて頂く。
陳皮に含まれる成分と働き
陳皮には、香り成分であるリモネンが含まれています。リモネンとは、柑橘類の果皮に多く含まれる成分で、甘酸っぱく爽やかな香りを持ちます。リモネンにはリラックス効果があるとされています。またそれ以外にも、体内で交感神経を刺激し、脂肪を燃えやすくする効果も期待されています。リモネンは油汚れを落とす洗剤にも利用されています。また発泡スチロールを溶かす性質を持つことから、発泡スチロールの接着剤などとしても利用されています。リモネンは柑橘類に含まれる精油に含まれる成分の大部分を占めており、リモネンを含む精油はアロマテラピーとしても利用されています。また、陳皮にはテルピネンという香り成分も含まれています。テルピネンとは、精油に含まれる成分で副交感神経強壮作用や鎮痛作用、鎮静作用、抗炎症作用を持ちます。樹脂のような香りを持ち、テルピネンを含む精油はリモネンと同様、アロマテラピーにも利用されています。陳皮には、ポリフェノールの一種ヘスペリジンも含まれます。ヘスペリジンとは、みかんなどの皮やスジに多く含まれる成分で、毛細血管を強くし、血流を改善する効果があります。このように陳皮は多くの有効成分を含み、血流改善をはじめとする様々な効果を発揮します。
血流を改善し体を温める効果
陳皮には、血流を改善する効果があります。血流は毛細血管などが縮むことで悪くなり、末梢まで血液が運ばれなくなることで冷えが生じます。血液は酸素や栄養だけでなく、温度を運ぶ役割も担っているためです。陳皮はリモネンやヘスペリジンが含まれているため、毛細血管を広げ、血液が流れやすいよう働きかけ、温度を末梢血管まで運ぶため、体を温める効果があるといえます。
美肌効果
陳皮は、紫外線によって皮膚コラーゲンが分解されることを抑制する働きが知られています。あわせて、陳皮に含まれるヘスペリジンにはコラーゲン合成促進効果も報告されており、肌の健康を保つ効果が期待されています。
生活習慣病の予防・改善効果
陳皮には、コレステロール合成酵素の働きを抑制することが報告されており、高コレステロール血症の予防に役立ちます。また糖尿病の予防効果も報告されており、生活習慣病予防効果があると期待されています。
肝機能を高める効果
陳皮にはC型肝炎の感染を予防する働きが報告されており、肝臓保護効果を持つと考えられています。
アレルギー症状を緩和する効果
陳皮には抗炎症作用があり、花粉症をはじめとする種々のアレルギー症状に対する予防効果を持つことが報告されています。
リラックス効果
陳皮に含まれるリモネンなどの香り成分はリラックス効果を持ちます。香りは大脳に直接働きかけるため、脳をすっきりさせ、ストレスをやわらげるなどのリラックス効果をもたらします。
胃腸の機能を高める効果
陳皮には、胃腸の調子を整え、食欲不振や吐き気、消化不良などを鎮めてくれる働きがあります。胃酸過多や下痢の症状にも良いとされ、医薬品の成分としても使われています。
せきや痰(たん)を抑制する効果
陳皮はせきを鎮め、痰を抑える効果があります。そのため、せきや痰などを抑える漢方薬として古くより利用されてきました。また、陳皮にはビタミンCも含まれていることから、体の免疫力を高め、風邪などの予防にも効果があると考えられています。
むくみを予防・改善する効果
毛細血管は体の組織に栄養や酸素を運ぶ役割を持つため、適度に透過性が保たれている必要があります。毛細血管の透過性は、悪すぎても良すぎても体にとっては悪く、適度に保つことが必要です。透過性が良くなりすぎるとむくみや高血圧症などの症状を引き起こします。陳皮など柑橘類の皮に多く含まれるヘスペリジンは、この透過性の亢進を抑え、毛細血管を強くする働きがあるため、むくみを予防・改善する効果があるといえます。
陳皮の粉末を薬用とする場合は、ぬるま湯で溶かして1日数回服用すると良い、とある。1回量は約1グラム~2グラムで、牛乳、野菜ジュース、スープなどに混ぜて服用しても良いようだ。
膀胱炎
