大腸外科の未来
―― これから大腸外科はどのように変わっていくと思われますか。
高橋 私は手術を開腹でしかやっていなかったんです。世代が変わって、今は腹腔鏡やロボットが主流で、先生方が「90%が腹腔鏡やロボットに代わりました」と宣伝するぐらいになりました。それぐらい、変わっています。今後、若い先生方に私たちの気持ちを引き継いでいただきたいと思うのは手術だけが全てではないということです。外科医としては手術も含めてタッチするけれども、その先のことを考えて手術をしてほしいです。私自身の今後の大きなテーマは在宅医療ですね。
―― 今、研究されている尿の検体も在宅医療がきっかけですか。
高橋 その研究も在宅医療に発しています。がんの患者さんは尿の中にジアセチルスペルミンという物質がかなり出てきます。ジアセチルスペルミンはヒトの体内に存在するポリアミンと総称される物質の一種で、その尿中排泄量とがんとの関連性が特に高く、既存の腫瘍マーカーに比べて、早期がんのマーカーとして有用とされています。治療を行うと、ジアセチルスペルミンの数値が下がります。この患者さんは在宅でまだ生きていられるのかどうかということが分かる手法がないのかと思いながら研究したところ、数値があまり上がってこない場合だと、患者さんが結構、長生きすることが分かりました。在宅で治療している場合、往診で採血するとなると、それなりに時間がかかります。しかし、尿は持ってきてさえもらえれば測定できるので、尿でがんの進行状態が診断できないかと考えたのです。家で療養していて大丈夫な状態なのかどうかが目安として分かれば、患者さんだけでなく、ご家族にとっても非常に良いのではないかと思っています。
―― その研究は今、どういった段階ですか。
高橋 2015年度からは東京都の特別研究の一環として、イムノクロマト法により、ジアセチルスペルミンを測定するデバイスの開発とその臨床性能評価の共同研究を行っています。イムノクロマト法は抗原抗体反応を利用した免疫法で、検体中の抗原が標識された抗体と免疫複合体を形成し、その呈色の有無を目視で確認する測定方法です。妊娠診断薬やインフルエンザなどで応用されています。
―― 今後、大腸がんは制圧されるのでしょうか。
高橋 お薬も色々と良くはなっていくでしょうが、まだですね。ただ、外科の治療スタイルを考えると、大腸に関していえば変わってくるかもしれません。これからは腹腔鏡やロボットの手術という形になっていきますが、やはり外科医が減っていくのが一番困るし、怖いです。こんなに楽しいと言いますか、遣り甲斐のある分野だと思いますが、「よし、自分もやろう」というような若い人達が出てきにくくなっていますね。
―― そうした若い人達にどういうことを言いたいですか。
高橋 大腸外科だけでなく、外科全般的にかなり環境が変わってきています。これからの先生方は腹腔鏡やロボットの手術の技術を身に付けないといけないので大変です。私の時代は簡単でしたが、鋏の使い方など、消えていった技術もあります。昔は鋏の刃先からの感覚が全部、手に伝わっていて、膜の1枚をきちんと一発で切る技術を持っていないと手術はできないと言われていました。私はそういう技術を当院で詳しく教えていただいて、良かったと思っています。腹腔鏡を皆がするようになっても、私は鋏でやってきました。その分、血は出ますが、これはこれで良い手術の一つだと私自身は思っています。今はそういう手での感覚がなくなってきているというのは寂しいですね。
―― それでは、初期研修医や医学生の方々にメッセージをお願いします。
高橋 外科の仕事はきつくないとは言いませんが、やって良かったと実感できることはそれ以上に大きいはずです。周りの社会的な部分があるかもしれませんが、本来はどういう医師になりたかったのか、原点に立ち返ってみてください。私も最初はがんをしようとは考えていませんでしたが、がんは非常に幅広い領域ですし、ずっと続けてもいいなと思い、今に至ります。医学部に入って、本当は外科を専攻したかったけれど、諦めてしまったという人も中にはいるでしょう。外科でもいわゆるメジャーどころではなく、マイナーな科を専攻する方もいらっしゃいます。その中でメジャーな外科を選択するのは大変ですが、それだけ大きな喜びはあります。当院には志を持って来てくれた方を教育できる体制はしっかりありますので、是非、挑戦してほしいです。やっていて良かったと感じることが頻繁にある領域なので、この喜びを味わってほしいと願っています。
―― ありがとうございました。