記事・コラム 2023.02.05

中国よもやま話

【第1回】イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

講師 千原 靖弘

内藤証券投資調査部

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい

1493年出版「ニュルンベルク年代記」に描かれた世界
左側に怪物たちの姿が描かれている

マルコ・ポーロの『東方見聞録』は、欧州人の東洋に対する見方を変えた。

“東洋は怪物や化け物が住む世界”

当時の欧州人は、こうしたキリスト教的世界観を信じ切っていた。だが、『東方見聞録』が伝えた東洋の情報は、従来からの世界観とまるで違った。

“世界で最も豪華で裕福な大都市”

これは南宋の帝都だった臨安に関する記述。現在の浙江省杭州市のことだ。その当時の中国は、まぎれもなく欧州より豊かだった。

マルコ・ポーロが語る東洋の富と豊かさに、当時の欧州人は耳を疑い、にわかには信じなかった。キリスト教的世界観の方が、権威があったからだ。それゆえ一説によると、マルコ・ポーロはホラ吹き呼ばわりされたという。

その一方で、新大陸を発見したクリストファー・コロンブスのように、マルコ・ポーロからの情報に魅了された人々もいた。勇敢な彼らは怪物を恐れず、東洋を目指して大航海時代を切り開き、莫大な富を欧州にもたらした。

世界各地の情報が瞬時に広がる現代社会。“怪物や化け物が住む世界”は、いまも人々の心に存在する。現在の中国がまさにそれだ。

上海市浦東新区の金融街から望む夕焼け

中国の人口は14億人。それは全人類の2割を占め、19世紀後半の世界人口に匹敵する。経済規模は世界2位であり、2030年代にも米国を抜く勢い。無視できない大国だ。

しかし、この国をめぐる情報は、いまだに正確とは限らない。まるで中世欧州のように。

“中国崩壊論”がその一例だ。かれこれ十数年にわたって広まり、その信奉者はなお多い。だが、現実を見れば、中国の発展は加速し、崩壊論の方が崩れつつある。

崩壊論の“予言”と違い、いまやIT(情報技術)や5G(第五世代移動通信)などの最先端分野で、中国が世界をリード。中国は国際特許の出願件数で、2019年に米国を抜き、世界一となった。これが現実だ。

日本の家電量販店で”爆買い”する中国人旅行者

これが中国への投資の第一歩だ。それは今も昔も変わらない。中国への投資は、もちろん失敗もあろうが、成功すれば、大きな成果を得る可能性もある。

中国の強大化を恐れる人々は、その脅威を煽ることに躍起だ。“怪物や化け物が住む世界”のように、中国は恐ろしいというイメージを広めようとしている。

“イメージに翻弄されない”

これが中国への投資の第一歩だ。それは今も昔も変わらない。中国への投資は、もちろん失敗もあろうが、成功すれば、大きな成果を得る可能性もある。

一例を挙げよう。中国のIT大手テンセントは、2004年6月16日に上場した。中国崩壊論が盛んだった時期だ。その公募価格は3.7香港ドルで、上場日の終値は4.15香港ドルだった。

一方、今年1月20日の終値は391.8香港ドルであり、2014年の5分割を考慮すると、上場日の終値に比べて472倍に膨らんだことになる。さらに支払われた配当金や現物配当株式を加味すると、614倍だ。

外国株投資では円相場も損益を左右する。為替変動を加味すると、テンセントの今年1月20日の終値は、上場終値に比べて556倍。さらに配当を加えると、724倍に達する。

2021年2月18日に記録したテンセントの史上最高値に比べると、今年1月20日の終値は45%安(配当権利落ち調整済み)。この約1年で株価がこれほど下落したのだが、それでも上場日の終値で買っていれば、上記のような利益を手に入れることができた。

恐いイメージを乗り越えると、こうした成功例もあったりする。それが中国株投資の魅力の一つなのかも知れない。