医療ニュース 2024.11.25

日本初のデフリンピックまで1年、選手ら受け入れへバリアフリー化急ぐ…「理解進むきっかけ」期待

 聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」の日本初開催まで1年を切った。多くの競技会場を抱える東京都内には期間中、世界70~80の国・地域から耳が不自由な選手たちが多く集まる。都内の宿泊施設や競技施設では、聴覚障害に対応したバリアフリー化が進むが、手話通訳者の育成など課題も残る。(上田惇史)

来客の知らせ、照明の点滅で

 東京港に臨むホテル「グランドニッコー東京台場」(港区)の客室。インターホンが鳴ると室内と風呂場の照明が点滅を繰り返し、液晶モニターに廊下に立つ来訪者の姿が映った。広報担当の川島由美子マネジャーは「耳が聞こえなくても来客がわかるよう、光で知らせます」と説明した。

 同ホテルは昨年夏、聴覚障害者の利便性向上のため、全882客室のうち、10客室にこの点滅機能を設けた。電動で角度を調節できるベッドといすを備えるなど、宿泊客の様々な障害に対応している。

 同ホテルは、大会運営組織から外国人選手の受け入れを要請され、しゃべると言葉が表示される自動翻訳機器の導入や、従業員への手話研修を予定している。川島マネジャーは「課題は多いが、利用者のニーズに応えるのがホテルの役割。様々な想定をしながら、準備を進めたい」と話す。

高齢者の利便性向上にも

 大会の準備・運営に携わる東京都は2021年の東京パラリンピックに続き、デフリンピックを都内のバリアフリー化を進めるきっかけにしようとしている。

 今年度は、競技会場となる駒沢オリンピック公園など都有6施設で「光警報装置」の設置に着手。災害が起きると白色の光の点滅で知らせる仕組みで、来年夏までにトイレや更衣室などの天井計661か所に専用のライトを付ける。

 音声を文字に変換して目の前のディスプレーに表示する機器も、スポーツ施設や図書館など約40か所に配備した。健常者の話した内容が言語で表示され、聴覚障害者は端末で文字を打ち込み、意思疎通する。駅にも設置を進める予定で、都国際スポーツ事業部の萬屋亮・担当課長は、「聴覚障害者だけでなく、耳の遠い高齢者の利便性向上にもつながる」と話す。

少ない手話通訳者

 デフリンピックには五輪のように選手・関係者が滞在する選手村がない。来年11月の東京大会では全17の競技会場のうち、15会場が都内にあり、選手約3000人の大半は都内の宿泊施設に滞在することになる。聴覚障害のある観戦客が国内外から訪れることも予想される。

 民間施設ではそれに対応できるだけのバリアフリー化が進んでいないのが実情だ。

 都は17年度から、バリアフリー化に取り組む民間の宿泊施設に対し、改修費や備品購入費を補助しているが、聴覚障害者向けは計16件にとどまり、ここ3年間は0件だ。都内約750の宿泊事業者が加盟する都ホテル旅館生活衛生同業組合の担当者は、「外国人観光客の増加で人手不足が慢性化し、ほかのことにまで手が回らない」と話す。

 手話通訳者の確保も難題だ。手話は各国・地域で異なるため、海外の選手と意思疎通するには、共通語として「国際手話」が用いられる。使用できる人材は国内に少なく、都は昨年度から講習会受講料の補助を始め、同年度は延べ331人を支援した。担当者は「普及につなげ、大会本番でも活躍してもらいたい」とする。

低い認知度、選手意気込み

 デフリンピックの認知度は低く、都が昨年、18歳以上の都民に実施した調査では、パラリンピックを知る人が93%に上ったのに対し、デフリンピックは15%にとどまった。

 過去4大会で計19個のメダルを獲得した競泳の いばら 隆太郎選手(30)(SMBC日興証券)は、聴覚障害を理由にスポーツクラブの入会を断られた人の話をよく聞くという。「大切なのは互いを知ろうとすること。いい結果を残して注目を集め、聴覚障害への社会の理解が進むきっかけにしたい」と意気込む。

 ◆ デフリンピック =英語で「耳が聞こえない」を意味する「デフ(deaf)」とオリンピックを組み合わせた造語。1924年にパリで初めて開催され、夏季・冬季大会がそれぞれ原則4年に1度行われる。100周年の節目の大会となる東京大会は来年11月15~26日、東京、福島、静岡の1都2県の17会場で21競技が行われる。