会員登録者数 55,000人突破!!

石巻赤十字病院は初期研修医のマッチングにあたり、ユニークな選考をされてきたのですね。

金田:体育会系の人が多いんだけど、たまに間違って優秀な人が来たりするので、何でかなと思っていたら、男なり女なりがくっついてきたりする(笑)。

石井:カップルですか。

金田:要するに、片方が面白い人だから採用を決めたら、その片方は面白くなくて優秀だったりするんだ。鮎の友釣りのようだ(笑)。

石井:酷い(笑)。でも、それぞれに合否を出すわけでしょう。

金田:こちらはその2人がカップルとは知らないから、それぞれに合否を出す。面接のときに「あの人と付き合っています」とは言わないからね。だから、こちらは騙されているだけだ。カップルだと分かっていたら、どちらかを不合格にしたかもしれない(笑)。

石井:こういうお考えの先生だから、初期研修医に「研修後は東北大学に帰れ」とは言わないわけですよね。僕の立場からすれば困ったなというところです。

金田:東北大学に帰るなとは言っていない。

石橋:私も言っていません。

金田:でも東北大学出身者だから、東北大学に帰らないといけない理由はないんだよ。自分のこれからのキャリアというものをどういうふうな位置づけにするのかを考えて選びなさいと言っている。そうすると、東北大学に戻らない人間も結構出るのだが、それは仕方がないと思う。東北大学の教授たちには東北大学に戻るように宣伝してくれと言われるが、それはおかしい。魅力のある大学であれば、嫌でも戻るわけだよね。

石井:おっしゃる通りです。

金田:マーケティングに4Pって、あるだろう。Product、Price、Place、Promotionだけれど、東北大学はPromotionだけを推し進めているように見える。それだけだと無理があるよ。

石井:お言葉を返すようですが、東北大学はいいところだと思いますよ。

金田:女性は追いかけると逃げるんだよ(笑)。追いかけさせるのがコツなんだ。

石井:分かりました。

石巻赤十字病院の採用の仕方は今も変わっていないのですか。

石橋:今も以前と全く同じコンセプトでやっています。面白いというと語弊がありますが、興味が湧いてくる人を採用したり、色々な大学の出身者を混ぜるようにしています。この「混ぜる」というのが当院の文化になっています。

石井:「混ぜる」という意味では宮下琳太郎くんもそうだよね。ヴァイオリンで桐朋学園大学を出たあとで、東北大学に入学し、石巻赤十字病院で初期研修をしている。

石橋:そうですね。ただ、最近は東北大学と東北医科薬科大学の出身者が多くなってきました。言い訳をしますと、コロナ禍で遠方の学生説明会への参加を取りやめたからなんです。そうすると東北大学と東北医科薬科大学の出身者が増えてきて、個人的には面白みに欠けてきたと感じていますので、また外に出かけていこうかと思っています。

金田:よその血を入れる文化があれば、研修病院としての骨格が揺るがず、ずっと続きそうな気がする。そこで東北大学の関連研修施設になってしまうと、そこから脱却するのが難しくなると思う。

石井:いえ、僕がお願いしているのは初期研修後のことです。石巻赤十字病院が全国から初期研修医を採用するのは一向に構わないのですが、初期研修後は多くの方に東北大学に来てほしいと思っています。これは僕ら大学側の責任かもしれませんが。

金田:それはあくまでも。

石井:そう。僕ら側の問題です。

金田:コントロールプリンシプルといって、変えられるのは自分たちなんだ。大学を変えるしかない。

石井:だから誤解のないように申し上げておくと、「東北大学に帰るな」と言わないでほしいんです。

金田:「帰るな」なんて言っていないよ。

石井:本当ですか。

金田:言っているというデマゴギーが流れているようだ。

石井:流れていますよ。

金田:言ったことがない。そう言えば、横浜市立大学の麻酔科はものすごく人気があるんですよ。なぜ人気があるのかなと思ったら、最初に医局員の自由度をとにかく上げ、縛らないようにしたらしい。例えば、留学後にお礼奉公に出すということは絶対にせず、自由にさせる。自由度を上げて心地よい場所を作ると、人は集まるんだよ。そこに関わることが大切。俺はお先に失したけれど、あなた方はまだ大丈夫。これから東北大学を魅力ある病院に変えていくべきだ。

石井:東北大学は今も十分に魅力があると思いますが。

石橋:私も帰れ、帰るな、入れ、入るなとは言っておらず、「自分で選択して」と言っているだけなのですが、それでも東北大学に行く人は増えていますよ。それは当院の指導者の熱意もあるし、色々な相乗効果なのだと思います。