83歳のAさんは、高血圧の治療を受けに毎月来院する毛糸のセータを編むのが得意な女性だ。縁側で日向ぼっこをしながら編み棒をリズミカルに動かしていると、無我の境地になって辛い腰痛も忘れます、と言っていた。
Aさん「先日膀胱炎になって泌尿器科に行ってきたんですが、ここのところ毎月調子が悪いんです。冷たい所に座っているからでしょうかね」
Dr.K 「それではお小水を調べてみましょう」
Dr.K 「検査では、尿はきれいですね。以前から漢方薬を飲まれているようですが、漢方薬で膀胱炎に似た症状が出ることがありますから、一時中止してみましょう」。
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Aさん「止めてみましたが、変わりないです。ここのところなんとなく毎日下腹がすっきりしなくて気持ちよくないです」
Dr.K 「それでは漢方薬を変えてみましょう」。
以前からワイパックス(0.5mg)を寝る前に処方していたが、これを朝と寝る前に変更し、清心連子飲を加えて服用するようになってから、「下腹の違和感はもうなくなりました。良かったです」と笑顔で生活が出来るようになった。
ある調査によれば、女性の7人に1人が少なくとも年に1回は膀胱炎に苦しんでおり、これらの女性の約3分の1は、最初の感染から6〜12か月後に再度尿路感染症に罹患するという。尿路感染症は、過去6か月以内に2つの症候性エピソードが発生した場合、または過去12か月以内に3つのエピソードが発生した場合「再発性」と分類される。
D-Mannose
ちょうどAさんのことで何か良いアドバイスが出来ないかと悩んでいた時でもあり、私がいつも医療情報を得るために読んでいるMedscapeの2022年10月31日号に、アンドレア・ヘルトラインが書いていた” Recurrent Urinary Tract Infections: What’s Good Prophylaxis?( 再発性尿路感染症:良い予防法は何ですか?)”という記事に目が留まった。
在宅医療をしていて、膀胱バルーンカテーテルを留置していると、慢性尿路感染症を生じる。最初の留置から1~2週間を過ぎれば汚染が始まり、そのうちにカテーテルには目に見えて汚物が付着してくる。このためにカテーテルの交換をしなければならないのだが、出来ればもう少し期間を延ばしたい。家族にも無菌的処置の仕方を教えるのだが、なかなか難しい。Agに抗菌力があることから、これを使ったカテーテルが発売された時には、これは切り札になるだろうだと思って使ってみたが、一般的なカテーテルとそう大きな違いはなかった。それでは、と欧米で民間療法として使われているクランベリージュースを試してみたが、これも目に見えた効果は出なかった。結局間欠的なニューキノロン投与に頼らざるを得なかった経験がある。
ところが、アンドレア・ヘルトラインが紹介している、ドイツのギーセン大学泌尿器科ダニエル・クルスマンとフロリアン・ワーゲンレーナーが”DMW(ドイツ医学週報)-Klinischer Fortschritt”に、「(D-マンノースは大腸菌の螕糸を阻害し、細菌が膀胱上皮に結合する能力を阻害することから)著者らは、コップ一杯の水に溶かした2 gのD-マンノースを毎日摂取した後、プラセボの摂取と比較して尿路感染症の割合が大幅に低下したという研究を引用しています」という、耳目に新しい情報が載っていたのに、私の脳のFlagがピンと立った。
(3月号に続く)
<資料>
- わかさの秘密「陳皮」:https://bit.ly/3kE4qzJ
- やなぎ堂薬局「陳皮」:https://bit.ly/3Ha5naG
- Andrea Hertlein “Recurrent Urinary Tract Infections: What’s Good Prophylaxis?”:https://wb.md/3DdN2YT
- Amazon「D-Mannose」:https://amzn.to/3XWsTP7