医療ニュース 2024.01.19

オンライン診療を受けますか?…「時間有効に使える」「誤診が心配だから対面で」

[The論点]

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、スマートフォンやパソコンを使った「オンライン診療」が広がりつつあります。通院しなくて済むという利便性から積極的に活用する人もいれば、これまで通りの対面診療が安心だと考える人も。あなたは受けたいですか。

[A論]遠くの専門医も受診可能

 東京都渋谷区の会社員(26)はぜんそくと慢性胃炎の治療のため、2か月に1回程度、オンライン診療を利用します。

 在宅勤務の昼休み、スマホの画面越しに、都内の診療所にいるかかりつけ医とつながります。処方された薬は、近くの薬局で受け取ります。「通院には片道30分ほどかかる。仕事が忙しい時期は特に、時間を有効に使えるありがたみを感じる」と満足しています。

 厚生労働省が2023年6月に公表した患者調査で利用者に理由(複数回答)を尋ねたところ「感染症の予防」(35%)が最多で、「仕事や家庭の事情で通院する時間がない」(32%)「対面診療より気軽に受診できる」(25%)が続きました。

 医師らでつくる「オンライン診療の健全な推進を図る有志の会」の山下巌・代表幹事は「発熱外来が 逼迫ひっぱく したコロナ禍では、画面越しに『やっと医師と向き合えた』と涙を流す患者もいた。感染症のパンデミック(世界的大流行)や大規模災害の時に必要な医療を受けられる。平常時も、どこでも受診できるため、忙しい患者でも治療を続けられる」と利点を強調します。

 地方の患者には、都市部に集中する専門医とつながる手段になります。沖縄県宮古島市の女性(46)の長女(12)は1年前から、1500キロ離れた大阪市立総合医療センターで働く、てんかん専門医の診察を受けています。

 島内に専門医はいません。初診では、発作の様子を撮影した動画などを確認してもらいました。専門医が勧めた薬に変更すると、1日4、5回あった発作がなくなり、落ち着いて暮らせるようになりました。女性は「車いすの娘を遠方の病院に連れて行くのは大変でお金もかかる。オンラインのおかげでよい医療を受けられる」と喜びます。

 自治体も活用します。福島市は昨秋、オンライン診療を提供する民間企業と契約し、休日の小児科診療への活用を始めました。市内の小児科診療所は減り、医師も高齢化しています。地域の当番医が確保できない休日に案内します。市保健総務課の担当者は「子どもの具合が悪い中、診療所の駐車場などで長時間待たなくて済む」とします。

 日本医学会連合のオンライン診療に関する検討会議の委員長を務める南学正臣・東大教授は「医師から、病院やクリニックで検査や処置が必要とされた時には必ず対面診療を受けるなどのルールを守ることで、多くの患者がオンライン診療の利便性を享受できる」と指摘しています。

[B論]機器の操作が難しい

 診察室で医師と話し、胸に聴診器をあててもらう。そんな対面診療に慣れた患者の中には、直接向き合わないことへの不安を訴える声もあります。

 東京都中野区の小売業の男性(46)は月1回、かかりつけ医がいる医療機関に通院して高血圧の薬を処方してもらいます。血圧は落ち着いています。

 慢性の病気で症状が安定した患者はオンライン診療に向いているとされます。でも男性は「対面診療のような安心感は得られない」と考え、利用するつもりはありません。「毎回の診察では、血圧以外の不調も相談できる。腰が痛ければ『どれどれ』と診てくれて、検査もスムーズ。画面越しではそうはいかず誤診も心配」といいます。

 予約や診察には専用アプリのダウンロードが必要な場合も少なくありません。デジタル機器が苦手な人もいます。同区医師会長の渡辺仁・大場診療所副院長は「高齢の患者から『オンラインで診察を受けたい』と聞いたことがない。ハードルが高いのだろう」と推測します。厚生労働省の調査では、コロナ禍の2021年1~3月にオンライン診療を利用した人の7割が40歳以下でした。

 糖尿病を患う主婦(76)は都内で夫と2人暮らし。「もし主治医に便利だからと勧められても、複雑なシステムを使いこなせない。そもそも耳が遠いので、画面越しでは言葉を聞き取りにくい」と話します。

 厚労省はオンライン診療の指針をまとめています。今、この指針を守らない医療機関が問題になっています。昨年11月、厚労省の調査により、指針が禁じる初診での向精神薬の処方が、不眠症の患者に行われていたことが分かりました。

 自由診療でのトラブルも目立ちます。国民生活センターは同年12月、ダイエット目的でオンライン診療を受けた患者から「たった1分の診察で薬を処方され、腹痛や下痢が出た」「問診が不十分なまま、薬を強く勧められた」などの相談が、同年4~10月に、前年同期の1・7倍に相当する169件も寄せられたため、注意喚起しました。

 オンライン診療のあり方などを検討する政府の審議会委員の佐藤 主光もとひろ ・一橋大教授(財政学)は「オンライン診療は、医療機関へのアクセスを平等にするための有効な手段。国は、誰もが使いやすい環境を整える必要がある」とした上で「いつでもどこでもできる手軽さを悪用する医療機関や医師への対策も進めないと、社会から信頼を得られず、医療として成長しないだろう」と指摘します。

実施は医療機関の1割

 オンライン診療が公的医療保険の適用になったのは2018年4月のことでした。当初は、対面診療を一定期間受けている患者のみで、病気も生活習慣病や難病などに限られました。

 20年、新型コロナウイルスの感染拡大が始まると院内感染を防ぐ利点が重視され、流行が収束するまでの特例措置で、初診の患者にも利用が認められました。22年、初診のオンライン診療は恒久化されました。対象となる病気も増えています。

 ただ、医療現場での普及は十分とはいえません。厚労省に実施を届け出た医療機関は、23年10月時点で1万108か所でした。1年前の1.6倍ですが、国内の全医療機関の1割程度にとどまります。ニッセイ基礎研究所の三原岳・上席研究員は「導入に慎重な医師も多い。画面越しでは触診や検査はできないため、誤診や見落としのリスクへの懸念が根強くある」と説明します。

 通信機器やシステムの導入にかかるコストや、医療機関の収入となる診療報酬が対面診療より低く抑えられていることも障壁になっています。

 日本遠隔医療学会の長谷川高志常務理事は「オンライン診療に対応する医療機関を増やすには、診療報酬の増額など国の後押しが必要だ。医療機関は、患者が自宅で測った血圧データを活用するなど、情報量を増やして対面と同様の質を目指す工夫をしてほしい」と話しています。(医療部 加納昭彦、草竹敦紀、鈴木恵介)

[情報的健康キーワード]アルゴリズム

 コンピューターは機械なので、自分の意思は持っていません。人間の指示を受け、あらかじめ設定された計算方法を用いて自動的に答えを示します。この計算方法をアルゴリズムと呼びます。

 例えばインターネットを検索したり、SNSを見たりしたときに、画面の一番上に目立つように表示するサイトや投稿を決めるのがアルゴリズムです。その計算方法は明らかにされていません。

 アルゴリズムは、データを適正に処理するためになくてはならないものです。しかし、その仕組みがブラックボックスになっていることは問題です。どんな基準で情報が示されているか分からなければ、アルゴリズムが示す情報を安心して受け取ることができないからです。

 こうした指摘は世界中で広がっており、アルゴリズムの透明性を求める声が高まっています。

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