石井:もちろん強制はできないしね。

金田:行けと言うと行く人は減る。

石井:行くなと言わないでほしいだけなんです。

金田:俺は行くななんて言っていない。

石井:そうですか。安心しました。

金田:俺は東北大学を毛嫌いしているわけじゃない。

石井:先生、昔は毛嫌いしているように見えましたよ(笑)。

金田:仕方のないことかもしれないけど、教授を論文の業績で選んでいるからかな。多様性のない組織に見えた。昔、立花隆が「東大文Iは教養がない」と言っていた。文Iは頭はいいし、法学部に行くわけだからある程度は優秀なのだろうが、立花隆が言う要素があるなと思う。これは東大文Iとか東北大学の医学部に限らないことかもしれないが。

石井:先生にかかると、全てそうなりますよ。

金田:物理学科の教授だと物理以外の教養もありそうな気がする。ほかの学科の教授とあまり話をしたことがないので、俺も狭すぎるんだけど。

石井:昔、金田先生に「先生は世界で一番、頭がいいと思っているんですか」と聞いたら、先生は「そうだ。俺は世界で一番、頭がいい」と言っていましたよ(笑)。

金田:そんなこと、言うわけないだろう(笑)。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

金田先生は理系でいらっしゃるのに、ビスマルクの話とか、文系の教養もあるお話がよく出てきますよね。

金田:文学や哲学など、単に色々な本を読むことが好きなんです。テレビなどを見ないから、暇な時間は本を読んでいる。

石井:ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を週に2回ぐらいおっしゃっていました。

金田:それは教条主義で、利口な人間の態度ではないね。もう少し別のフレーズを考えて、多様性を持たせないといけなかった。その態度はちょっとまずいので、反省します。読書がもともと好きだから、色々と読んできたけれど、あまり役に立っていない。名言をひけらかすのは自分の底の浅さを露呈するようだ。

以前の連載では名言シリーズもありました。「始まれば終わる」ですとか、「とりあえず診ましょう」ですとか。

石井:あの名言シリーズは東北大学第二外科の教えで、その中には金田先生からの教えも入っています。「賢者は歴史に学ぶ」は思いつきで診るのではなく、データを取れということで、金田先生から薫陶を受けた教えです。

金田:そんなことを言ったのか。覚えていないな。

石井:「根拠のある物言いをしろ」とよく言われていました。

金田:エビデンスが大事だということだね。私もそうだったが、研修医時代に教わったことは正しいと思ってしまって、そのやり方を続ける。でも勉強するうちに色々なことが違ってきたりもするのだが、それを変えようとしたときに自らの経験だけで物事を判断するのはまずいね。例えば、僕が医師になった頃は手術後に消毒するのは当たり前だとされていたが、30年ぐらい前に消毒は良くないという考え方が出てきた。そんなことがあるのかを勉強してみると、きちんと書いてある。僕は文献などを読むとすぐに染まるほうなので、それを弟子たちにもやらせようとするのだが、それでも消毒する人がいる。総回診が終わったあとに隠れて消毒している姿を見つけたこともある。やっぱり習慣はなかなか変えられないんですよね。

石井:今は大学病院も多分、消毒していないですよ。

金田:驚いたのはイソジンという消毒薬に全く効果がないという話が20数年前に出て、それで実験してみたら、その通りになったことだ。それまで手術場の手洗いにはイソジンでやっていたのだが、それでイソジンを禁止にしたら、やっぱり隠れてイソジンで消毒していた人がいた(笑)。エビデンスとして論文を見せても、自らの経験や習慣を変えるのは難しいね。でも、できるだけエビデンスを積み上げて勉強していくことがいくつになっても大切なんだろうと思う。何だか僕ばかり話したね。

石井:いいんですよ。金田先生のお話を聞く会ですから(笑)。

石井 正教授

東北大学病院 総合地域医療教育支援部

1963年に東京都世田谷区で生まれる。1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。

日本外科学会認定登録医、日本消化器外科学会認定登録医・消化器外科指導医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・指導医、社会医学系専門医・指導医など。

金田 巌名誉院長

石巻赤十字病院

1947年に山形県西置賜郡白鷹町で生まれる。1972年に東北大学を卒業後、研修医を経て、東北大学第二外科に入局する。1983年石巻赤十字病院に外科部長として着任する。2012年に石巻赤十字病院院長に就任する。2018年3月に石巻赤十字病院院長を退任する。現在は石巻赤十字病院で非常勤医師を務めている。

石橋 悟院長

石巻赤十字病院

1967年に青森県八戸市で生まれる。1991年に旭川医科大学を卒業後、古川市立病院(現 大崎市民病院)で研修を行う。1994年に東北大学第二外科に入局する。2001年に石巻赤十字病院小児外科に部長として着任する。2006年に石巻赤十字病院医療技術部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院救急部長兼医療技術部長に就任する。2011年に石巻赤十字病院救命救急センター長兼医療技術部長に就任する。2014年に石巻赤十字病院副院長兼救命救急センター長兼医療技術部長に就任する。2018年に石巻赤十字病院院長に就任する。

臨床研修協議会臨床研修プログラム責任者、臨床研修指導医、宮城県難病指定医、宮城県小児慢性特定疾病指定医、宮城県身体障害者福祉法第15条第1項指定医師など。