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記事・コラム 2026.04.05

中国よもやま話

【第65回】右にすべきか左にすべきか~それが問題だ

講師 千原 靖弘

内藤証券投資調査部

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい

日本車は米国でよく売れるが、米国車は日本で売れない。米国は2024年の新車販売台数が前年比2.7%増の1604万台に上り、うち日本6社は6.2%増の計588万台で、合計シェアは36.7%だった。一方、日本は24年の新車登録台数が5.6%減の286万台。うち輸入車は3.0%増の32万台で、合計シェアは11.2%だった。


日米両国で外国車のシェアに大差があるのは、現地生産の有無。日本に外国自動車メーカーの工場はない。ただ、それを考慮しても、米国車はあまりにも人気がない。日本で売れている輸入車は、欧州車が中心。米国車では「ジープ」が健闘しているが、そのブランドは欧州が本拠の多国籍企業ステランティスが保有しており、その影響かも知れない。

第二次トランプ政権は、自動車をめぐる日本の非関税障壁を問題視している。これに日本の世論は批判的。日本でも都市部を中心に欧州車が好調なことを例に挙げ、「アメ車が売れないのは、右ハンドル車を作らない米国企業の努力不足が原因」と指摘する。


赤は右側通行、青は左側通行

確かに、日本の輸入車を見ると、欧州車は日本に合わせた右ハンドルが中心。米国車は左ハンドルばかりで、日本で健闘しているジープやテスラは数少ない例外だ。この事実を見れば、努力不足を批判されても仕方ない。

ハンドルの位置の違いは、車の通行規則に由来する。日本は左側通行で右ハンドル、米国は右側通行で左ハンドル。世界では右側通行の国と地域が165に上り、左側通行は75にすぎない。


オレンジ色は、昔は左側通行だったが、いまは右側通行
紫色は、昔は右側通行だったが、いまは左側通行
緑色は、昔は地域ごとに違いがあったが、右側通行に統一

通行規則の起源については諸説ある。左側通行は「剣の右手持ち」「左腰の帯剣」など剣にまつわる説が有名。右側通行では「左側からの乗馬」「御者の左座席」など馬に関連する説のほか、「銃の構え方」に由来する考察もある。ただ、どの説も確証はない。


北京の道路は右側通行

通行規則は不変ではなく、歴史的には左側通行から右側通行に移行した地域が多い。戦前の中国は二つの通行規則が混在し、英国や日本の租界、それに台湾、満州国などは左側通行だった。中国が右側通行に統一したのは1946年だが、香港とマカオは左側通行のまま今に至る。その結果、中国本土と台湾は左ハンドルだが、香港とマカオは右ハンドルだ。


香港の道路は左側通行

ところで、方向指示器のレバー位置は、なぜかハンドルほど話題に上らない。日本では国産車が方向指示器を右側に配置するのに対し、輸入車は右ハンドルでも左側が一般的。これは国産車が日本規格(JIS)を優先し、輸入車が国際規格(ISO)を重視しているからであり、右ハンドルの英国でも方向指示器は左側だ。なお、日本で苦戦する中国のBYDや韓国のヒュンダイは、方向指示器を右側に配置している。一方、テスラは左右のレバーそのものをなくし、ハンドルボタンの方向指示器を採用。レバーを無駄な存在と考えたのかも知れないが、操作が難しく評判が悪い。

イーロン・マスク氏は無駄とみなした政府支出も削減したが、前例のない改革は見通しを悪くする。左右の位置と視界不良の問題は、車でも政治でも、事故の危険をはらんでいる。