医療ニュース 2025.01.29

赤ちゃん「泣いてもよかよ!」…パパママ応援の気持ち、可視化で温かな社会に

 電車やバス、飲食店などで赤ちゃんが泣き出した際、周囲の人が、受け入れる気持ちを表そうというプロジェクトが広がっている。福岡県筑後市出身のエッセイスト紫原明子さん(42)(東京在住)が発案した取り組みで、「泣いてもいいよ」とのメッセージを記載したグッズの製作・配布に取り組む自治体は全国30自治体となった。紫原さんは「温かな気持ちが広がってほしい」と願っている。(南佳子)

社会全体で応援

 「WE (ラブ) 赤ちゃん」「泣いてもよかよ!」

 JR筑後船小屋駅(筑後市)では、こうしたポスターを在来線と新幹線の待合室に貼り、駅員が制服に缶バッジを付けて周知を図っている。

 「WE♡赤ちゃんプロジェクト」と名付けた取り組みの一環だ。ほほえむ赤ちゃんの絵とともにメッセージを記載したステッカーや缶バッジを製作するなどし、まちなかに掲示したり、身に着けてもらったりする。泣きやまない赤ちゃんに慌てるパパやママを、社会全体で応援する狙いがある。

 プロジェクトに賛同した同市は昨秋から、筑後弁版のステッカーや缶バッジ、チラシなどを1000個・枚ずつ作り、市役所などで配布。同駅のほか、JR羽犬塚駅や商業施設でもポスターの掲示などでアピールしている。2歳児と0歳児を育てる同市の会社員女性(34)は「周りに迷惑をかけるかもしれないと、電車移動を避けることがあった。受け入れる気持ちを示してくれるのは心強い」と話す。

 市こども家庭サポートセンターの担当者は「小さな思いやりを積み重ねる一歩。子育て世帯の外出時の負担の大きさに理解が進んでほしい」と期待する。

言葉に救われる

 紫原さんがプロジェクトを思い立ったのは自身の育児中の経験がきっかけだった。長男(22)と長女(19)が幼かった頃、家族で外食中に泣き出し、居合わせた人に「帰ってくれ」と言われ、悔しさが募った。カフェで乳児が泣き出し、申し訳なさそうに退店する母親を見たこともある。声を掛けたかったが勇気が出なかった。

 こうした経験から、「話しかけなくても、泣き声を不快に思っていないと伝えられないか」とプロジェクトを考案。仕事で関わりのあった母親ら向けのウェブサイトを運営する企業エキサイト(東京)に提案し、2016年に始動した。

 プロジェクトを紹介するウェブサイトでは、「賛同する♡」ボタンを設けて賛同者を募っている。これまでに9万人を超えており、「言葉に救われる」「赤ちゃんはいっぱい泣いて笑って元気に育ってね」といった優しいメッセージも寄せられている。

各地の方言で

 「泣いてもいっちゃが!」(宮崎県)「泣いでもさすけね!」(福島県)など、各地の方言で呼びかけるのもポイントとなっている。

 京都府では「泣いてもかましまへん!」と掲げた大型広告が商店街に登場し、京都市内にはラッピングバスが走る。山口県は「泣いてもええっちゃ!」のグッズを製作し、協力する店舗を通じて配布した。

 紫原さんは「泣き声を受け入れる気持ちの可視化が進めば、肯定的に見守る温かな社会になるのではないか」と期待する。

 子育て支援に詳しい立正大の岡本依子教授(発達心理学)は「子どもは地域で育てるものだと認識できる仕組み。育児初心者の父母にとっても地域とのつながりを実感でき、安心して親としての成長を重ねられる」と評価している。

「外出時に苦労」85%

 子育て世代が、外出時に周囲の目を気にして負担に感じていることを示す調査がある。乳幼児用品メーカーのピジョン(東京)が昨夏、3歳以下の子を育てる父母1000人に調査したところ、育児中の外出について85・4%が不便さや苦労を感じると回答。「飲食店や公共の場で赤ちゃんがじっとできない」(41・4%)、「ぐずる・泣きやまない」(39・9%)といった回答が多かった。

 また、うれしいと感じる周囲の手助けが「よくあった」とした人が16・2%にとどまるなど、更なる理解が求められる回答が目立った。